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まるでエンジェル火山測定装置編

73 紅蓮憤激戦

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「おおお!」

 と、新光騎士団の咆哮が、私とタールに向けられた。新光騎士団の槍兵が、一気に我々を目掛けて突撃し、遠くからは射撃され始めた。

 すっかり怯んで、へっぴりごしになってしまったタールを、後方の地面に突き飛ばした私は、一番先に向かって来た槍兵の突きの一撃を、横へのステップで軽く避けて、兵の手の甲に蹴りを入れて、槍を落とさせた。

 それを奪って、今度は向かってくる敵兵を一人一人確実に、なぎ倒していく。柄の部分で鳩尾を突き、槍を振るって兵を吹き飛ばし、脚を刺して、動けなくする。もう一人近づいて来た。槍で突こうとしたが、わき腹に鈍い痛みが走った。近くにタレットが居て、それの放った魔弾が、私の防弾チョッキに当ったのだ。

「全く、女ひとりに何を手こずっているの!?仕留められないなら、タレットでやりなさい!相手は近接のみなんだから。」

 女騎士の指示に、技術兵らしき兵士がコントローラーでタレットを動かし始めた。それが次々と私を迎撃してくる。これはまずい、やはり一人では限界だ。真横に走って、タレットの連射を避けていたが、もう一台のタレットが背後に来ていた。脚を撃たれる。そう思った瞬間に、そのタレットにバブルのような波動が当たり、タレットは頭部を高速で回転させて、おかしな動きを繰り返した。

 通路の方で、スコピオ博士をはじめとした、グレン研究員の方々が、タレット目掛けて磁気砲を撃っている。それが当たるとタレットは酔っ払いのようにおかしくなった。磁気砲が効いているんだ!すごい!私は飛びかかって来た剣兵を、元気に槍でぶっ飛ばした。

「全く使えないガラクタめ……!」

 女の声が聞こえた。

「お、おお!思ったよりも効いてるぞ!……グレンの磁気砲を舐めんな~!いけいけ!」

 スコピオ博士の陽気な声が聞こえた。あまり調子に乗らないで欲しいと思っていたが、彼は積極的に通路からこちらに向かって飛び出て来て、タレットに攻撃を仕掛け始めてしまった。それに続いて、グレン研究員達も通路から飛び出している。私は兵士たちと対峙しながら、彼らに戻るように叫んだが、その声は届かなかった。

 更に、グレン研究員が槍兵に襲われ始めると、今度はタマラ採掘隊や、農民からなるお助け隊までこの広場に飛び出して来てしまった。皆は農具やドリルをブンブン振り回して、研究員を守っている。しかし……!

「まだ出ないで!……戻って!」

 また一人、槍兵を私は蹴り飛ばした。そして私の真横で、タマラ採掘隊の一人と、騎士の一人が、鍬と剣でつば迫り合いを始めたのだ。私は騎士の方を、槍で殴って気絶させたが、気付けば、この火山の広場が、大混戦になってしまった。

 このままでは数に飲み込まれてしまう。皆が帰れなくなる。何とか態勢を立て直さなければならない。私は味方に固まるように叫びながら、槍を振るって、何人もの騎士達を一気になぎ倒しながら、ヘッドである女騎士に向かって行った。

 しかしすぐ近くで、農民が射撃兵に脚を撃たれ、転んでいるのを発見した。私は敵大将を先に討ち取ることをやめて、その農民を庇うために、射撃兵の後頭部に槍を振り下ろした。射撃兵が厄介だ。私は射撃隊を次々と襲った。

「何やっているの!?あの女を殺して!」

 飛んでくる銃弾を素早く避けて進んで、射撃兵の集団の中に飛び込んだ。ここまでくると、近接に慣れていない彼らは少し怯む。私は容赦無く鳩尾をドコドコ打った。

 だが、先程の女騎士の命令に反応した魔術兵が、私に向かって炎の弾を飛ばして来た。それは飛んでいる私の着地地点に向けられていたものだった。これは避けきれない。覚悟を決めたが、それは大きな一振りによって、掻き消された。

「ここに居るのは、お前だけじゃない。」

 何そのかっこいいやつ。そう言ったクラースさんが、その魔術兵の頭を戟で叩いて気絶させると、他の魔術兵にも向かって行った。先程から魔術兵が黙っていたのは、彼が回り込んで、魔術兵を先に倒していたからだったのだ。頼もしかった。

 高温と兵力差、長くは持たないだろうから、今やれるだけやろうと足掻いても、体力だけが奪われていく。タマラの採掘隊やお助け隊から、次々と怪我人が出始めた。怪我した彼らの中には、騎士に追い討ちをかけられる者もいる。

「もう下がって!皆んな、下がって態勢を……。」

 私の号令に皆が従って、通路に下がろうとするが、騎士が我々を取り囲むように立ち、槍や剣を我々に向けた。これでは退路が封じられた。

 近くでタマラの民が騎士に殺されかけているのを、私は騎士の腹に槍を刺すことで回避した。もしかしたら、致命傷かもしれなかったが、致し方なかった。すぐに三人に襲われた。混戦するには相手の人数が多過ぎる。視界にちらりとクラースさんが映った。彼は今、三人の剣兵を相手に戦っていた。

「よしよし、いい子だよ、あんた達。そのままその女を殺しなさい。」

 女騎士の号令に、騎士団の兵士達は一斉に私に突撃した。槍を振るって威嚇するが、横から一人の兵士が飛び込んできて、私は羽交い締めにされてしまった。すぐに周りの兵士から槍で突かれそうになったが、その槍に蹴りを入れてぶち折り、回避した。

 何人がかりで腕や足を押さえ込まれた。先程、私が槍で腹を突いた兵士が、お腹を押さえながらやって来て、私の身体に何度も拳を撃ち始めた。まだ耐えられる。だが、違う兵に頬を殴られると、意識が飛びそうになった。

「キリー!」

 クラースさんが自分に群がる兵士を払いのけて、こっちに来てくれようをしているが、すぐに他の兵士たちに囲まれてしまった。戟を思いっきり振り回している。私はもがくが、動くことも出来ないまま、何度も身体に殴りや蹴りを与えられる。

「ぐ……ぐ……」

 女騎士が近づいてくる。

「ダメよ、あなた、殺すときはちゃんと殺しなさい。じゃないと、今みたいにやり返されるんだから。と言っても、もうあなたは終わり。何だか、あまり殴られても鳴かないのね、つまらない。ボットも使えなくなったし、トドメは私が刺してあげる。」

 目の前に来た女騎士が、口から血を流す私に向かって、ナイフを振り下ろそうとした。しかしその時、水属性の銃弾が数発飛んできて、ナイフに命中し、吹き飛んでいった。私はその方向を見た。そこには腰の引けた、ガスマスクの女が、ピンクの短機関銃を構えていた。

「邪魔しやがって……あの女もおやり!」

 女騎士が叫ぶと、周りを囲んでいた騎士達が、ガスマスクの女に向かって走り始めた。その女は後ろ向きに走りながらも、ガガガガと水属性の魔弾を短機関銃から放ち続けている。短機関銃のブレ具合なのか、彼女の実力なのか、ヘッドショットを連発して、追っている兵士たちがバタバタと倒れ始めた。

「きゃあああ!ストレスで吐きそう!おええええ!」

 女は奇声をあげながら、後ろ向きで走って逃げて行き、今度は的確に敵の急所……に銃弾を食らわし始めたところで、それが彼女の実力なのだと理解した。一発、また私は兵から殴打されたが、まだ希望はある。

 慌てて人数を増やして、さっきの女性を追っている騎士だが、やたらとガスマスク女の逃げ足が速い。何だ、それほどの脚力があるなら、調査部に変更すればよかった。

 その騒ぎに一瞬気を取られたのだろう、私を拘束している兵士の力が緩んだ。次の瞬間に、彼のあごに頭突きを食らわした。自由を得た私は、頭突きで倒れた兵士のブレスレットから剣を取り出し、周りの兵士を斬った。

 だが、次から次へと人が増える。人数の差から、これだけ暴れても騎士の顔は余裕そのものだった。すぐそばで剣兵に襲われたグレン研究員を、どうにか救出した。だが、周りには、またピンピンとした様子の兵士が十人ほど駆けつけて来てしまった。

 意識が少し朦朧とする。弱気になってはいけない。だが、何か考えなければ、この状況は悪化するばかりだ。その時だった。ふと、ぶつかり合う金属音、ドリルの動く音、兵達の叫びの中に、何か地響きのようなものが聞こえた気がして、私は剣を振りながら耳を澄ませた。

 火山のゴォーっという音の奥に、確かにドドドと地面を打つ地響きが聞こえてくる。大量の足音だった。敵の増援なのか、だとしたら私たちはもう終わりだ。最後の望みを賭けて、周りにいる味方には、私の周りに固まるように伝えた。

「何の音だ……?」

 少し離れたところで女騎士も耳を澄ませて立っている。それを見た私は、持っていた剣を彼女に向かって投げた。女騎士は気付き、飛んで避けようとしたが、避けきれずに、彼女のマスクと頬が切れた。白いマスクが紅く滲んだ。

「貴様ああああ!よくも私の顔を!」

 女騎士は私に向かって氷属性の魔術を数発放った。尖った氷が素早く飛んでくる。私は両手を顔の前に構えて、防御の姿勢を取った。しかしその氷は、突如、私の目の前に現れた、謎の大きな水属性の魔術による防御壁にぶつかり、砕けた。

「な、なに!?」

 驚き、辺りを見回す。すると、通路のところに、フードを被った青いローブの集団が、魔術の構えをして、ずらりと並んで立っていた。真ん中にいる男が、大声を放った。

「これより!我らヴィノクールの民は!愛しい我々の娘であるアマンダの救出を致す!帝国新光騎士団とあれど、御覚悟されよ!」
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