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6 斜め屋根の白い家
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私は引きずられるままに、ムーンストリートからレンガ広場に出て、商店や屋台で活気のある広場を抜けて、そのままヴィノ大通りという、ヴィノクールで一番の高級住宅地に入った。
高級そうなレストラン、衣服屋、銀行の隣にはキラキラした謎のサロンがあった。ああいう金持ち独特の雰囲気は何なんだろうか。お金があればああいう雰囲気に浸りたくなるのだろうか。
私は死んだ目でズルズル滑って行った。まだ止まることはない。そして一つ、気付いたことがある。
ムーンストリートは街灯がまばらで暗かったので気づかなかったけど、私の滑っていく先にはイオリの後ろ姿があるのだ。
彼は別に緊張もしない、さも同然だという様子で、この高級住宅地を歩いている。一人で。あのバッグを抱えて。
彼に向かってきめ細やかなアスファルトの上を、体育座りでスイーンと移動してる私は、どういうことなのだろうと思考を巡らせた。
どうして屋敷を出られた?どうしてイオリに引き付けられるように移動してるんだろう?全てが分からない。
商業用の区画を抜けて、イオリはこれまたオシャレ極まりない住宅地の通りに入った。どこもかしこも豪邸だらけで、この世界の有名人がこぞって暮らしてるエリアだ。
中庭をライトアップして何が楽しんだろうか。彼らに一度、トレーラーハウスに住まわせたい。狭いリビングの方が掃除が楽だよって言いたい。あ、そうか。お手伝いさんがいるんだね。
ここにきてから私の卑屈が止まらない。貧乏人とはそういうものなのだ。食べていくには、人を撃つしか無かった私。いつか幸せになれるんだろうか。
あ、死んでるんだった。もう無理だ。私は一人で苦笑いをした。もう既にゲームオーバーを迎えてるんだった。
その時だった。イオリが門の中にひょいと入った。見てみると豪邸というほどではないけど、一人で住むにしては大きい、斜め屋根がインパクトある、白い三階建の一軒家だった。
ちょっとした庭には円形に形作られた木が何本もあった。庭師がやってるに違いない。私は苦笑いをした。他にも小さな噴水があり、その周りには赤い花々が咲いていた。
そしてライトアップ。虫除けマシン。イオリは玄関から入って行ったし、ここは彼の家なのだろう。とても豪華な家ですね、服装からしても彼は相当の収入があるの分かってたけど……。
こんな、金持ちの世界を満喫したくない。変に味わうくらいなら、知らないでおきたいのだ。さっさと別の場所に行きたいところだが、さっきから私のズルズルが停止している。
えっ……ここで待機しなきゃいけないの?それはちょっと……他にないのだろうか、納屋とか。そういう狭いところがいいんだけど、こんな、ロマンチックな庭園よりも。
全然落ち着かない。一回だけ、お金持ちのターゲットを仕留める為に、こういうラグジュアリーな場所に入ったことはあるけど、それだって何時間だけだから慣れる事は無かった。
仕方なく、私は噴水のそばにある石製のベンチに座った。白いベンチで、背もたれの角に、謎の天使がくっついている。何これ。
どうしよう、いっそのこと、イオリにこのことを知らせるべきかな。あの屋敷から出られたし、そのことを彼は喜んでくれるかもしれない。あとこんな天国みたいな場所で、私を放置しないで頂きたい。
私はスッと立ち上がり、玄関に向かった。大理石の道が間接照明でほんのりと色づいている。スターアワードの時のレッドカーペッドを思い出した。玄関まで、私はムービースターの気分を味わった。
さて、目の前には扉がある。チャイムを押せば、イオリが出てくるだろう。あと気になる事が一つある。ゆっくりと、じりじりと、私が玄関に引きつけられている気がするのだ。
……。
それは気のせいではなかった。一歩後ろに下がろうと足を上げたが、重力のような強大な力で足の動きが食い止められた。
もしや、イオリとの距離が徐々に短くなってるのでは?と思った。これは一体何なの?と、兎に角知らせよう!私はインターホンを押そうとした。
突然、急に体が浮いた。「おわっ」と口から出た。空中でもがいて、謎の浮遊に私は慌てた。このタイミングで昇天はしたくない。まだやり残した事があるんだから!
「ああああ……!」
小声で叫んだ。私の体はとうとうフワリと舞い上がり、夜風も吹いていないのに、段々と上昇した。嫌だ、まだ犯人はティーカップを見ていない!何とか必死に窓の柵に捕まったけど、力に抗えきれずに、私は手を離した。
もう三階部分まで浮いてしまった。これはもう無理だ、夜空まで飛んで行くのも時間の問題だと諦めた瞬間、私の上昇は止まった。ふわふわ煙のように漂っているけど、私の体は三階の窓の前で固定された。
大きな窓だった。壁一面埋まるほどの大きなガラスで、奥にはベージュ色のカーテンが掛けられている。何の部屋なのかは分からない。一般的に三階建ての人が三階に何を作るのか、知る由もない。
パッと明かりがついて、私がビクッとした。直立した姿で浮いている私は、体を硬らせて、カーテンの奥に目を凝らし、耳を済ませた。
間接照明なのか、ベージュのカーテンにはベッドと思われる影と、人影があった。人影はネクタイを取る仕草をして、それをベッドに放り投げた。体格や身長、髪型から考えて、イオリに間違いなかった。
私は無駄に興奮してきた。鼻息がスーハー止まらなくなってきた。もしかしたらイオリのこと、結構好きかもしれない。そんな片想いの兆しを発見した段階で、目の前には彼の寝室がある。
いてもたってもいられなかった。今なら覗けるかもしれない。ニヤッと笑った私は、窓辺に触ろうとそっと手を伸ばした。しかしその時だった……!
高級そうなレストラン、衣服屋、銀行の隣にはキラキラした謎のサロンがあった。ああいう金持ち独特の雰囲気は何なんだろうか。お金があればああいう雰囲気に浸りたくなるのだろうか。
私は死んだ目でズルズル滑って行った。まだ止まることはない。そして一つ、気付いたことがある。
ムーンストリートは街灯がまばらで暗かったので気づかなかったけど、私の滑っていく先にはイオリの後ろ姿があるのだ。
彼は別に緊張もしない、さも同然だという様子で、この高級住宅地を歩いている。一人で。あのバッグを抱えて。
彼に向かってきめ細やかなアスファルトの上を、体育座りでスイーンと移動してる私は、どういうことなのだろうと思考を巡らせた。
どうして屋敷を出られた?どうしてイオリに引き付けられるように移動してるんだろう?全てが分からない。
商業用の区画を抜けて、イオリはこれまたオシャレ極まりない住宅地の通りに入った。どこもかしこも豪邸だらけで、この世界の有名人がこぞって暮らしてるエリアだ。
中庭をライトアップして何が楽しんだろうか。彼らに一度、トレーラーハウスに住まわせたい。狭いリビングの方が掃除が楽だよって言いたい。あ、そうか。お手伝いさんがいるんだね。
ここにきてから私の卑屈が止まらない。貧乏人とはそういうものなのだ。食べていくには、人を撃つしか無かった私。いつか幸せになれるんだろうか。
あ、死んでるんだった。もう無理だ。私は一人で苦笑いをした。もう既にゲームオーバーを迎えてるんだった。
その時だった。イオリが門の中にひょいと入った。見てみると豪邸というほどではないけど、一人で住むにしては大きい、斜め屋根がインパクトある、白い三階建の一軒家だった。
ちょっとした庭には円形に形作られた木が何本もあった。庭師がやってるに違いない。私は苦笑いをした。他にも小さな噴水があり、その周りには赤い花々が咲いていた。
そしてライトアップ。虫除けマシン。イオリは玄関から入って行ったし、ここは彼の家なのだろう。とても豪華な家ですね、服装からしても彼は相当の収入があるの分かってたけど……。
こんな、金持ちの世界を満喫したくない。変に味わうくらいなら、知らないでおきたいのだ。さっさと別の場所に行きたいところだが、さっきから私のズルズルが停止している。
えっ……ここで待機しなきゃいけないの?それはちょっと……他にないのだろうか、納屋とか。そういう狭いところがいいんだけど、こんな、ロマンチックな庭園よりも。
全然落ち着かない。一回だけ、お金持ちのターゲットを仕留める為に、こういうラグジュアリーな場所に入ったことはあるけど、それだって何時間だけだから慣れる事は無かった。
仕方なく、私は噴水のそばにある石製のベンチに座った。白いベンチで、背もたれの角に、謎の天使がくっついている。何これ。
どうしよう、いっそのこと、イオリにこのことを知らせるべきかな。あの屋敷から出られたし、そのことを彼は喜んでくれるかもしれない。あとこんな天国みたいな場所で、私を放置しないで頂きたい。
私はスッと立ち上がり、玄関に向かった。大理石の道が間接照明でほんのりと色づいている。スターアワードの時のレッドカーペッドを思い出した。玄関まで、私はムービースターの気分を味わった。
さて、目の前には扉がある。チャイムを押せば、イオリが出てくるだろう。あと気になる事が一つある。ゆっくりと、じりじりと、私が玄関に引きつけられている気がするのだ。
……。
それは気のせいではなかった。一歩後ろに下がろうと足を上げたが、重力のような強大な力で足の動きが食い止められた。
もしや、イオリとの距離が徐々に短くなってるのでは?と思った。これは一体何なの?と、兎に角知らせよう!私はインターホンを押そうとした。
突然、急に体が浮いた。「おわっ」と口から出た。空中でもがいて、謎の浮遊に私は慌てた。このタイミングで昇天はしたくない。まだやり残した事があるんだから!
「ああああ……!」
小声で叫んだ。私の体はとうとうフワリと舞い上がり、夜風も吹いていないのに、段々と上昇した。嫌だ、まだ犯人はティーカップを見ていない!何とか必死に窓の柵に捕まったけど、力に抗えきれずに、私は手を離した。
もう三階部分まで浮いてしまった。これはもう無理だ、夜空まで飛んで行くのも時間の問題だと諦めた瞬間、私の上昇は止まった。ふわふわ煙のように漂っているけど、私の体は三階の窓の前で固定された。
大きな窓だった。壁一面埋まるほどの大きなガラスで、奥にはベージュ色のカーテンが掛けられている。何の部屋なのかは分からない。一般的に三階建ての人が三階に何を作るのか、知る由もない。
パッと明かりがついて、私がビクッとした。直立した姿で浮いている私は、体を硬らせて、カーテンの奥に目を凝らし、耳を済ませた。
間接照明なのか、ベージュのカーテンにはベッドと思われる影と、人影があった。人影はネクタイを取る仕草をして、それをベッドに放り投げた。体格や身長、髪型から考えて、イオリに間違いなかった。
私は無駄に興奮してきた。鼻息がスーハー止まらなくなってきた。もしかしたらイオリのこと、結構好きかもしれない。そんな片想いの兆しを発見した段階で、目の前には彼の寝室がある。
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