(完結)主人公の当て馬幼なじみの俺は、出番がなくなったので自分の領地でのんびりしたいと思います。

濃子

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当て馬王子 アディオン 編

第35話 与一、心で泣く。

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 ガンッ!

 金属のぶつかる音が響く。でも、それは一瞬だった。警備兵はすぐにその人物に剣をはじかれ、鋭い突きをくらい地面に叩きつけられる。見ると警備兵の鎧の、胴の部分が割れていた。

 けど、俺はそんな警備兵より、彼を地につけた人物に呆然とするしかなかった。


 ドクッーー。


 なんだろ、デコが痛い……。

「ーーキサラ」
 気がついたら好きだったひとーー。俺には輝いて見えるそのひとが、いま視界の中にいた。



「制圧しろーー」
「はっ!!」
 会場の中やあちこちから、彼と同じ黒の貴族服を着た男達が飛び出してきた。そして、あっという間にユドンや、ガウロ、警備兵を捕らえていく。

 その中、キサラは剣を振り、残った警備兵も簡単に倒していった。マジでチョチョイのちょい、って感じでーー。誰かさんみたいに、激強だ。

 

「ーーアディ!無事か!!」
「アル!」
 何で!?
 俺の身を庇うようにアートレが立つ。

「おい」
 近付いてきたキサラを、アートレが睨みつけた。
「おまえ、よくもアディを危険な目にあわせたな」
「ーーそれは悪かったな」
 ちらっとアートレを見て、ぶっきらぼうにキサラが言う。

「局長、逃げた客も捕まえました!」
「ロンドスタットの警備兵とは話がついているーー」
 俺は報告に来た男を見て目を丸くした。あれだ、片目に傷があった盗賊だよ。そのひとが目に傷もなく、貴族の服を着てるんだからたまげるよ。

「全員いたか?」
 キサラが俺の手枷と足枷をはずしてくれた。腕の状態を確認するようにさわられ、俺は胸がドキドキする。相手はやらしい意味もないのに、俺なにを興奮してるんだよ。

「確認中です」
「領内のリストと照らし合わせろ」
「わかっています」
「あいつはいたか?」
「檻の中で寝てました」
「ふん」

 えっーと。何の会話なんだろうなーー。
 不思議そうに成り行きを見ていた俺に、アートレが答えを教えてくれた。

「アディ、こいつらはへブリーズ領の領内捜査局の局員らしい」
「え?盗賊では?」
「捜査のためなら何にでもなる組織だ。大師匠が言ってた」
 ほぇー、向こうでいう、公安みたいな組織かな。

「エドにいめ、口が軽いな」
「秘密にしといてくださいよ。潜入捜査が多いんでーー」
 いま、ぺこり、と頭を下げたおじさん、俺のことマジで殴ったひとだよね?お父様にだって殴られたことないのにさーー。

「では、サキナ殿は?」
「知らない。あれはすぐに顔に出るからな。こいつらも家族にすら自分の仕事を言っていない」

 そ、そうなんだーー。  
 にこにこと笑うおじさん達、すごいな……、あのときは盗賊だったのに、マジでいまは騎士にしか見えないよ。


黒幕ガウロにまで辿り着けたのは幸いでしたねーー。売り飛ばしたアザ花種のリストを所持していたそうです」
「そうかーー。皆無事だといいんだがーー」
「これも、王子様が身体を張ったおかげですね」

 ゴツい男がガハハっ、と笑った。あー、みんな聞いてたのかーー。アディオンらしくなくて笑ったよな……。

「いやはや、素晴らしい演技力と胆力。うちの捜査局に入りませんか?」
「……」
「局長より使えますよ。うちの局長、演技力ゼロなんで」
「うるさい」
 キサラが局員達の言葉に、不満そうな顔になる。うん、その顔を拝みながら飯食いたい。
 

「そうだ、アディ。なんだあの話し方はーー」
「ーーいや……」
「ものすごくよかった!可愛すぎてオレは死ぬところだった!」
 赤い顔をしたアートレが興奮気味に食いつく。


 実は、こっちが素なんですーー、って言ったらどうなんだろうな………。


「ーー市井しせいの若者達で勉強した」
「さすがは、まじめな奴だ」
 うん、実際そんな話し方する若者いないんだけどね。


 騙されてくれるのならそれでいい。まわりのおじさん達は絶対に信じてなさそうだけどーー。

「マキラ殿は?」
「ああ、ガウロを捕まえるのに協力させた」
「協力ーー」

「あいつは、裏社会にツテがあるからな。黄色王とかなり裏で遊んでいたから、ガウロやユドンのような奴らからは信頼がある」
 ふ~ん、つらいばっかりじゃなかったのかな……。

「用心深い奴らで、なかなかアザ花種売買の実態をつかませなかったんだが、おまえを見て欲がでたな」
「あ、、、」
「礼を言う。兄ではガウロまで引っ張りだすことは、できなかっただろう」

「……」
 礼なんてーー。


「それにしてもわざわざ城に忍び込んでさらうとか、手が込んだ真似をーー」
 噛みつくようなアートレを、キサラが軽くかわす。

「ユドンを信用させないと意味がなかったからな。マキラにも本気で兄をいじめるようにさせた」

 たしかに、あれが演技だと言われても信じられないや。
 潜入捜査かーー、カッコいいな。盗賊の服もよかったけど、いまの貴族のジャケット姿もよく似合う……。

「……サキナ殿は大丈夫か?」
「大丈夫だ。おまえはずいぶん兄が気になるんだな」
 そういうわけじゃないんだけど……。キサラがカッコいいから直視できなくて、他のことで気を紛らわせたいんだよーー。

「エドアルド殿のことでは、悲しませてしまったからーー」
「ああ。おまえ、そこは最低だと言っておく」
 うっ!俺、キサラに嫌われてる……?

「ーーはあ?おまえ、なに偉そうにアディに言ってんだよ!」
「事実だ」

「おい、アディは帰っていいだろ!陛下もリディ兄も心配してるから早く帰ろうぜ」
「さっさと行け」
「アディ、馬車は向こうにあるからな。そのままハネムーンでもいいぜ」

 ふたりのやり取りを聞きながら、俺はショックを受けていた。


 イリスにふられたときよりも、ショックが大きいかもしれないーー。このまま俺もショック死するかもしれないーー。
 
 でも、嫌われた、っていうか元から好かれてなかったんだよな。あれも全部、俺を信じ込ませるための演技だっただけなのかな……。

 でもさーー、、、ちょっとぐらいさ……、、、
ちょっと、ぐらいはさ……、、、



「キサラーー!」
 パタパタと足音がする。
 見ると檻の中にいた美少年が、こちらに向かって走ってきていた。

「おい」 
 目を細めたキサラが、美少年をじろりと睨む。
「さすがはボクのキサラ!助けに来てくれたんだね!愛してるよーー!」
 美少年がぎゅっとキサラに抱きつく。ため息をついて、彼が美少年の頭を撫でた。



 ……………。

 仲の良いふたりの様子を見ながら、俺はそこから視線を外した。


 ーーいちゃつくなら、よそでやれよ、、な……。


「ーーアル、行くぞ」
「ああ!」
「あっ、お兄さん!」

 美少年に呼び止められ、俺は振り向いた。ドンッ、と身体がぶつかる衝撃に目をぱちくりしていると、目が合った美少年が俺の首をつかんでーー、

「あぁっーー!!」
 アートレが叫んだ。
 美少年が俺の頬にキスをしたからだ。
「お兄さんのおかげで、ボク売られずにすんだって聞いたよ」

 笑顔が、とてもかわいい。
 うん、文句のつけようもないーー。



「いや、こちらこそ君のおかげで助かったーー」
「全然、全然だよ~」
「では、」
「うん。また会おうね」

 俺は会いたくないーー、キサラの恋人なんかとーー。美少年で性格もいい、おまけにアザ花種なんて、勝てる要素がひとつもないだろう。


「ーーお兄さん、また泣きそうな顔してる」
 ふふっ、なんでだろうな。
「ーーこういう顔だ」
「ふうん……」
 俺は振り返らなかった。




 ーーあの日のあの身体の熱さは、きっとまぼろしだったんだな……。


















「殿下ーー!」
 会場の外ではケレイブやオーフェンが、待っていてくれていた。
「心配をかけた」
「何をおっしゃいます!無事で何よりです」
 涙目のケレイブに、俺も泣きそうだよ。

「さあ、馬車にどうぞーー」
 用意されていたのは豪華な馬車だ。目立ちすぎるだろーー、恥ずかしいからちょっとやめてくれる?みんな見てるじゃん。 

「もう、エドアルド殿から聞いても、にわかには信じられませんでしたよーー!!」
 興奮したようにオーフェンが話す。



 ーーたしかに、セディランを国に帰してテレゼを誘拐させ、兵士が手薄になったところで本命のサキナをさらう、だなんてよくうまくいったよな。

「弟も、捜査に協力したのか?」
「セディは、違うらしい。テレゼ君を誘拐すれば、ロンドスタット大公子と別れる、とマキラという奴に言われてやったとーー」

「そうか……」
 大公子が、悪の色気に血迷ったのかな……。マキラの小悪魔のような容姿を思い出して俺は思う。
 たぶん、あのノエルと同じ分類だよ。

「ーーセディランをオークションに潜入させれば手っ取り早かったのに……」
「相手側からの信頼関係を得るには、こちらも相当の悪だというところを見せないといけなかったそうですよ」
 それもそうかーー。

「それに、捜査局 局長殿も、サキナ殿で大丈夫と思っていたそうです」
「それはーー」
 俺は言葉に詰まった。それは、もしかしてーー、

「妊娠中だからだよ。あいつマジで血も涙もない捜査員だな」
 妊娠中のアザ花種は高値で取引されるんだと、と憤慨したアートレが俺の肩を叩く。


「……」
 違うよ……、必ず助けるっていう自信があったし、セディランを競売にかけることを良しとしなかったんだよ。

 キサラはそういうやつだ……。


「ほんと、アディが連れ去られたときは心臓がとまると思ったぜ」
「そうか……」
「オレの未来の伴侶に何をするんだよな!」
「伴侶じゃない」

 はっきりと言うと、アートレが目を見開いて口を閉ざした。馬車の中が異様に静かになるのを感じ、俺はひとつの可能性に気づく。

 アートレ、さてはおまえあちこちで言いまくってるな?『付き合っている』、なのか、『結婚の約束をした』、なのかわからないけどーー。

「アディ……」
「外堀から埋めるような作為的なことをするやつは嫌いだ」
 ぴしゃりと言い切ると、アートレが気まずそうにそっぽを向いた。

「ま、まあ、殿下、お疲れでしょ?今日は国境の町で宿を取っていますから、ゆっくりおやすみください」
 ケレイブが空気の悪さを入れ換えるように、気を使いながら話す。

「ああ、すまない」
 心遣いがありがたい。
 背中を伸ばして寝たいもんーー。
 
 その後は、俺も黙ったまま馬車に揺られていた。ときどきアートレが口を開こうとする気配を感じたが、俺は知らないふりをした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いつも最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます😊

 と、いうわけで、キサラさんの正体はF○I捜査官、みたいなお仕事なんです。いや、彼はそんなに演技は得意じゃないので、マキラさんががんばって、敵を信用させました☺️

 また、キサラサイドから見た話も書きたいなーー、と思います😄
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