星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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「イオリ、奴の弱点は何だ?」

 オリオン様の怒りに震えた声の質問が飛んだ。イオリはオリオン様を見つめて、聞き返した。

「や、奴の弱点?」

「旧知のお前なら、あの憎たらしいサイコパスの弱みの一つや二つ、知っているはずだ!それを今すぐにこの場所で絞り出せ!」

 オリオン様のライオンの咆哮ほうこうのような叫びが、広い室内に残響を与えた。超怖い。がんばれイオリ。私に出来ることはもうない。

「そうだな……」思案顔で、彼が言った。「弱点……と呼べるかどうか定かではないが、リアの持っているレモン飴が、それに近い気がする。それを我々が、いや、リアが頻繁に使えば、奴は気が動転するだろう。」

「何故だ?その飴と奴に、何か関係があるのか?」

「いや関係はないが、あれを使えば死因が出ない。我々と対した時にその現象が頻繁に起これば、ノアズは我々を脅威だと考える。」

 イオリが嘘をついた。レモン飴の作者がシードロヴァだってことを言わなかった。どうしてだろう?私も取り敢えず黙ってるけど。イオリは続けた。

「ニュースを見る限り、ノアズはリアをゴーストだと捉えていない。イリュージョニストだと彼らは思っている。しかし実際は違う。リアには我々の想像を超えた力がある。身体を透けさせ、宙を浮ける。その一部が、そのレモン飴だと俺は考える。」

 何その、今俺も知った感。しかも飴を私のパワーにしようとしてる。私は苦笑いした。そうなのか?という顔のオリオン様と目が合ったので、一応頷いておいた。

「そうか……リア、お前が俺らの一員で嬉しい。ならば使え。それはリアしか使えないのなら、任せるしかない。イオリ、お前に託した。そうだ、イオリ。今度俺の話を聞いてくれ。お前は俺を信頼している。俺もそうしたいんだ。信用と裏切りは紙一重だ。常に綱渡りをしている感覚だが、お前にはそれがない。ずっと俺のそばにいてくれるか?」

「わ、分かりました。」イオリは頭を下げた。

「レイヴ、それから皆。この仕事に対する報酬は、例のカジノ島のせいでガックリ減ることになる。」

「えええぇぇぇ!折角頑張ったのに!」レイヴが肩を落とした。

 オリオン様はイオリの横に来ると、彼の肩を抱いた。

「だが、報酬はしっかりと払う。レイヴ、イオリ、部屋を移動する準備をしろ。それからエミリは、好きなところに住め。勿論ここでもいい。」

 エミリは答えた。

「じゃあレイヴのところに行きますね。「何でだよ!」

 エミリは首を傾げた。

「だって、よく考えたら今までずっと離れ離れだったじゃない。またあなたと暮らしたくなったの。それにイオリもどうせ近所でしょう?」

 イオリはまだ肩を抱いてるオリオン様に聞いた。

「部屋を移動するって、どこにでしょうか?」

「お前にはこのホテルの下の階だ。スイートを用意してやる。レイヴは更に下のツインだ。それだってあのアジトよりはいい部屋だ。イオリ、喜べ。お前は今から幹部だ。」

「えっ!?」

 と、レイヴが目を丸くした。というか、オリオン様以外全員目を丸くしている。「幹部……?」とイオリが首を傾げるとオリオン様は笑った。

「ふっ、お前に下の仕事は似合わない。これからは尋問や俺への助言を行なって欲しい。いわば、組織のコンサルタントだ。イオリとリアは一心同体、リアが凄腕のスナイパーなら、二人には幹部が相応しい。他にも、密輸・生産のビーアイ、プロパガンダのDJインコがいる。そうだ、護衛部隊を束ねるバリーもな。」

 バリー!あの人、幹部だったのか!じゃあもっといいトレーラーハウスをくれてもよかったのにと思った。私の元夫よ……。

 彼の名が出た時に、イオリはチラッと私を見た。それを見て、オリオン様が悟ったのか、「今度バリーに会わせてやる。」と言った。それを聞いたら鳩尾あたりが痛くなった。

「じゃあ」レイヴが肩を落として泣きそうな顔で聞いた。「俺じゃなくて、兄貴が四人めの四天王的なポジションに行くんだー。大体兄貴に何が出来るんだ?」

「人の心を読む力、操る力。」オリオン様が答えた。「それがなければ、この先は難しくなる。サイコパスにはサイキックが必要だ。俺はそのサイキックを用意したまで。後は各人、報酬はノアフォンに送る。去れ。」

 我々四人はゾロゾロとオリオン様の部屋から出ていくことにした。今まで銃をプラプラとしながら見ていた護衛達が、イオリや私に大して、綺麗なお辞儀をするようになった。

 ……すげえ。

 部屋から出ると、我々は一緒に駐車場までエレベーターで降りた。一度アジトに行くので、同じ車でアジトに戻ることにした。

 帰りの車内ではずっとレイヴが悔しい思いを吐露していて、イオリはただそれを「そうだな、」「お前の言う通りだ、頑張ったのにな」と受け止めてあげていた。レイヴは途中から泣いてしまった。

 アジトの緑色の廊下の我々の部屋の前で、レイヴとエミリと別れた。エミリとは連絡先を交換した。レイヴは「もー母ちゃんと同居なんかやだよー!」と叫んで歩いて行った。

 部屋に戻ると、変な安心感があった。でも奥の檻を見て、ああそうだあの人がいたと鳩尾が痛くなった。時刻はもう午後八時を過ぎていて、そういえば今日は何も食べていなかったなぁと早速、冷蔵庫を開けた。

「ねー、帰りめちゃくちゃ遅かったじゃん!お菓子じゃ全然足りなくてお腹空いてんだけどー!」

 サラのお怒りの声がイオリに向けられている。またキスでもするのかなと気になって振り返ると、イオリはソファのところでベストを脱いでいて、それをソファに投げているところだった。

 サラは檻を掴んで怒鳴っている。イオリはそれを見ないようにして、「分かったわかった、今すぐに用意するから」と宥めて、ため息を一発吐いた。

 私は冷蔵庫に視線を戻した。炭酸ドリンクとお茶、それから魚の缶詰と、干しフルーツの入った瓶がある。これじゃあ足りなさそうだ。

 今度はキャビネットを開けた。何も無かった。これじゃあご飯足りない。そういえばと今朝のことを思い出した。イオリとサラはお魚と乾パンを食べていた。

 サラの居る檻の中にはポテトチップのLサイズの袋、それからクッキーの箱、それからチーズスナックのLサイズの袋、それからクラッカーの箱……が新品の状態で残っていた気がする。

 クラッカーがあれば、イオリの炭水化物が満たされると思った私は、サラに聞いた。

「クラッカーって食べた?」

「……なんか関係あるの?それ。」

「今日はとても大変な仕事だったから、イオリお腹空いてる。」

 イオリは気まずそうな顔で、俯いている。

「あのさぁ……」上から目線のサラが私に言った。「大変じゃない仕事ってあるの?逆に教えて欲しいよそれ。仕事は大変なの。そう言うものなの。私だってずっとここにいて精神的に大変だもん。クラッカー?あるわけないでしょ?だって今日仕事に行ったんだよね?給料あるよね?」

「……。」

 何も言えない。じゃああそこにあったお菓子を全部食べちゃったんだ。すげえな……。苦笑いしていると、サラが続けた。

「まさか、仕事で失敗したの!?嘘だよね、イオリ。仕事に失敗したら給料貰えないんだよ!?えー、じゃあクラッカー食べなきゃよかった!」

 私はフォローしようと思った。

「イオリは今日オリオン様から「失敗した。明らかに。」

 割り込んだのはイオリだ。どこか宙を見つめて、力の抜けた様子で言った。

「……俺は向いていないらしい。今日は大事な仕事だったが、失敗した。オリオン様は大目に見てくれたが、報酬はかなり少ない。」

「いくら?」

「二万ブルーてところか。」

「はあ!?それで次の仕事はいつなの!?」

「さあ。」

 はあ!?と、またサラが怒った。結構な悪口をイオリに浴びせているが、そんな彼は今日仕事で大成功している。イオリはソファに座り、項垂れた。

 レモン飴の件といい、今日二つめの嘘だ。どうしたんだろう、イオリ。しかもサラに対して嘘をついて、ばれたら大変なことになりそうなのに。どうしたの?

 彼女のキーキーと叫ぶ声がずっと続いていた。私は魚の缶詰を開けて、紙のお皿にどぼっと開けた。
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