星空に恋するハッピーゴースト

meishino

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 ラズベリーの弁護士が話を終えると、今度は検察官が冷静に立ち上がった。

『では我々の方からも事実を与えます。シードロヴァ様は死の直前に、既に財産を全てイルザ様に継がせている。それも生きている指紋が無ければ出来なかったこと。この件に関する証跡は、ノアズの中央銀行ではなく、ノアズ本部の金庫に預けてありました。更にこちらにも日誌が見つかっている。ここからは是非、裁判記録を完璧に残していただきたい。その日誌には事件の真犯人の名があります。』

『それは誰ですか?』黒いローブを着た、男性の判事が検察官に聞いた。

 検察官はスクリーンにその文章を写した。ラズベリーの弁護士が用意したのと違って、今度はシードロヴァの直筆だった。

 しかもかなりの殴り書きで、余程急いでパッドに書いたことが分かる。

『この日誌は、事件発生のたった数十秒前に更新されたものです。内容はこの通り……私はもうここから出られない。これは爆発する。ハロルドボードンが私を……とここで途切れています。痛々しいことに。』

「うわあ……。」

 レイヴが声を漏らした。私も同感だった。

 画面がパッと切り替わり、衝撃を受けたようなラズベリーと彼女の弁護士の顔が映った。

 また画面がイルザ様の方に戻って、検察官は続けた。

『更に前日、ノアズ地下にある彼の研究室に、ハロルド・ボードンが訪れています。監視カメラにハロルドの姿がある。爆発でめちゃくちゃにつぶれたカメラを復元出来たのはイルザ様のおかげ、コアレコードによる復元のおかげです。カメラにはハロルドが突然彼の研究室を訪れて、時空間歪曲機に触れる様子が記録されていた。しかも、シードロヴァ様が少し部屋からいなくなった時に、彼が機械の蓋を開けて、機械の内部にポケットから取り出した何かを設置した。更に、蓋のロック部分に、これを塗っています。』

 検察官はポケットから監視カメラのハロルドが持っていたのと同じ赤いチューブを取り出した。接着剤だ。

『彼はこの接着剤を使用した。この接着剤は強力で、それ故にくっつくのが遅い。彼はそれを利用した。翌日シードロヴァ様が機械に入りテストを行うことを知っていた彼が、敢えてそうしたのです。彼を確実に殺す為に。その日、ハロルドが消えた後、シードロヴァ様は機械を点検しました。しかしその時点では接着剤は効果を発揮していない。細工に気付けなかったのです。そう、シードロヴァ様はわざと死ぬ為にこの機械に乗った訳ではない。最初からテストをする、そして別の実験体をいつものように入れて、いつものように結果を得ようとしただけでした。なのに、ハロルドのした細工によって、シードロヴァ様は爆発しようとする機械の中から出られなかった!これは事故ではない。これは、殺人です!しかも、被告の父親であるハロルドが起こした殺人です!』

 私たちの誰もが、言葉を失っていた。

『ハロルドはシードロヴァ様の実験を利用した!確かに、弁護側の提示した彼の日誌は本物かもしれません。しかしこの日誌も本物なのです!当たり前ですが、こちらの日誌は事故が起こる瞬間の直前の物。言わば、ダイイングメッセージで間違いありません!生前の日誌とダイイングメッセージ、事件においてどちらがより重要なのか、お分かり頂けると思います。それにイオリ・アルバレス捜査官にはアリバイがあります。皆さんもお分かり頂けるだろうが、彼はずっと一人にはなれなかった。』

『そんなの!』ラズベリーが叫んだ。『証明してくれるのはゴーストでしょ!ゴーストが証明して何になるの!?』

『静粛に!』判事がハンマーでカンカン叩いた。ラズベリーは『ごめんなさい』と座った。検察官は、続けた。

『彼女はゴーストですが、ノアズは、ノアズとボードンFOCの大規模な戦闘の後、アリシア・メリアンとイオリ・アルバレス二名において特別に市民権を与えています。彼らは生きている。彼らにも権利を主張する権利がある。それをノアズは保証しています。もし被告がお望みでしたら、アルバレス捜査官を含めて、この件における裁判を起こしても構いません。ただ、今はカタリーナがノアズが下した判断が不当だという訴えに対して、このように説明をさせて頂きたい。彼女は直接、或いは誰かに命じて、シードロヴァ様を殺害していません。細工をしたのもシードロヴァ様を殺害したのも、ハロルドです!そして、イルザ様が真犯人だという原告側の訴えを、我々は無視出来ません。真実はこの通りであり、我々は、カタリーナをクイーンへの不敬罪で逆告訴させて頂く。真犯人も含め、真実を明るみにさせるまで時間を頂いたこと、法廷も含め、市民の皆様にも謝罪申し上げます。以上です。』

 検察官は座った。するとイルザ様も『謝罪申し上げます。』とだけ言った。

 でも……これが真実だったとは。

 画面のラズベリーは青ざめた顔をしていた。それから何かを弁護士と耳打ちで話し合って、暫くすると弁護士が立ち上がった。彼の額には汗が垂れた。

『……示談を申し出たい。』

 判事は検察側を見た。すると検察官が立ち上がって、答えた。

『その申し出に応えるつもりはありません。これより先は、不敬罪、反逆罪の刑罰について、裁判を進めたく存じ上げます。』

 判事がトントンとハンマーを叩いた。そして言った。

『本日の法廷は終了します。それではまた、二日後に。』

 皆が一斉に立ち上がった。イルザ様は検事と何かを話していて、ラズベリーは青ざめた顔のまま、ノアズの衛兵にまた手錠をかけられて、連れて行かれた。

 我々四人は、ほぼ同時にソファにもたれた。うーん、はぁー、と声を漏らして、それぞれ物思いに耽っていた。

 私は隣のイオリに話しかけた。

「事故じゃなくて、殺人だったの?しかもハロルドが犯人だって、何だか、驚いた。」

「……ああ、本当にな。」

 彼はじっと宙を見つめた。私は彼の手を握った。彼は微かに握り返してくれた。
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