Loading”OperateZeal"2

meishino

文字の大きさ
74 / 83

73 久々の高笑い

しおりを挟む
 そう言えばジェーンは元気がないように思える。それもそうか、栄養が足りていないんだから。


 いや、でも、今朝二人は婚約したのに、このテンションはいかがなものか。いやいや、仕方ないんだ。彼は仕事だって失ったんだから。そうだ!その件があった!


「あ、あのさジェーン「キルディア。」


「な、何?「ああいえ、何でしょう?」


「ん?「はい?」


 ……こんな被る事ある?同じことを思ったのか、ジェーンも手で口を押さえて笑っていた。


 私は彼に手のひらを差し出して、先に話してくださいと伝えたが、彼は首を振って私に手のひらを差し出した。じゃあと私は言った。


「あの……今日、帝国研究所に連絡をした。サイモン所長が丁度私に連絡を取りたいと思っていたらしく、先に彼の話を聞いた。そしたら、海洋調査機のマイクロバルブについて、ジェーンの助言が欲しいらしいよ。」


「おや、またマイクロバルブですか。一つ確認をしたいのですが、海洋調査機は帝国研究所の所属でしたか?ユークにある、海洋研究所では?」


「海洋調査機は古の機械で、海水の調査は新たな別の機械で行っているみたい。新しい調査機はユークの研究所が管理してるけど、オリジナルの方は帝国研究所が管理してるんだってさ。サイモン所長によると、オリジナルの海洋調査機自体が特殊な構造だから、敢えてそれを稼働させたままで、防水とかエンジンとか、機械の心臓部分の寿命を伸ばす研究に使用してるんだって。その機械もあの時代からあったものらしいね。」


「ええ、そうです。私が作ったものです。その機械もまだ使われていたことは、帝国研究所にいた頃にも耳にしませんでした。そうでしたか……。その件の助言をすることは構いません。」


 なんか元気ないな。彼。私は彼の肩をさすりつつ、言った。


「それとセレスティウムについても力を貸して欲しいみたいだよ?「しかし私は帝国研究所に戻るつもりはございません。私はこの家で、あなたの隣で、研究をするという任務を全うすることを決心したのです。何故なら、あなたが騎士団長で私が研究者では休日が異なりますし、勤務時間だって……!」


 すごい早口で言ってきた。私は落ち着いてよと言いたかったが、狼狽した彼の様子に言葉が出なかった。


「騎士団長の仕事がこんなにも多忙だとは思いもしませんでした。何が、休日は土日ではないですか。これでは平日どころか、休日自体存在するのか疑問を抱きかねない!あなたは騎士に戻ってから一日休みを取った経験がありますか?」


「と、取ってないけどそれは最初「最初からこれでは先が思いやられる。ブラックもいいところだ。仮にあなたの仰るとおり、引継ぎ期間は多忙を極めたとしましょうか。その先に待っているのは、出張の嵐ですよ。ユークに行き、シロープタマラヴィノクール、はたまたボルダーハン火山と、そこに救援要請がある限り、あなたは帝国中を駆け回り続けるのです。」


「うーん……それは考えすぎだよ。確かに大きな戦いとなれば、陛下の指示通りに配置された場所に向かうけれど、そもそも私はもうボロボロの体だ。後を育てる為にも、トレバーやオーウェンに体力を使ってもらうことになる。」


「私が言いたいのは、それでも私はあなたの仕事を応援すると言うことです。」


「え?」


「ですから……、」と彼がジュースを一口飲んだ。「私はあなたの隣にいます。どこに派遣されても共にいます。あなたの隣で研究をします。ベースキャンプ?イスレ山で野宿?結構ですとも、私にはウォッフォンと言う素敵な相棒がいますからね。設計ならこれで十分です。そうだ、ウォッフォンに強靭なアンテナを搭載しようか。どこにいても通信環境があれば、更に捗るに違いない。クッ……ふふははははっ……!」


「その笑い方久々に聞いたけど……って、え!?任務地についてくるの!?」


「……ですから、私は一人で研究をしたいと願いました。ついて行きますよ。チェイスに言えば許してくれます。」


「いや、危ないから……。」


「何を言いますか、古の将軍だって、隣には奥方をはべらせて進軍したものです。終わる時は共に終わる。それこそが私の望む終わり方です。それに、トレバーに何か助言をしても構いません。」


「あ、ああそう……。」


 ごめんねトレバー、彼、ついてくるみたいです。と私は苦笑いしながらジュースを飲んだ。そして私は言った。


「でも、私が言いたかったのはジェーンが帝国研究所に戻れるってことじゃないよ。」


「ほう?」


 何その半信半疑。


「サイモン所長がジェーンに助言を欲しがってたし、ジェーンは一人で研究を続けたいと言ってたでしょ?折角だから、ジェーンは個人の研究室を持っていると役所に申請しといた。だからこれからジェーンは個人で依頼があれば受けられるし、逆に帝国研究所でもどこでも調査依頼を出せる。まあでも、サイモン所長は助けてあげて欲しいけれど、かなり切迫した様子だったから。」


 気付けば彼が頬を赤らめていたので、私は二度見してしまった。今のどこに、照れる要素が……?彼が言った。


「そ、そう言うことでしたか。あなたが、私の為にそこまでしてくださるとは予想外でした。ありがとうございますキルディア、私はあなたを怒らせたのに。」


「な!それはもう、過ぎたことでしょ。あ、これも相談せずに勝手にそうしたけど、良かった?嫌なら撤回出来るよ……。でも嫌じゃなかったら、ウォッフォンのID確認画面から、個人事業のページにアクセス出来るようになってる。」


「ほう!」


 ジェーンが早速ウォッフォンのホログラムを開いて、ページにアクセスをした。


 初期テンプレのままの企業ページが表示されて、トップにはシードロヴァ研究室というタイトルがついていた。彼は「ふふ」と喜んで、いきなりソース画面を出して、ページをレイアウトし始めた。


 ……喜んでくれて良かったけど、今やる?


 まあ彼らしいかと私は微笑んでジュースをゴクッと飲んだ。


 さて、そろそろ彼の焼いてくれた卵焼きを頂こうとしようか。私はフォークで丁寧に卵焼きを一口サイズに割った。ほんのりと甘い香りが私の心を鷲掴みにした。


「キルディア、ありがとうございます。」


「いいえー。」すごい勢いでピコピコし始めたよ、この人。


「海洋調査機のマイクロバルブは、火山測定装置のものとは全く異なる構造です。帝国研究所にはシードロヴァ研究室から助言をさせて頂きます。ふふっ。」


「う、うん、宜しくね……。ジェーンがとても喜んでくれて、良かった。」


「喜ぶに決まっております。あなたは昔から、私を喜ばせるのが得意なのですから、ふふ。」


 その時だった。リビングのドアのところから「ブッ」と言うメリンダの吹き出し笑いが聞こえた。


 ……あの人め、盗み聞きしてたのねと、私はドアを睨んだ。それからジェーンを見ると、ブッを聞いていなかったのか夢中でページのレイアウトに勤しんでいた。


 なんか、入る隙がないなぁ。それもそうか、ジェーンとソースの間には一ミクロも入る隙間なんて存在しないのだ。でも彼が喜んでくれたなら良かった。どんなプレゼントよりも、これで良かったのかも。


 私が卵焼きを口に運ぼうとした時に、ジェーンが話しかけてきた。


「キルディア、サイモンの件、謹んで依頼をお受けしましたが、私は毎晩一品のおかずを調理したいのです。研究室はありがたいものですが、毎日十五時には営業終了します。」


「ジェーン、ふふ、それは嬉しいけどさ、忙しい時は無理しておかずを用意しなくてもいいからね。ほら見てよ、今だって熱中しているし、ジェーンは一度集中したら止まらないのを私は知ってるから。」


 彼はピコピコとタイピングしながら答えた。


「確かに私は集中しがちです、天才ですからね。しかし、あなたの帰りを待って料理をすることに中々のやりがいを感じました。騎士団長の為に、私も一肌脱ぎます。」


「ふふっ、ありがとう。」


 彼が私を見て笑った。私も微笑んでから、フォークを口に運んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...