星空に恋するハッピーゴースト

meishino

文字の大きさ
53 / 127

53 小さなプレート

しおりを挟む
 深夜はいつも、世界が静寂に包まれる。人々は眠り、この高層階の夜景も、ポツポツと明かりが少なくなっていく。でも街を包むピンクやスカイブルーのネオンは、ずっとそのままだ。

 時刻は午前二時。寝ることがないと、やることもない。読書とか、絵画とか、まともな趣味を持っていたらよかったのに、私にはそれがない。

 やはり、マリモを飼うべきだった。マリモがあれば眺めているだけで朝になるのに。あの緑色の丸い存在が、私の心を癒してくれただろうな。今度レイヴに頼んで、あれを一緒に買いに行こう。

 ソファに寝そべって、ただ天井を眺めた。こうしている今、もっと高層階にいるイオリはぐっすりと眠っているだろう。サラはもうクラブから帰ってきてるのかな?あの部屋に引っ越してから、もう二人は愛し合ったのかな?

 ……そりゃそうでしょ。あああああああ。

 イオリの熱っぽい視線が好きだ。あの行為の中で、何度も何度もキスしてくれるのも、私のことをぎゅうと抱きしめながら優しくえぐってくるのも好きだ。気がつくと私は、クッションを抱きしめていた。

 やばい。会いたくなってきた。やっぱり一緒にいたかった。でも相手がいるから遠慮したんだけど……それでも一緒にいた方が良かったかな。

 電話したい。

 でも二時だから寝てるもんね。明日の日中に電話してみるのはどうだろう?でも明日はレイヴの仕事で拠点の視察に行く予定だから、また忙しそうだ。それに明日の夜はサラがいるだろう、それは今日も同じだけど。

 昼は忙しいから夜しかない。なら今日も明日も一緒だ。どうかな、深夜に電話するのって重たい女っぽい。でもいいか!私はノアフォンをさっと取り出して、電話帳のイオリの文字を押した。

 押してから後悔した。プルルルいってる。何を話すか決めてなかった。

『……なんだ?』

「なんでもない。」

 ブチっと切った。いきなり出るからビビった。あービビった。でも少し声聞けて良かった。あー良かった。

 胸がまだバクバクいってる。あーあ、私ったら完全にイオリにべったりだ。困ったもんだと一人で笑った。

 明日もこれくらいの時間に電話してみようかな。今みたいな感じですぐに切れば、イオリは寝ぼけてて何も覚えてないだろうし。そうそう、日中は彼も忙しいそうだから。

 イオリは幹部になってから、オリオン様と一緒にこの組織の作戦を考えてるようだ。ボスの相談役。そう言えば、今度幹部が集まる小さなパーティーが、オリオン様の部屋で行われるらしい。

 そのパーティーは勿論パートナーを招待していいらしいから、イオリはサラを連れていくだろう。くるくるカールの金髪でラッパーの風貌をしたDJインコも彼女を連れてくるだろうし、ビーアイはセクシーな女性で、旦那さんがいるらしい。

 じゃあバリーは?もしかしたら私が招待されたりして。なんて一人で苦笑いした。今の情報は全部、レイヴが教えてくれたことだ。ちょっとパーティ気になるから行ってみたい。

 ドアからガチャっと音が聞こえた。ドアノブを回す音だ。鍵が掛かっているから開かないのは当たり前だ。

 でも誰が?私はレイヴが置いてったハンドガンをテーブルの上から取って、それを両手で構えながらドアへ向かった。いきなり敵襲があるのは普通にあり得る。

 ドアまで来ると、スコープを覗いた。しかし誰もそこにはいなかった。

 えっ?何?

 お化け?同業者?

 ならばと私は頭だけ透けさせて、ドアに突っ込んで廊下を見た。ドアの横の壁にもたれかかっていたイオリが驚いて「オアアア!」と叫んだ。

 なんだ彼か。私は一度頭を引っ込めてからドアを開けてシーッと彼に言った。しかし彼は私の肩をどつきながら部屋に入ってきた。

「夜中だから静かにするのは理解している!その前に一体何をしてるんだお前は!そんな恐ろしい来客確認方法があるか!?」

「痛い痛い!わかったよ、驚いちゃったんだね、ごめんなさいね!」

 私は笑っているが、イオリはムッと不機嫌な顔をしている。しかも黒いシルク素材のガウン姿だった。

「なんか……すごい重役感漂ってるね、それ。」

「え?あ、ああ。ホテルのガウンだ。リアのパジャマもここのだろう?」

「そうそう。レイヴもエミリも同じの着てる。とても着心地がいいよ。」

 ガウンの大振りな襟の隙間から、イオリの胸板が少し見えている。触りたいけど我慢して、彼に聞いた。

「どうしたの?」

 彼が髪をかき上げて、少し目を逸らした。

「……電話、くれたではないか。何故切る?」

「あー眠いかなと思ったし、あまり話すこと考えてなかった。……なんか飲む?」

「そうだな」彼が私を見た。「いや、やはりいい。少しだけ話そうと思っただけだ。それから、」

 と、彼はガウンのポケットから白い小箱を取り出して、それを私にくれた。

「何これ?」

 箱を開けると、細い革紐のブレスレットが入っていた。黒い、すごい細いブレスレットで、小さなプレートが付いている。それをよく見ると、ボロビアのロゴが入っていた。

 私はそれを丁寧に取り出してみた。キラキラとプレートが揺れた。するとイオリが私の手からそれを取って、私の左手首につけてくれた。その時に、彼の左手にも同じものが付いているのを発見した。

「あっ、同じだ。」

「……お揃いだからな。」

 小さい金具をぱちっと止めると、私の手首にピッタリ巻きついた。おお、可愛い!

「ありがとうイオリ。買ってくれたの?」

「どうも。昨日は何も予定が無かったから、買い物に行ったんだ。ダニーと一緒に。」

「え?サラは?」

「彼女とは一緒に買い物はしない。お互い、興味のある店が違う。俺は昨日はどちらかというと、ガジェットとか、天体望遠鏡を見に行ったんだ。……ペットショップも見た。」

「そうなんだ、プレゼントをくれて本当にありがとう。ペットショップも行ったの?ペット欲しいの?」

「マリモ。でも売っていなかった。今密かにブームなのか、売り切れていてな……今度違う店を「いいよ!」

 私は首を振った。イオリは目を見開いた。

「このブレスレットだけでいい、マリモはレイヴと見つける。」

「いや、俺が見つける。」

「いいって。」

「うるさい。」

 なんでよ……。私は取り敢えず空になった小箱とハンドガンをテーブルに置こうと思って、ソファの方へ向かった。テーブルには食べっぱなしのポップコーンのボウルと、お菓子のカスが乗った大皿、レイヴの飲んだ空のボトルが複数置いたままだった。

 案の定、背後から震える声が聞こえた。

「……お前らパーティーでもしたのか?汚すぎる。」

「まあまあ。二人とも疲れて寝てるから。」

 それを置いてから、私は大きい窓の方へ向かった。ネオンの街と、月に照らされている海が見えている。空には星がきらめていていた。

 彼が隣に来て、同じように窓の外を眺めている。私は彼に聞いた。

「上の階だと、もっと空に近いよね。望遠鏡で、見えそう?」

「最高だ。ははっ……その点に関しては。」

「サラとの生活は楽しい?」

「まあな。望んでいたものが手に入った。リアのおかげでもある。」

「そっか。」

 私は鼻でため息をついた。なら良かったじゃんイオリと言いたいところだ。二人で黙ってしまったので、何か質問をした。

「今度のパーティー、イオリはサラと行くんでしょ?」

「そうだな。……リアは来るか?一応、お前も幹部だ。」

「あ、そうか、そうだった。じゃあ誰と行こうかな、レイヴかなやっぱり。」

「俺は思ったんだが、」

 なんだろう?彼の方を見た。彼は窓の外を眺めたまま、言った。

「あのパーティー、招待されたのは嬉しいが、気が乗らない。あれには行かずに、二人で……この前みたいに、適当に買い物に行かないか?」

「えっどうして?」

「俺が買い物に行きたいからだ。」

 なんだそれ。

「じゃあ一人で行けばいいのに。昨日みたいに。」

「お前と行きたい。」

「じゃあ別の日に「お前とその日に行きたい。」

「頑なですねー、ふふっ」

「ふん、うるさい……。」

 イオリはプイッとそっぽ向いた。何それ、少し可愛かった。

 しかし、そんなにその日に私と買い物に行きたい理由があまりよく分からない。勿論イオリとは一緒に買い物に行きたいけど……。

「でもパーティーにも行ってみたい。」

「ならば、クラブに行こう。あそこは毎日パーティーをやっているようなもんだ。VIPルームを借りて、適当に人数集めてやればいい。だが買い物は絶対にその日に行きたい。」

「出た……謎の要求。でも知ってると思うけど、どこに行くにしても、レイヴも一緒だからね?」

 急にぐいっと腕を引かれた。よろける私を体で支えるように、イオリが体で受け止めてくれた。ぎゅっと彼の両腕が、私を包んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...