聖女ルート(男)は召喚された!

濃子

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第4話 聖女と護衛騎士

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「ふぅ……」
 さて、どうしよう……。

 おれは自分に問いかけた。
 ヤルのは嫌だ。絶対に嫌だ。なんであんなやつとヤんなきゃならないんだ。しかも、妃がセットって、ーーもっといいモノつけてほしいって、望んでもバチは当たらないよな。


 もっといいモノか……。うん、どうせなら……、さーー………。




 その考えが頭をよぎったのは、ほんの一瞬だ。
「……なあ、クリス」
「はい?」
「兄ちゃんとは父親が一緒なのか?」
「あっ、はい。そうです。ーーよくわかりましたね……」
 なんでそんなことをいま聞くのか?ってあの坊っちゃんはわかってないけど、教皇は気づいたな…、雰囲気が変わったもんね。


「兄ちゃんが王太子じゃないのは、母親の身分が低いからだろ?」
 さっきの部屋にいたひと達のことを思い返してみる。髪の色は金髪や茶髪が多かったと思うけど、黒髪は見なかった。ーーたぶん、この兄ちゃんしかいないってことは、兄ちゃんの母親は他国の人間である可能性が高い。そして、クリスの母親より身分が下なんだ。

「あーー、聖女様の国でも同じですか?」
「ーーまあ……、そこそこ……」
 あるところはあるよな、そういうとこにこだわるお家。

「ーーじいちゃん」
「はい」
「父親が同じなら、この兄ちゃんも王族には違いないよな?」
「はい。そして、第1王子アレクセイ殿下は、聖女様の護衛騎士でございます」
「護衛騎士……」
「いかなる敵からも、命がけで聖女様を守る剣であり盾である存在です。護衛が魔蝕に結界をはり、それを聖女様が浄化するのです」
「ーーなるほど」
 おれひとりで戦うんじゃないのか……、ちょっと安心したよ。

「ーーお話中すみませんが、いまの兄上ではどうにもならないと思います…、よ……」
「言いたいことはわかる。この状態じゃムリだってことぐらい」
 意識がなくてもおれが攻めるほうならいけただろう。ただ、おれに魔力入りの体液を注がなきゃならない場合、これじゃだめだ。

 おれはピクリともしないアレクセイ殿下の唇に、指で触れた。形の良い唇を上下に割って指をつっこむと、指先が濡れる感覚がある。

 ーー唾液がある。………たぶん、たぶんだけど……精液じゃないとダメってことはないと思うんだよ。だって、唾液だって体液の仲間だろ(細かく言うと違うけど)?ーーだけど、神力器官の貫通が必要だということは、おいおい、おれのケツは現在入居者は募集してないぜ。


 ……いや、でも、魔蝕を身体に取り込んでダウンしてる状態ってーー、それっておれが魔蝕を取り込んだ場合なら、どうなるんだ?この兄ちゃんが死んでないなら、おれなら……ーー。


 おれに魔蝕を移してみる?


「それで、いけたらな……」
 寝台に腰を下ろし、おれは息を深く吸い込んだ。何がおれに決意をさせたのかはわからないーー……。けど、おれはこの兄ちゃんを助けてやりたい。

 キーは、唾液だ。
 もうこれに賭けるしかないーー。


 ーーセックスは絶対に嫌だけど、キスくらいなら……。いや…、でもおれ、ファーストキスだよ?はじめてが相手の意識がないって、おれが無理やりやってるみたいじゃんな?


 だが、しかし、それでも、やっぱりーー……、あ~~~~っ!



「ーーくそっ!おれのファーストキスだ!あまりの気持ち良さに、死ぬなよ兄ちゃんっ!」
 勢いをつけて美青年の唇に自分の口を重ね、そこに舌をぶち込み、兄ちゃんの口のなかの唾液を根こそぎ吸う。

 ーーう、ちゅっ、……んっ、う……。なかなか吸いにくいな……。

「うわっ!」
 クリス、変な声をだすな。おまえこれよりひどいことをおれにしようと思ってたんだろ?

 おれは兄ちゃんの唾液で神力を使おうと試みた。なんか、……変な話、味が濃い……っていうのか、甘い感じがするんだけど、これが魔力の味なのか?


 しかし、深いキスは水音がするとかいうけどさ、なんていうか、ぴちゃぴちゃってマジで生々しくてすげーよ。これも人助けなんだけど、人助けなのに軽く興奮してくるよなーー。

 
 ーーあ……、お腹の辺りが、あったかい……。


 こ、これはっ、兄ちゃんの唾液には効果がある!このままがんばれ、おれ!じゅるじゅるじゅるじゅる吸い尽くせ!


 唾液を多く出させるために、兄ちゃんの舌の下側をおれの舌で擦る。やりたくはないよ?でも、貞操の危機がこれで回避できるんだぜっ!



 ドクンッ。

 ーーいいぞ。おれのなかにあるっていう、神力器官……。ワンチャン使えるんじゃね?ーー腹の中にーーここに魔蝕を取り込んで、ろ過してやる、ーーぶっつけ本番だけどやってやるさ。



 ゆっくりと兄ちゃんの身体のなかにある黒いモンを、おれのなかに移していく。時空竜の女神様の首飾りをきつく握りしめて、おれは祈った。この兄ちゃんを助けるために、おれにできることをさせてくれ、とーー。

 無駄かもしれないーー、でも、ビギナーズラックはバカにできないだろ?




「っ!」
 気持ちが悪い、ずっしりと重たい何かがおれの身体のなかに入ってきた。気を抜けば壊される、こりゃやべーー、兄ちゃんてば、マジよく生きてるよな。
 
 血液のように身体の中を黒いモンが巡っていくーー。このままだとおれも兄ちゃんのようになるのか、っていう不安もあった。けど、身体を巡る泥のようなモンが、まるで汚れを落とすように浄化されて、優しく温かな光へと変わっていくんだよ。


 ーーもう少しだ。おれもがんばってるけど、兄ちゃんもがんばってる。はあ……、なんだろ?兄ちゃんの魔力とおれの神力って相性がいいのかな……?混ざって……、ヤバいとこが気持ちよくなってんだけどーー、……こんな状況でおれの身体ちゃんてば、何考えてんだよな?




 光がーー、おれからあふれた光が、兄ちゃんのなかに戻っていく。ーーまだだ、全部浄化して戻さないと兄ちゃんの回復が遅くなる。
 
 ーーって、おれはなんでそんなことがわかるんだろ?おれが聖女になったからなのか……?いや、おれの後ろ……、何かがいる……。見えないけど気配がわかるんだ。この背中に伸し掛かるプレッシャー、……これが、時空竜の女神様なのかーー?
 




 すべての魔蝕を取り込み、おれの神力器官でろ過をする。寝てるところを無理やり起こしてフルスロットとはーー、神力器官よ、おれに付いてしまったのが運の尽きだな。ほらほら、がんばらないとおれが死んじまうぜ?それは、困るよな?み~んな困るんだから、神様もサービスしといてくれよ。

 そうこうするうちに、兄ちゃんの唇が動く感じがして、おれは薄目を開けてみた。

「!」
 ーーおっ~と、兄ちゃん目を開けちゃってるじゃんか!くわぁっ!激はずかし~~~!キスってこんなに顔が近いんだーー……、じゃねえっ!


 浄化した気を全部兄ちゃんに戻し、おれは身を起こした。口をつけ過ぎたのか、離すときに、ちゅぽんっ、て変な音がしたよ。
 
 まぁ、ルートさんたら、はしたない。はしたないですわよーー。
 
 目を開けた兄ちゃんは、閉じているときよりさらにイケメンだった。いや、もはや反則級の美形さだよ。クリスの瞳の色は、はっきりした水色だけど、こっちは静かな夜の海を思わせる藍色だ。

 
 なんてきれいなんだーー……。


 瞳に吸い込まれるって、こういうことを言うのかな……、なぜか、懐かしいような、泣きたくなるような美しい目に、おれは心をもっていかれそうになる…。



 ーーハッ、しっかりしろよ、ルート!なに同じ男に興奮してんだ。おれの理想はふくよかなマダムだろ?しかし、気まずいな……、兄ちゃんも「何こいつ?」、って顔してないか?

 自分のしたことの大胆さが、急に恥ずかしくなったおれは、そのまま立ちあがって後ろに下がろうとしたんだ。けれど、それより早く兄ちゃんが起き上がり、パッと光りが身体を包んだかと思ったら、着ていたボロボロの黒い騎士服が、きれいな状態になった。

「ーーへぇ、魔法って便利だな……」
 思わず声にだしてしまって、兄ちゃんに微笑まれた。うわっ、破壊光線かってぐらい、まぶしい笑みだ。

 その後、なんと兄ちゃんは寝台から降りて、おれに跪いたんだぜ?目ん玉飛び出そうになるって!
「ーー聖女様ですね?」
 掠れていたけど、かなりのイケボだ。こりゃ心臓が跳ね上がっちまうな。
 
「あ、えっ……、琉生斗……、って…言います」
 ぶっきらぼうに言い捨てようとして考え直す。この人にはちゃんとしよう。
「助けていただきありがとうございます。私はアレクセイと申します」
「弟さんから聞きました」
 胸に手を当ててお辞儀をされる。爪の先まで美しい動作に見惚れちゃうな。

 ーー王子様にこんな丁寧にお礼を言われるなんて、ただただ、恥ずかしいだけだよ。

「……貴方ですね。暗闇の中で私を包み込んでくれた、温かな光は……」
 跪く彼の瞳には、ちょっとゾッとくるもんがあった。だって、獲物を狙うハンターみたいな鋭さが見えるんだもんーー。おれはその視線の強さに気まずくなったんで、彼の目を見ないように、頬をかいてごまかした。

 ーーな、なんだよな……。おれがおかしいのか?…けど、……このひとがおれの護衛か……。わ、悪くはないんじゃない?

「ーー無い命を救っていただいた聖女様に我が命を捧げ、誠心誠意お仕え致します」
 イケメンがさらに深くおれに頭を下げる。なんてこったいだよな!
「大げさだよ~」
 背中がむず痒い。そんな仰々しいの、勘弁です。

「普通でいいから!ルートって呼べよ!おれもアレクって呼ぶからさ」
「えっ!」
 クリスの悲鳴が背中にあたる。これから、同じ職場で働く仲間なんだから、フレンドリーにいかなきゃならないだろ?

「そうですか......。では、ルート」
「うん」
「私と結婚してください」
「はい!?」
 何を言いだした!?気でもふれたのかっ!

「承諾してくれたのだな。ーー幸せにするよ」
「はい!?」
 そんな訳ないだろがぁ!と叫びたいのにあわあわしてしまって言葉が出ない。こいつってば、魔蝕で脳みそがやられたんじゃないのか?絶対におかしいぞ!?

「あのさ、おれは……」
  男だぞ、と言いかけたところで、
「ご婚約おめでとうございます、アレクセイ殿下ーー」
 教皇の裏切りにおれは引きつった。

「そうですねーー。聖女様は王太子殿下よりアレクセイ殿下のほうがお似合いですよ。なんせ、あれだけ渋っておられたのに、まさかあんな方法を取られるとは……。見事な舌ねぶりーー」
「うるさいっ!こっちは必死のパッチだわ!」
 ふんっ、あれで神力が使えたんだから、おれは自分の貞操を守れたってわけだ。よくやった、ルート!おれはやればできる子なんだよ。

「さて、王太子殿下。この慶事を早く国王陛下や、国民に知らせなくてはーー」
「ーーーはっ!あ、兄上!お身体は大丈夫ですか!」
「……ああ。世話をかけた」
 呆けていたクリスが魂を取り戻したように、動きだす。

 ーーあれ?けど、なんだかアレク、クリスには表情がかたいような気がするな……、気のせいか?

 アレクの態度に変なものを感じだけど、そもそもおれがそんなのわかるわけないよなーー。うん、じゃあなんで結婚の約束をしたんだ?いきなり超踏み込んだ関係になってるけど、展開が早すぎないーー?

 

「ーールート、何か言いかけたのか?」
 深い藍色の瞳に心配され、おれは否定の言葉をなくしてしまった。
「……いや、……あのさ、ーーおれのどこがよかった、のかなーっと」
 どうした!おれ!頭は大丈夫か!なに中坊みたいなこと聞いてんだ!?
「ひとめぼれだよ」
 米の名前だよな?うん、きっとそうだ!そうであってくれぇーーっ!




 ……あぁ、なんて日だよ。
 いろいろありすぎて精神がパンク寸前のおれに、アレクがくちづけをしてきた。
「生涯、きみを守る」

 ーーいや~ん。カッコいいーー!……じゃないんだよ!こんなの、罰ゲームだろ!あっそうか、罰ゲームだった。違う違う、婚約ってクーリングオフできるのか!


 おれは混乱した。もう、どうしていいかわからなかった……。どうあがいても、おれはここで聖女として生きるしか、他に道(ルート)はないのかーー?




「ーーああ……、マジかよ。……女神様」
 首飾りを持ち上げると、銀色の竜と目が合ったような気がした。
「ん?」
 2.3回まばたきをしてから見たら、銀色の竜は美しい装飾物でしかなくて……。
「気のせいか……」




 ーーフフッ。ーー今日ノコトハ貸シダヨ……。




「………」
 おれはそっと肩の後ろを見てみた。ーーそこには、残念ながら誰もいなかったんだけど……。


「ーーありがと、女神様……」





 ーードウイタシマシテ……。


 


 ※※※

 その日、神聖ロードリンゲン国に二つの慶事が出された。一つ目は聖女の召喚に成功した事。二つ目は第一王子アレクセイと聖女が婚約した事。

 国は歓声に湧き、お祝いは一ヶ月以上続くことになる。

 確実に聖女の道(ルート)を歩む彼の異世界ライフは、王子アレクセイというスパダリを得て、華々しく幕を開けたのだったーー……。


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