冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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27.孤児院?

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 そして、建国祭当日。
 俺とクラメンは、マル2日かけて作った大量のパンを抱え、警備兵に案内された飾り気のない馬車に乗り込んだ。他に豪華な馬車が3つあったから、姫様達が乗っているんだろう。そのまわりを兵士が囲んでるし、あのひと達が移動するのは大変だよな。


「~~~ッ」
「ん?クラメン、何を怒ってるんだ?」
「馬車です。セラフィナ様だけ質素な馬車にしてーー」
「いや、これだって乗り心地は悪くないしーー」
 俺のためにぷんぷんと怒るクラメンが、正直かわいいぜ。

「あちらに予備の馬車がありますのにーー……」
 クラメンが小窓から指差すほうには、他の姫様達と同じ型の豪華な馬車がある。
「予備って、大事だしな」
 車輪が壊れることもあるだろうしさ、不測の事態に備えるのはいいことじゃないか。

「そうですがーー、やっぱりひどいですわ」
「まあ、まあ。せっかく城の外にでられるんだし」
 俺はごきげんで鼻歌がでるね。

「おっ、カメリアさんがいるよ。忙しそうだな」
 小窓から外を見ていると、いつもと同じでピシッとしているカメリアが歩いていた。なんだか目が合った気がしたから、手を振っておこう。

「陛下がおでかけになられるのかもしれませんね」
「ふうん」
 あいつも外出するのかーー、皇帝なんて城にいたらすべてが完結するから、ある意味究極の引きこもりみたいなもんだけどなーー……。
 
 あぁ、カメリアは気づかなかったのか通り過ぎちゃったよ。他の姫様の馬車には近寄って行くから、俺がこの馬車にいるとは思わないんだろうな……。

「セラフィナ様は、パン作りが得意なのですね」
「いやいや、たいしたことはないさ」
「いえ!はじめて見るものだったので驚きました」
 この2日間、ロウバイ宮殿にはルイリを立ち入り禁止にした。だけど、あいつってば、鍵を無理やり開けて入ってきたんだよ~~~。

 俺達は孤児院の子供に配るパン作りで忙しい、って言ってんのに、「食事を食べさせろ」とか「爪を切れ」とか、寝る間も惜しい俺によくそんなことが言えたよな?まったく大きい赤ちゃんでごじゃりますなーー、ん?いらっしゃるかーー。

 ーーそれにしても、パンを最低でも500個用意しろって、ロウバイ宮殿には侍女はクラメンしかいないのに、なかなかな無茶を言うよなーー。がんばりましたけどね、子供達のためにさ。なんと、500個以上できましたよ。


「ご出立~~~!」
 衛兵の掛け声とともに、姫様を乗せた馬車が次々と動きだした。
「どこの孤児院に行くんだろうな」
「メリッサ孤児院というところだそうです」
「そっか……」
 俺は孤児院がどんなところか知らないんだけど、孤児って多いんだな……。親がいないなんてーー、なんて言ったらいいのか、ぬくぬくと育ってきた俺なんかが行っても、子供達はうれしくないだろうけどさ……。

「ーー他の方々とは違うところに向かうみたいですね」
「かたまるよりは分散してもらえるほうがいいよ」
「そうですが……」
 クラメンの顔が曇っていくのを見て、俺は首をかしげる。何をそんなに心配してるんだろう?子供達にパンを配りに行く、それ以外に何かあるか?
















 そして、クラメンの予想はあたる。
 降ろされた場所は、薄暗くてじんめりした場所で、俺達を降ろした馬車がさっさと逃げるぐらい雰囲気が悪い。しかも、俺達には護衛の兵士がついていなかった。

「これは……、孤児院じゃないな」
 俺はどこかに、『メリッサ孤児院』、って看板がついていないか探したけど、どこを探してもそれらしいものはなかった。

「ーーーはい。浮浪者のたまり場でございますね……」
 巨大な橋の下に、ボロ布で囲った小屋のようなものが川沿いに並んでいる。おいおい、川で洗濯したり、風呂みたいに身体を洗ってるじゃん。ーーー寒いだろ、絶対に……。

「寒くないのかな……」
 見てるだけで震えてきそうな俺を、クラメンが安心させるような笑みで答えてくれた。
「大丈夫ですよ、セラフィナ様。フリーギドゥムは温泉大国と呼ばれていまして、至るところに温泉が湧いています。この川も上流で湧いてる温泉が流れてきていますから、温いはずですよ」
「そりゃいい」

 たしかに川に入ってるひと達みんな、寒さに凍えてる顔じゃない。でもさ、それっていつまでたっても川から出られなくなるだろ?最後は熱いのに浸かってからでたくないかーー?ロウバイ宮殿のお湯ももうちょい熱めが俺はいいから、五右衛門風呂でも作ってみたいな……。

「子供もいますね」
「あっ、ホントだ。遊んでる」
 俺はカツラをはずして、左右に耳当てがついたウシャンカ(ロシア帽ね)で髪の毛を隠す。ルイリがくれたんだけど、これなら髪をカバーできるだろ?今日は動きやすい服、ってことで軍服を着てきたから、もう完全に男にしか見えないぜ。

 ふふっ。「大胆だな」、ってルイリには言われたけどさ、これは襟があるから喉もカバーできるし、俺が男だとすれば無意識でも男物は避けると思うんだよ。けど、そうせず男装を狙ったように仕上げたんだ、ぜひ姫様達にも見せたかったな。

「セラフィナ様」
 困ったようにクラメンの眉が下がる。俺はそれを気にせず、カツラを袋の中にしまった。
「姫様達と別行動でよかったよ。これなら俺が男に見えてもクラメンの護衛だと思われるだろ?」
「しかし……」
「いないって言われたら、当人は病欠にしといたらいいじゃん。ーーーお~~~い!ちびっこ達、おいで~~~~!」
 ひさしぶりに大声をだすと、超爽快だ。俺の声につられて、小さな子供達がわらわらと寄ってきた。

「なに~~~!」
「なんかいいにおいがするーーー」
 サイズの合っていない服を着た子供達が、興味深い顔で俺の顔を見上げてくる。

「パンを配るよ。ひとり1個しかないけど」
「え~~!」
「すごぉ~い!」
「わあい~~~!えっ!なあに、これ!」
 子供達が目を大きく開いた。

 俺が作ったのは、甘くしたチョコを練り込んだアメリカンスコーンだ。パンといえどロールパンやナンもどきしかないこの国にとっちゃ、これは革命と言える代物だろう。ベーキングパウダーがなくとも、重曹とレモンで問題は解決。ありがとう、家庭科の授業。

「すっごい~!チョコレートなんて、はじめてだ……」
 興奮のあまり子供達が泣き出す。そ、そんなに感動されるなんてーー……、二徹したかいがあったよ……。

「ママにも、あげて、いい……?」
 おそるおそる尋ねてくる。子供なのに、遠慮深いんだなーー。
「いいよ。あげる」
 目を輝かせた子供達が、パンをもって小屋へと走って行く。

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