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第4話 はじめての夜 ♡
しおりを挟む再び馬車に乗り着いた場所はイオスの屋敷だ。白い大きな丸屋根のお屋敷が、広大な庭の真ん中に建てられている。
「こんな開放的な家は、はじめて見る」
イソラは円柱が並ぶ広間を見回し目を見張る。聞けばこの国の屋敷は必ず中庭があり、そこを中心に円柱が並び、ぐるりと円を描くように各部屋があるらしい。
外から見るのと中庭から見るのとでは家の顔が違いとても面白く、中庭の天窓も技術の高さを知ることができるものだった。
「お風呂はこっちだよ」
「すまないが、スズハをいれるのを手伝ってくれないか?」
「その子は起きてからいれたら?」
「しばらくは起きない。湯で洗ってやらないと布団を汚してしまう」
「そんなの気にしなくてもいいのにーー、でも、さっぱりしないと寝心地もよくないか……」
ふたりは寝たままのスズハの全身を洗い、乾かすのはイオスの家人達にまかせた。
「イソラも洗うでしょ?好きな匂いの石鹸とかある?」
「匂いがないのがいい」
「そうなんだ」
「いざというとき尾行ができない」
「ーーそうだね」
イオスは大笑いしたいのを我慢する。
その目の前でイソラが服を手早く脱いでいく。衣服の状態を確認し、ふう、と一息ついた。
「よくもってくれた。さすがは星藍織りだ」
頑丈さではどこにも引けを取らないだろう、とイソラが満足そうに言う。それを聞きながらイオスはまったく別のことに意識を奪われていた。
「……」
肌が白い。
美しい白さだ。
「では、湯をいただく」
手を合わせてイソラが浴槽から湯をすくい、髪の毛を洗い出す。
泡が黒くなる。
スズハもそうだったが、すぐに泡がだめになって何回も洗い直した。身体のにおいはそこまで気にはならなかったから、水でこまめには洗っていたのだろう。
しかし、そんなことは気にならない。
イオスはいま、自分の前で身体を洗う青年に心を奪われている。洗い終わった黒髪の艶やかさ、その髪が流れる華奢な背中ーー。直視しているだけで顔が赤らんでしまう。
「ーーイオス、すまないが背中を思いっきり擦ってくれ」
海綿でできたスポンジを差しだされイオスは、はっとなる。
「あ、ああーー」
言われた通りに背中を洗う。イソラの肌はなめらかで麗しい。触れているだけで、身体が火照ってくる。
「ーー後は大丈夫だ」
その言葉を残念だと思う自分がいた。
イソラは背中以外の部位を擦っていく。気持ちがいいのか表情が軟化してきたように思う。
「ふう…。生き返ったーー。イオス、待っていてくれたのか?」
「あっ、いや……」
イオスは慌てる。
無防備に全裸をさらしている彼が、あまりに美しすぎた。大将軍というだけあって、目立つほどではないが傷もあり、筋肉もあるのに。
それでも、その立ち姿が美しいーー。
「!」
気がつくとイオスはイソラを抱きしめて唇を奪っていた。自分でもなぜそんなことをしたのかもわからない。
本当に気がついたらだーー。
「ご、ごめん!」
そんなつもりはなかった!
離れなければならない、わかっているのに身体が離れたくないと訴える。
「イオス?」
「いや、違う、ごめん!」
「ーー何かあったのか?顔が赤いが」
「えっーー!、い、いま僕はキスをしてしまって!」
「きすーー」
「え?ああ、言い方が違うのか……。くちづけとか、接吻とか」
「なるほど、聞いたことはある。いまのがそれか」
イソラがわかったように頷いた。
「えっ?ま、まさかファーストキスだった!?
」
「そうだ」
「ーーご、ごめん!」
「確かに。接吻は結婚相手とするものだ」
「そうなの!?」
「この国では違うのか?」
「頬にキスは、挨拶でするときもあるよ。ただ、唇はないかーー」
「ふむ。なら、何故だ?しかも、何故イオスの男性器は硬くなっているのだ?」
「……」
恥ずかしさのあまりイオスは顔を背ける。そんなにはっきり言わなくてもいいのにーー。
「イオス?」
「ーーイソラが魅力的だからだよ」
思い切ってイオスは言った。
「魅力的?そんな事、はじめて言われたな」
「嘘だ。モテるでしょ?」
「いいや。王族に好意を抱く者などいない。所詮我らは国の駒だ。国の為になる事しかできない」
イオスもそれには同意するしかない。
ラディウスの従兄弟である自分にも王位継承権はある。もっとも、自分には兄が三人もいるし、ラディウスにも弟がふたりいるため、まわってくることはないだろうが。
「じゃあ、もう駒じゃないんだから、自由にできるんだよね?」
「そういう事になる」
イソラが薄く笑った。
「なら、僕と結婚しよう」
「結婚ーー」
「キスしたら結婚するんだよね?」
「それはそうだが、イオスは嫌じゃないの
か?」
「いや、絶対にしよう!」
「強引だな。だが、物事ははっきりするほうが良いのも事実ーー。本当に私と結婚するのか?
」
困ったような目を向けられ、その視線の可愛らしさにイオスは真っ赤になった。顔が熱く、見なくてもひどいのがわかる。
「してくれ!何があっても大事にするから!」
「と、言う事は私が嫁なのか?」
「ーー嫌かな?」
「まあ最初はそれでやってみよう。駄目なら立場を交代する」
イソラがあっさり言うのが面白くてイオスは笑ってしまった。
「それより、いい加減服を着させてくれないか?」
「ーーもう少しこのままでいて」
「そうか……。あまり、長くは困る。私の心臓がやたらと騒がしいからな」
その言葉に、イオスはイキかけたーー。
「スズハはよく寝ているな」
イグニスの部屋着であるチュニックを着たイソラが、寝ているスズハの顔を覗き込んだ。夕食にとミルクにひたしたどろどろのパン粥を無理やり詰め込んだが、そのときもほぼ寝ている状態だった。
「現国王の息子なんだよね?」
「ああ、兄上からの書簡にはそう書かれていた。母親の名は記されていなかったが、可哀想にな……」
「後継者争いは、ひどい国はひどいからね」
「ーー本当は、次の王は私だった……」
イソラの言葉にイオスの目は見開かれた。
「長兄のご遺言だーー、それまで兄上達の代わりに何でもやってきたーー。初陣は十二のときだ。ユルハ兄上は病がちで、イルハ兄上は宮から出ては来なかった」
「……」
「正直逃げ出したかった。だが、王子がでなければ兵士の士気は挙がらない。見苦しい真似はするな、と叔父上に叱られたものだ……」
懐かしむような話ではないのだろう。イソラの目には当時を思い出したくないような色が浮かぶ。
「ーーその後はすべて私がでた。叔父上が亡くなると私が大将軍になったーー、その間もイルハ兄上は宮からでてこなかった」
「イソラ……」
「イルハ兄上が自分が王になると言ったときには驚いた。王座に興味があるとは思ってもいなかったからな」
嘲るような言い方をしたのが気に食わないのか、イソラが自分を恥じるような表情をする。
「兄上も思うところがあったのだなーーーー、!」
彼の身体を抱き寄せてイオスはベッドに押し倒した。
「ーーいい?」
髪の毛を撫で、頬にキスをする。
「何をだ?」
「わからない?なら、いい、って言って……」
強く言うと、イソラが不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。
「ーーまさか、夜の行為をするのか?」
「夜とは限らないよ」
「私はした事がない。どうしたらいいのだ?」
「ーー何もしなくてもいいからーー」
もう、イキそうだ。耐えなければーー。
「そうか……。できる事があれば遠慮なく言ってくれ」
「本当に襲うけど、いいの?」
「イオス、迷いがあるのならやめればいい」
組み敷いた男のあまりのカッコよさに、イオスは胸の鼓動が高鳴りっぱなしだ。最後まで心臓がもつだろうか。
「イソラ……。こんなにもひとに心を動かされたのははじめてだーー」
くちづけを繰り返しイオスは甘えるように囁いた。
「ふふっ。そうかーー」
夜が深くなっていく。
ふたりの行為はゆっくりと互いの身体を見せ合うように進められた。行為の意味がわからず動けないイソラを、イオスは優しく抱いていく。
彼から漏れる喘ぎ声に自分の脳は沸騰し、理性が溶かされる。何も考えられなくなったイオスは、次第に強引な愛し方でイソラを味わい尽くしーー。
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