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34.噂話
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「ーーなぜでございます!」
何度目かになるクラメンの悲痛な声だ。
「だから、ーーロウバイの乙女様は城の中にいらっしゃるんだよ」
「ですがーー!」
「あんたの顔は知ってるから通ってもいいよ。でも、連れはだめだ。通行証もないんじゃ通れないよ」
「そんなーー」
困惑を隠せないクラメンが、申し訳なさそうな顔で俺を見た。
昼近くになってようやく城に辿り着いた俺達だけど、門番から通行NGをくらっちゃったんだよ。クラメンは大丈夫だけど、俺は入れないみたいだ。
「セラフィナ様……」
おーー、この橋けっこう高いなーー俺は城門前にかけられた橋の上から堀を眺めていた。城の周りに堀があるのはどこもお約束なのかな?
「クラメンはロウバイ宮殿に戻れよ」
沈んだクラメンを励ますように、俺は声のトーンをあげて話す。
「ですがーー」
「中がどうなってるのか、様子を見てきて教えてくれ」
「どこに行かれるおつもりですか?」
クラメンは鋭いなーー、俺の考えを先に読んじゃうんだよね。
「う~ん。土地勘もないから、そこの公園にでもいるよ」
城前にある公園を指差して俺は言う。中央公園っていって、城に行くなら必ず通る大公園なんだそうだけど、王都からその石畳でできた大広場までが、遠い遠いーー。土地があるからって、なんでも広く作っちゃだめだよな。
「遠くに行かないでください。お渡しする路銀もないですし……」
「うん。わかった」
「ーーすぐに戻りますから」
「無理しなくていいからね」
走りそうな勢いでクラメンが城門をくぐっていく。その姿を見送っていたら、城門兵が俺の顔を見て、しっしっ、と手ではらう真似をしてきた。俺は軽く頭を下げてそこから離れる。
ーーさて、公園をぶらぶらしようかな……。
肌寒いけど気持ちがいい天気だ。これからこの国は本格的な冬がくるらしいけど、雪も降ったりするのかな?
「………」
ここは……、この世界は何なんだろう。深く考えないようにしてきたけど、ーー俺は二度と家に帰ることはできないのか……。
「父さん…、母さんーー……、タマ………」
考えると悲しくなってくるから、無理にでも忘れないとだめだーー。
ーーけど………。俺は、家族を想い返さないための何かを、ここで見つけられるのかな……?
一瞬、脳裏に映りそうになったあいつを、俺はとにかく考えないようにした。考えない、考えちゃだめだーー……。
置いてあった木のベンチに腰を降ろし、ぼんやりと遠くを見る。そうだ、お金がないと水も買えないんだ……。クラメンが戻ってこなかったらーー?
ーー飢え死にかよ。公園だし、水飲み場ぐらいあるかな……。いや、あったとして、それは安全な水なんだろうか?
あらためて思う。水道水、ってすごい。水が安全っていうのは、とんでもなく偉大なことだったんだなーー……。
「ーー休憩しないか?」
「ああ」
隣りのベンチの前に立ったおじさん達が、持っていたほうきや木の皮で編んだバケツを芝生の上に置く。清掃員さんかな?バケツの中にはゴミや雑草が入ってるよ。
「疲れたな」
「あちこちにゴミを捨てられて、いい迷惑だ」
「祭りの度にこれだと困るな」
「違いない」
ふたりの会話に笑いそうになる。イベントがあると、どこの国でも同じ問題がでる。ゴミとトイレ、それを処理するのが一番大変なんだよな。
「ーーそういえば聞いたか?」
「何をだ?」
「ロウバイ宮殿の庭木を植え替えるそうだ」
「なんでまた。これからロウバイが咲くのにか?」
「地味すぎて嫌なんだと」
「そりゃ、ミルトニアや、ダリアに比べたらなーー」
「セラフィナ様とは、なかなかきつい性格の御方なんだな」
「あの冷酷な陛下を尻に引くんだ、とんでもねえ烈女だろ」
ははははっ、と笑うふたりを見て、俺は目を丸くするしかない。楽しくおしゃべり中の会話にはいるのは気が引けるけど、思い切って聞いてみるか……。
「ーーすみません」
彼らの話が途切れた瞬間を狙って、俺は声をかけた。
「ん?なんだ?」
「ロウバイを植え替えるって話は、いつでたものですか?」
急な俺の問いに気を悪くすることなく、おじさん達が言葉を返してくれる。
「今日だな」
「ーー今日?」
「王宮から相談があったんだよ。わしらはここの公園の管理をまかされているからね……。兵士様も手伝うのか?」
あーー、俺…軍服を着てたな。
「ーーいえ……。それって、ル……、ーー陛下も許可をされたのですか?」
「もちろんだよ。なんでもロウバイの乙女様の言うことだけは聞くそうだ。今朝も一緒に朝議におでましになられたってーー」
「これから貴族会議が荒れるだろうね」
「とうとう皇妃が決まるなーー」
「お世継ぎ様もすぐにできるだろう」
めでたい話だ、とおじさん達が話を締めくくった。
……そうだよな。ルイリが皇妃を選ぶことは、国民にとってもうれしい話なんだよな。ーーだって、それは、次に繋がるということだしーー。
『ーー冬に黄色い花を咲かせる。感じの良い花だーー。咲いたら花見をしようーー……』
「………ありがとう」
お礼を言ってから、俺は立ちあがった。
「ああ」
「わしらも仕事に戻るか……」
おじさん達も道具を持ち上げて、歩きだす。この国のひとはみんな品がいいよな。国民性ってやつかな?
何度目かになるクラメンの悲痛な声だ。
「だから、ーーロウバイの乙女様は城の中にいらっしゃるんだよ」
「ですがーー!」
「あんたの顔は知ってるから通ってもいいよ。でも、連れはだめだ。通行証もないんじゃ通れないよ」
「そんなーー」
困惑を隠せないクラメンが、申し訳なさそうな顔で俺を見た。
昼近くになってようやく城に辿り着いた俺達だけど、門番から通行NGをくらっちゃったんだよ。クラメンは大丈夫だけど、俺は入れないみたいだ。
「セラフィナ様……」
おーー、この橋けっこう高いなーー俺は城門前にかけられた橋の上から堀を眺めていた。城の周りに堀があるのはどこもお約束なのかな?
「クラメンはロウバイ宮殿に戻れよ」
沈んだクラメンを励ますように、俺は声のトーンをあげて話す。
「ですがーー」
「中がどうなってるのか、様子を見てきて教えてくれ」
「どこに行かれるおつもりですか?」
クラメンは鋭いなーー、俺の考えを先に読んじゃうんだよね。
「う~ん。土地勘もないから、そこの公園にでもいるよ」
城前にある公園を指差して俺は言う。中央公園っていって、城に行くなら必ず通る大公園なんだそうだけど、王都からその石畳でできた大広場までが、遠い遠いーー。土地があるからって、なんでも広く作っちゃだめだよな。
「遠くに行かないでください。お渡しする路銀もないですし……」
「うん。わかった」
「ーーすぐに戻りますから」
「無理しなくていいからね」
走りそうな勢いでクラメンが城門をくぐっていく。その姿を見送っていたら、城門兵が俺の顔を見て、しっしっ、と手ではらう真似をしてきた。俺は軽く頭を下げてそこから離れる。
ーーさて、公園をぶらぶらしようかな……。
肌寒いけど気持ちがいい天気だ。これからこの国は本格的な冬がくるらしいけど、雪も降ったりするのかな?
「………」
ここは……、この世界は何なんだろう。深く考えないようにしてきたけど、ーー俺は二度と家に帰ることはできないのか……。
「父さん…、母さんーー……、タマ………」
考えると悲しくなってくるから、無理にでも忘れないとだめだーー。
ーーけど………。俺は、家族を想い返さないための何かを、ここで見つけられるのかな……?
一瞬、脳裏に映りそうになったあいつを、俺はとにかく考えないようにした。考えない、考えちゃだめだーー……。
置いてあった木のベンチに腰を降ろし、ぼんやりと遠くを見る。そうだ、お金がないと水も買えないんだ……。クラメンが戻ってこなかったらーー?
ーー飢え死にかよ。公園だし、水飲み場ぐらいあるかな……。いや、あったとして、それは安全な水なんだろうか?
あらためて思う。水道水、ってすごい。水が安全っていうのは、とんでもなく偉大なことだったんだなーー……。
「ーー休憩しないか?」
「ああ」
隣りのベンチの前に立ったおじさん達が、持っていたほうきや木の皮で編んだバケツを芝生の上に置く。清掃員さんかな?バケツの中にはゴミや雑草が入ってるよ。
「疲れたな」
「あちこちにゴミを捨てられて、いい迷惑だ」
「祭りの度にこれだと困るな」
「違いない」
ふたりの会話に笑いそうになる。イベントがあると、どこの国でも同じ問題がでる。ゴミとトイレ、それを処理するのが一番大変なんだよな。
「ーーそういえば聞いたか?」
「何をだ?」
「ロウバイ宮殿の庭木を植え替えるそうだ」
「なんでまた。これからロウバイが咲くのにか?」
「地味すぎて嫌なんだと」
「そりゃ、ミルトニアや、ダリアに比べたらなーー」
「セラフィナ様とは、なかなかきつい性格の御方なんだな」
「あの冷酷な陛下を尻に引くんだ、とんでもねえ烈女だろ」
ははははっ、と笑うふたりを見て、俺は目を丸くするしかない。楽しくおしゃべり中の会話にはいるのは気が引けるけど、思い切って聞いてみるか……。
「ーーすみません」
彼らの話が途切れた瞬間を狙って、俺は声をかけた。
「ん?なんだ?」
「ロウバイを植え替えるって話は、いつでたものですか?」
急な俺の問いに気を悪くすることなく、おじさん達が言葉を返してくれる。
「今日だな」
「ーー今日?」
「王宮から相談があったんだよ。わしらはここの公園の管理をまかされているからね……。兵士様も手伝うのか?」
あーー、俺…軍服を着てたな。
「ーーいえ……。それって、ル……、ーー陛下も許可をされたのですか?」
「もちろんだよ。なんでもロウバイの乙女様の言うことだけは聞くそうだ。今朝も一緒に朝議におでましになられたってーー」
「これから貴族会議が荒れるだろうね」
「とうとう皇妃が決まるなーー」
「お世継ぎ様もすぐにできるだろう」
めでたい話だ、とおじさん達が話を締めくくった。
……そうだよな。ルイリが皇妃を選ぶことは、国民にとってもうれしい話なんだよな。ーーだって、それは、次に繋がるということだしーー。
『ーー冬に黄色い花を咲かせる。感じの良い花だーー。咲いたら花見をしようーー……』
「………ありがとう」
お礼を言ってから、俺は立ちあがった。
「ああ」
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