150 / 194
ラース家の一族 編
第29話 ラース大公ナディア ※キサラ視点※
しおりを挟む「ーーお祖父様!孫いじめも大概になさってください!」
扉につっかえながら兄が部屋に入ってくる。ーー鈍臭いところは変わらずか……。
「サキナか……。はあーー、残念だ。まさか、おまえに裏切られるとはなーー……」
「裏切られるほうに問題があったんでしょうね!」
凄いーー、兄は祖父の顔を見ても、動揺せずに堂々としている。
「エウローペーの血ほしさに、ずいぶんと手を尽くされたご様子で」
「ああ、ラースと並ぶ古い血だからな、是非とも手に入れたかった。これに、私を産んでもらいたかったのだがーー……」
はあーー、と落胆した様子の祖父に、兄の目が細められる。
「……」
だが俺は、祖父の言葉や態度から、悟ることができた。
ーー調べはしたが、アディの子宮は子供ができる状態じゃなかったのか……。
「ナディア様!マキラ様とタキナ様がおられます!あのふたりのどちらかにーー!」
兵士に拘束させているカルロが、外から叫んでいる。あいつの忠義心には、底がないな。
「もうよい……。外の風が入ってくる……、雨上がりの良い風だーー……」
「………」
「こんなところに籠もっていたところで、何の楽しみもないーー……」
「ですが……!!」
「ーーまだ寿命があるなら、その間にやるべきことはしておかないとな。サキナ、アイゼを雲瀏にやる」
「!」
「奴らは長年ラースの領地を狙っている。ちょろちょろとうっとおしい………。おとなしくさせるためなら、子供のひとりぐらい差し出せ」
「ふざけないでください!」
「ふざけているように、見えるか?」
「あの子は、旦那様の子です!お祖父様の好きにできる子ではありません!」
「何を言っているーー、ラースのアザ花種から生まれたアザ花種は、皆ラースのものだ」
「何を馬鹿な!」
「それで、ラースの民を守れるのだ。ラースのアザ花種にはラースの民を守る使命がある。普通に生まれた者では、民の役に立たない」
「お祖父様……」
「ラースの領地が奪われてもおまえは平気なのか?自分の子のほうが可愛いのか?」
「……」
「ーー平和に解決するには婚姻しかない。おまえにもそれを理解して欲しかった……」
「お祖父様ーー。お祖父様の理想はよくわかりました。ですが、アディ殿下にお祖父様のクローンを生ませるとは、そこは理解ができません。そんなもの、お祖父様ではないでしょ?」
正論をぶつけても、無駄のようだな。祖父には兄の言葉など聞く気がない。ほんの少しも自分が間違ってるとは思っていない面だ。
「その通りだーー。だが、私と同じなら、臓器も同じだろう?」
「ーーお祖父様、何をおっしゃっているのです?」
兄の顔色がみるみるうちに変わっていく。
「クローンを成長させ、必要な臓器を入れ替える。ただ、それだけだ」
「……なんて、馬鹿な考えを……。それではお祖父様の寿命が先に尽きます」
「クローン魔法技術を私はいつから手を付けたと思っている?その成長は普通の人間よりはるかに早いとされているのだ。ーーそれに、見てわからないか?」
からかうような祖父の言葉に、兄が少し考える顔になった。
「………お若い?」
「そうだーー。シャーリの保護魔法は私にもかけられている。奴が生きている間、私が死ぬことはないーー」
「………」
祖父の語る話の内容には、恐怖しかない。自分のためにクローンを作って、臓器を入れ替えるなど、正気の沙汰じゃないだろ。
「ーーこっわ、ありえない」
扉をひょいっと、軽々持ち上げたタキナが身を震わせる。重さをなくしたのだろう、扉は簡単にあいつの身長ぐらいまで開いた。
「まじでイカれちゃったんだ……。保護魔法のかけっぱなしもよくないんだよね……」
マキラも表情が凍りついている。
「ーーまず脳がやられるんだ……。まともに思考が働かなくなってくる」
「ーーエアロとムシュカもかかっているのね……」
兄が、椅子に座ったまま動かないエアロを見て、肩を落とした。
「ーーあの頃と歳が変わらなく見える……。苦労をかけたわ、エアロ……」
悲しげに眉を寄せる兄を見ても、エアロの表情は変わらなかった。ぼんやりとした顔で、「ああ、サキナ様ですか。お元気そうで」、と口を動かす。姿は昔と変わらないのに、まるで別人のようだ。
完璧に見えるかもしれないが、保護魔法には欠点がある。短期間なら影響はでないのだが、長期に渡って人体にかけ続けた場合、音や匂い、食味などからも身体を保護してしまうのだ。それでは人間らしさを保つことなどできるはずがない。
ーーダウリーも保護魔法をかけ過ぎた弊害からか、性欲がないらしいーー……。もちろん、そんなことはサシャラにだけは言えるわけもなくーー。
兄もそこには気づかなければいいのだがーー……。
「エアロ、外に出なよ。保護魔法を解除しないと……」
マキラが外を指差す。
「でも、どうやって?」
「ジーヴァ様の正伴侶メイリェ様が言ってた。高温のお湯に長時間浸かると、保護魔法の効力がだんだん無効化されてくるって」
「なんで~?」
「ええと…。代謝をあげて、保護膜を無理やりはがす、みたいなことを言ってたんだ。温泉がいいそうだよ」
うろ覚えで悪いけどーー、と言うマキナを見て俺は思った。ダウリーは風呂を嫌う。のんびり浸かっている間に襲撃されることもあるからだ。
ーーいいことを聞いた。今度、温泉に誘ってやろう。エウローペーの地獄温泉にな……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます☺️
そうですね……、ナディアじいさんがラース家を大きく領地を平和にしたことは事実なんですよーー。現実問題、王侯貴族が恋愛結婚するなんて、稀なことですもんねーー……。
明日の更新はいよいよ、アディとキサラの感動の再会ーー、になると思います!どうぞ、ご期待ください🙏
193
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる