スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

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第39話 一緒にお食事

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 職員室で家森先生にお弁当を渡した後、帰宅した私はある程度お夕飯の下準備を終えた後にPCで動画を見ていた。学生だし本来ならこういう時間に勉強をするべきなのかもしれないけど、このグリーン寮でそう過ごしている人は私含めて皆無だろう。

 ん~、と呟きながらジーンズのポケットに入っている深緑色の懐中時計を取り出して時間を確認した。16時半だった。

 もう学園の授業はとっくに終わっている時間だ。今日は家森先生の部屋でご飯を作って食べるという約束があるけど、どのタイミングでお邪魔すればいいのか分からない。職員室に迎えに行くなんてのは絶対に出来ないし、かといってまだ連絡はない。

 マメに連絡する派の先生が全ての業務が終わってから連絡しないことなんて考えられない。だとしたらまだ職員室で仕事しているのかな。先生という職業は、生徒の私たちが思っている以上に準備とか付随する業務が大変なのかもしれない。

 でもそろそろかもしれないし、リュックにタッパー入れようと思っていたその時だった。携帯が鳴ったのですぐに確認した。

 ____________
 お疲れ様です。
 ただいま帰宅しました。
 お待ちしております。
 家森
 ____________

 おお、きたきた。私は、お疲れ様です了解ですと返事して料理の入ったタッパーを入れたリュックを背負って、自分の部屋を出た。こっそりと人目につかないように寮を出て校庭を歩いていると、タライさんとその愉快な仲間たちがサッカーしているのが見えたので、物陰に隠れながら進んだ。

 この動きはムービーチャンネルでスパイがやっていた動きだ。屈みながら足音を立てずに進んで校舎内に入るともう人の気配はなく、大きな窓からオレンジ色の夕焼けが入り込んでいて豪華な装飾の柱や壁の彫刻が美しく輝いていた。

 ちょっと綺麗だなと思って眺めてから、裏口から出て林道を通っていく。職員寮はもうすぐだ。ここまで誰にも見られていなさすぎて流石に自分を完璧だと思った。

「やっと着いた。」

 私は職員寮の門を開けた。鍵はかかっていなかったので何のための門なのかちょっと分からない。いつ見ても大きいこの職員寮に来るのは2回目だ。ちょっと緊張しつつ中に入ると、寮の入り口のところにポストがあるのを発見した。

 201号室の家森先生のポストはスッキリしているけど、102号室のシュリントン先生のポストはもう郵便物が入らないのではと思えるくらいにギッシリと手紙が詰まっている……。

「お姉ちゃんだあれ?」

 え!?

 背後から声がしたので振り返ると、そこには栗色の髪の毛を二つ結びにした、ピンクのTシャツにベージュのスカートの小さい女の子が立って私のことをじっと見ていた。この子は一体……?でも先に聞かれたしここは自己紹介しておいたほうがいいのかな?そうだよね、そうだよね。

「私はヒイロって言います……あなたは?」

 相手はお子さんだけど敬語で話しかけてしまった。初めてのお子さんとの遭遇に体から冷や汗が出る。そんな私を尻目に女の子はニコッと笑った。

「私はソフィー!ヒイロちゃん何歳?」

 なんだろう。会話しないとダメなのかな。でも純粋にニコニコしてくるソフィーを無下に置いていくなんてことは出来ない。

「私は23歳だよ。ソフィーは?」

「4歳!」

 意外と小さかった……。

「そっか、よろしくね。じゃあ私は上に行くね。」

「上はお兄ちゃんとお姉ちゃんしかいないよ?」

 ソフィーの横を通って階段を上ろうとするとそう言われてしまった。この職員寮の構成を知っているのだから、彼女はここに住んでいるに違いない。じゃなかったら怖い。もしかしたら私だけが見える存在なのかもしれない。

「い、いいんだよ……とにかく2階に行くから。」

 彼女の横を通り過ぎて階段を上がり始めると、後ろから足音が聞こえてきたので振り返る。なんとソフィーが付いて来てしまった。私の後ろを手すりを使って上がってくるので、階段の途中で止まった私はソフィーのことをじっと見ながら言った。

「どうしてついてくるの?どうしたの?」

「ヒイロちゃん遊ぼう!まだママのご飯出来ないんだって!パパも今日は遅いんだって!」

「え!?……ママ、パパ?パパって誰?」

 切実に知りたい。

「パパはシュリントンだよ!ハゲてるの!知ってる?」

 いきなり途轍とてつもない威力の爆弾をぶつけられたような発言に私は笑いをうまく堪えることが出来なかった。ソフィーもケラケラ笑っている。しかし……そうなんだ!シュリントン先生にはお子さんがいたんだ!しかもこんな可愛い娘さんでまあ……。

 と思っているとソフィーが私のTシャツの裾を掴んできた。

「あそぼ?ちょっとだけ!」

「うーん……じゃあ、そうだ!これをあげよう!」

 私はリュックの中から以前リュウにもらったグラフィックという文字のアートのシールを出してソフィーに渡した。彼女は受け取って笑顔になった。

「ありがとう!」

「うん!ノートとか、紙に貼ると面白いよ!」

「じゃあちょっと待ってて!待っててね!絶対待ってて!」

 そう叫ぶと彼女はチタチタと階段から降りて去ってしまった。私は携帯を念のためにチェックしたけどまだ連絡は来ていないので、言われた通りに待つことにした。

 すぐにまたチタチタとソフィーが走って戻ってきた。私は階段に座りながらソフィーが持ってきたものを見た。それは花柄のピンク色のノートだった。小さい腕の中にはそれが2冊入っている。

「これ一個あげる!」

「え?いいの?」

 ソフィーが差し出してきた片方の花柄ノートを受け取った。中はまだ何も書かれていない。

「ありがとう!」

「うん!お揃いね。これは私のだからシール貼るの手伝って!」

 ソフィーは私の隣に座り、彼女のノートの表紙をじっと見つめて、どこに貼るか私と相談した後に表紙のど真ん中にシールを貼った。

 おかげで彼女の可愛いらしいノートが一変してグリーンクラス特有の厳つい雰囲気をイメージさせるようなノートになってしまった……後でシュリントン先生に怒られたらどうしよう。

 私は立ち上がりながら言った。

「ノートくれてありがとう、大事に使うね!」

 ソフィーも立ち上がり、胸にノートを抱えながら言った。

「うん!ねえ明日あそぼ!」

「え……」

 確かに明日は、っていうか別に毎日学校が終わったら暇ではある。

 暇つぶしに寮の入り口でたむろしているグリーンクラスの生徒たちと絡むという選択肢もあるけど、明日は特に別に予定はない……でもどうしよう。勝手に遊んでシュリントン先生に怒られないだろうか。

「他に遊ぶ人この辺にいないんだもん。幼稚園帰ったらあそぼ!」

「幼稚園通ってるの?」

「うん!毎日バスで街に行ってるよ!」

 すげー、毎日街に行ってるんだ……それにしても確かに、この学園にはソフィー以外に子どもはいないだろうし大人たちの中でも私は比較的生まれたばかりで精神年齢が近いのかもしれないし、親近感持ってくれたのかな。私は頷いた。

「わかった。学校終わったら明日遊ぼう!」

「わーい!じゃあ明日ヒイロちゃんの学校終わったらそこの玄関ノックしてね!待ってるから!」

 ソフィーが階段から見えている場所にある玄関を指差して言った。きっとあれがシュリントン先生の自宅なのだろう。出来れば彼の自宅で遊びたくないので外で遊ぼうって言うしかない。まあでもソフィーが喜んでくれるならいいやと思って私は頷いた。

「わかった。明日ノックするね!じゃあまたね。」

「うん!またね!」

 ソフィーは何度も手を振ってくれた。明るくて可愛い子だ。

 きっとドラゴンが来たあの時、シュリントン先生は生徒たちだけでなくソフィーも奥さんも守りたかったのだろう。だから門を早めに閉じたんだ。そう考えると少しだけ彼のことを理解出来た気がするのだった。

 なんだかんだ時間が経ってしまった。メールも来てないし大丈夫だろう。職員寮の2階に上がり家森先生の部屋の前まで来ると、私は呼び鈴を押した。

 するとすぐに扉が開いて、白シャツを肘まで捲り上げてベージュのチノパンを履いた家森先生が迎えてくれた。

「いらっしゃい、遅かったですね。迷った?」

 いえ、と答えつつ中に入ることにした。そのリビングは以前ベラ先生の部屋でも見た淡い桃色の壁紙に包まれていた。なるほど、白桃色の壁紙はこの職員寮の色なのかもしれない。

 スタイリッシュなデザインのダークブラウンのテーブルと椅子があるだけの綺麗で広いリビング。コーヒーの匂いが漂っていて、テーブルの上には先生のものと思われるPCと、いつも授業で使っている魔道書やテキストが積んで置いてあった……ああ、やっぱりここは家森先生の部屋なんだ!そう思うと鼻息が荒くなりそうになった。平常心、平常心!

「やっぱり広いですね!」

 キョロキョロしていると家森先生がどうぞ座って、と椅子を引いてくれたので私は座ることにした。木の板をぐにゃりと曲げたようなデザインの椅子にはクリーム色のクッションが乗っかっている。見た目も座り心地もいい椅子だ。これが家にあるなら勉強も捗るだろうに。

 私は椅子に座ってリュックから材料の入ったタッパーと調理器具を出すと、先生がガランとしたキッチンにフライパンやまな板を並べてくれた。

「僕の部屋にも調理器具があればよかったのですが。こんなに重たいものをわざわざ持たせてしまってごめんね、ヒイロ……ヒーちゃん。」

 言い直してきた……それにさっきから話し方がいつもよりも砕けた感じがするのでちょっとドキッとしてしまう。でも、先生はこの部屋にも来たマリーにもこう言う話し方をしたのかな。

 ……ん~何を考えてしまったんだろう!もしかしてこれが嫉妬?初めて自覚した感情に戸惑いながら立ち上がって、すぐそこにあるキッチンで早速フライパンに材料を入れて炒めることにした。

 先生はソワソワしながら私の周りを動いてフライパンの中を覗いてくる。そんな仕草を普段するような人ではないのに、ちょっと微笑ましい。

「ふふっ、部屋にいるからなのか先生がいつもよりフランクな感じします。」

「え?……確かにそうでしょうか。ダメ?」

「ダメじゃないですけど……ちょっと。」

「ん?」

 先生の方をチラッと向いて見ると彼は顎に手を添えながら私をじっと見つめていた。見たことない仕草にいちいち胸がときめく。あとそんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……まあいいや。ちょっと思ったことを聞くことにした。

「マリーにもそうだったのかなって思いました。そうですか?」

 恥ずかしいので彼の方を見ないで答えを待ちつつ、調理に集中することにした。すると先生はふふっ、と笑いを漏らした後に無言になった。

 なんで黙っているんだろう。やっぱり当たってたからなのかな。別にいいけど、良くない。こんなひねくれた感情を持てるなんて思わなかった。思わず私のフライパンを炒めている手の動きが早くなる。しかし材料がこぼれないように的確にシャッシャッと炒められるので、きっと以前の私は料理をしたことがあったに違いない。そう考えてもう彼のことは何も考えないことにした。そう、私は料理を作る為だけにここへ来たの
「ヒーちゃん、もしかして妬いてる?」

 がァァ……図星を言われて思わず目を閉じて口を開けるリアクションを取ってしまった。もう体を使って肯定しちゃったじゃん……馬鹿正直な自分の体に嫌気がした。先生はまた微笑みながら見つめてくるので、もう私は耐えられなくなった。

「もう!いいですから!妬いたとか妬いてないとか、今はとにかくこのハンバーグを焼きますから!先生は出来上がるまで何か明日の準備とかしたらいいじゃないですか!もうこっち見ないでください~!」

「え?今日はハンバーグですか?」

 え?ダメなの?と思って先生の方を見るとそれはもうキラキラとしたまなこで私の方を見ていた。ああ、逆に大好物だったのね……それならよかったよ!私は微笑んで補足した。

「はい、あとはポテトサラダです。それはもう出来てタッパーに入ってますから、そうだ。冷やしておいたほうがいいかも……あ。」

 私のリュックを漁った家森先生がポテトサラダの入ったタッパーを冷蔵庫に入れてくれた。その時チラッと見たけど、大きく黒い冷蔵庫の中にはクリスタルリキッドのボトルが1本しか入ってなかった。いくら料理をしないって言ってもガランとしすぎでしょ……。

 炒めた玉ねぎをボウルに入れてひき肉と卵と調味料を混ぜてこね始める。チラと家森先生を見ると近くのテーブルに座ってPCを操作し始めていた。

「お言葉に甘えて明日の授業の準備をします。何か手伝って欲しいことがあったら教えて。」

「はーい」

 ジュ~とお肉が焼ける音の奥に、カタカタと凄まじい速度のタイピング音が聞こえてきた。チラッと振り向いて彼が作業をしている様子を見ると、魔道書を見て考えた仕草をした後にカタカタカタとノンストップでPCのキーボードを見ないで操作していた。そしてチラッと目が合った。

「ヒーちゃんどうしました?」

「え?ああ!打つの早いなと思って見てました。その技術があればベラ先生のレポートの課題も早く終わりそうだなって。」

「はっはっは!……確かに、彼女はよくレポートの宿題を出すそうですね。」

 家森先生が笑った……もう今宵は素顔の先生を見てるようで驚くことだらけだ。

 私はハンバーグを何回かひっくり返した後にしっかりと焼けたか目視で確かめてからお皿に盛ってテーブルに乗っけていると、先生もPCや魔道書を片付けて二人でお夕飯の支度をした。

「なんだか今日はご馳走になりましたね!お昼もお弁当だったのに、お夕飯もこんなに豪華で幸せです!」

 私の言葉に家森先生がグラスに麦茶を入れながら言った。

「ふふっ、そうですね。僕も幸せです。この部屋で誰かと一緒にこんなご馳走を食べられるとは思っていませんでした。さあ温かいうちに食べましょう。」

 ルンルンの家森先生が椅子に座ったので私も彼の向かい側に座る。手を合わせていただきます、と挨拶してから二人で同時にハンバーグを頬張った。

『んん!』

 我々は同時に言った。自分で作ったって言うのもあるけど、普通に美味しい!学食を超えているかもしれない。ちょっと硬いけど、お肉の美味しさでカバー出来ていると思う!それに目の前の家森先生が夢中で頬張っている姿を見ると、頑張って調べて作った甲斐があったと心から思った。

「ヒーちゃん。」

「はい?」

 彼はモグモグと小動物のように早く咀嚼そしゃくをしばらくした後にごくんと飲み込んだあと、私を見つめていった。

「高崎には料理作らないでください……いえ、他の誰にも作らないでください。お願い。」

「……え?どうしてですか?」

 急に何を言ってきたんだろう。私が聞くと家森先生は少し目線を逸らし、彼の頬が少し赤く染まり始めた。その明らかに照れた表情を見て、つい私も顔が熱くなってしまう。
 先生は一かけらハンバーグを口に入れてから言った。

「いけませんか?独り占めしては。」

 それは独占欲って言うんだよね?ドラマチャンネルで見て最近知ったものだ。……ふーん。じゃあ私も先生の真似をしてみよう。

「じゃあ先生も敬語じゃない話し方するの、私だけにしてください!」

 一瞬目を丸くした先生がすぐにふふ、と微笑んで答えた。

「それはもう既に、あなただけにしかしていない。」

 ガッ!……なるほど、なるほど。ドラマチャンネルのキャラクターがどうして独占欲を出すのか、その気持ちが理解出来た気がした。胸の奥を揺さぶられた心地の私は、静かに目を閉じるしか出来なかった。
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