君がいる明日なら

通りすがりの小説投稿者

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君との日々に終焉を

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君がいる明日なら、どれだけ良かっただろう。

そう、心中でつぶやく。

「つれぇなぁ…」
覇気の無い声で呟く。
数週間前に、僕の彼女であった雛は、この世界から別れを告げた。

死んだのだ。
原因は僕が1番理解している、交通事故だった。
あの日、僕らは2人でデートに出かけていた。
__________________

「次はあそこに行こう!!!!」

「おいおい…もう俺の両手がちぎれちまうよ……」
両手には彼女が買った服やらお菓子やらが大量に詰め込まれた袋を掲げていた

「男なんだからシャキッとしないと!」

「もういっその事オカマにでもなろうかな」

「えっ…」

「え?いや嘘だよ嘘だからドン引きしないでくれ」
切実に訴える。
冗談を冗談と受け止めてくれ頼むから

「まぁ、そんな事より。ほらっ!行くよ!」

「はいはい。」

「はいを2度言っちゃいけません!」

こいつは親か
…とそんなこんなでショッピングモールへと軽い足取りで向かっていった。

「なんでよりにもよって下着を買いに来るんだ下着を」

「別にいいじゃない、下着くらい」

「いや雛はいいんだろうが、僕は男だぞ。変態に見間違えられたらどうするんだ」
こんな所学校の奴らに見られても見ろ。
次の日には下着変態野郎なんて異名が付けられちまう

「私がいるんだから大丈夫よ!」
穏やかな笑顔でそう言われる。
こいつに僕が味わってる恥ずかしさを分けてやりたい。

「ちょっと試着してくる~!」

「…え?」
そう言った時にはもう彼女はそこに居なかった。
え?どうすればいいの?本当に変態野郎って言われちゃうよ?
「おいおいおい…」
冷や汗が滲み出る。
穴があったら入りたい。

「うわっ…きもっ…」

「ひっ!」
どこの学校か分からない女子高校生グループにジト目で言われた。
思わず声が裏返ってしまった。
なんで何もしてないのにきもなんて言われなきゃいけないんだ。

……よく良く考えれば今の状況から見て僕は男1人で下着コーナー彷徨いてる不審者なのか……

「これ買う~!」
…と雛が試着室から出てくる。

「お前そろそろ金大丈夫なのか?」

「…やばいかも」

「仕方ないな、ここくらいは出してやるから、今度ラーメン奢りな」

「ありがとう…あれっ?私の方がそれ損してない!?」

「カンのいいガキは嫌いだよ」
そんなくだらない雑談を交わしながらショッピングモールを後にする。

「やばいやばい、そろそろ肩が外れちまう」

「普段ちゃんと動かないらでしょ~」

「雛が動けすぎるんだよ…」
そろそろ本当に肩が外れちゃいそうだ。
少し近道をしよう。

「雛、ちょっと近道行こう。そろそろ肩が限界だ。」

「弱いな~。まっいいけど」

雛からの承諾も得たので近道をする。
ここから右の信号を渡ればあとは一直線で自宅に辿り着く。

「時間やばいな…」

「だね。空真っ暗」

「家泊まるか?」

「へっ」
そんな素っ頓狂な声を出される。
…何か変なこと言っただろうか

「いや、お前家遠いだろ。買い回る時は僕が荷物持ってたからいいけど、1人でこれ持って帰るのはきついだろ。今日泊まって明日僕も持ってくよ」

「あぁ…うん。じゃあお邪魔しようかな……?」

それにしても秋とは言え冷えるな。

「ほら、渡るぞ。」

「うん!」

と、雛からの相槌を聴いた瞬間。
耳に響くブレーキの音が聞こえた。

一瞬、顔を横に向ける。

大型トラックだった。
運転手が焦った顔でブレーキを踏んでいる

まずい、と思った時にはもう遅かった。
手に持っていた袋を落とし、彼女を無理やり突き放そうとした時に、僕の胸辺りに手を突きつけられ、その場から突き放された。
その瞬間に彼女の顔が見えた。
僕は思わず手を差し伸べる、それを彼女も掴もうとする…がその手が掴まれることは無かった。
瞬間、彼女が視界から消えた。

「ッ……」
地面との衝突に多少の痛みを感じたが、そんな痛みはすぐにかき消された。

「雛!!!!!!!!」
野犬の如く吠えた。
まるで遠吠えのような声で彼女の名を呼び、彼女の元へ行く。

「雛!!雛!!雛!!」
ひたすら彼女の名前を呼ぶが、返事はない。
彼女の手を思わず握る。
「あっ……あぁぁぁ……」
声にならない呻き声をあげる。
頬に涙が伝う

けど、その涙は誰かの手によって拭われる。

「え……」

「ひ…な」
生きていた。
まだ、間に合う。
周りの人がすぐに病院へと連絡をしていたのには気がついていた。

まだ大丈夫だ。

彼女は喋れないようだった。
でも、それでいい。喋ったら傷口が酷くなる。

「大丈夫…大丈夫だから。」
そう言いながら手を握る。

微かな力で握り返してきてくれた。

「だ…す……」
無理に声を出そうとする雛に静止をかける
「傷口が開いちまう。まだ、話しちゃダメだ!」
少し力強く叫ぶ
そんな静止も聴かずに彼女は続けた。

「だ…い………す…」

き…と口元の動きで理解した。

その言葉を紡いだ瞬間、手から温もりが消えた。

握っていた手も、重力に従って落ちていく。

「あ…あぁあぁぁ……」
目元がぼやける。

死んでしまった。
最愛の彼女が、死んでしまったのだ。

「行かないで…くれよ………」
また、手を握る。

「また目元を拭ってくれよ……」
握る力を強める。
全身が熱くなるのを感じた。

悔しさのあまり、下唇を噛む。

何も出来なかった。
逆に助けられてしまった。

涙でくしゃくしゃになった顔で、空を仰ぐ。

「助けてくれよ…」
もし、神様が居るのなら助けてやって欲しい。
僕と彼女を救ってやって欲しい。

そんな事を思った拍子に、僕の意識はプツンと切れた。

_______________

「思い出すもんじゃねぇな」
気付けば唇から血が滲みでている。

君がいる明日があるのなら、どれだけ幸せだったのだろうか。

ふとした時にこの言葉をリピートする。

「あ~あ………」
バタリ、と足元から力が抜けて倒れ込む。

視界には白黒の空が広がった。
綺麗だったはずの青い空が、今の僕の目には白黒にしか見えない。
希望がないのだ。
彼女の居ない世界に。
多分、心が死んでしまったのだろう。
何事にも関心が持てないような気がした。

悪くいえば病んでいる。

「最悪の気分だ」
本当に最悪だ。

いつだって雛が隣にいたが、今では独りだ。
友達とはそこそこ仲良くやれてはいたが、今は話しかけられても素っ気ない対応しかできていない。

頭の中全てが真っ暗だ。
お先真っ暗とはこの事だろう。

「はぁぁ……」
大きくため息をつく。
受け止めなければいけないのだろう。
この日々の終焉を
あの楽しい日常は決して戻っては来ないのだと。

理解はしているが、まだ考えてしまう。
もし、彼女が生きていたなら…と。

「……」
悔しい。
悲しい。
辛い。
3つの感情がごちゃごちゃになる。

ガシッ…とフェンスを思い切り握る。
いっその事、このまま逝ってしまいたい
君のいない明日に未来はない。
今でもまだ視界に映るものは白黒だ

でも、もし僕が後追い自殺なんてしたら君は怒るんだろうな。

そんなことする為に助けたわけじゃないって、そんな君が言いそうな事を妄想しているとクスッと笑いが込上げる。

「あ~あ…怒られたくもないし、死ねねぇなぁ。」
再び倒れ込む。

僕の妄想の君の言う通りだ。
なんのために僕が助けられたんだ。
それならば、彼女の為にも生きなければならないらしい。

空に向かって微笑を浮かべる。
そして、優しい声音で空に告げる。

「ありがとう」

…と独り屋上で呟いたが、その声に返答はなく、空に吸い込まれるかのように消えていくのだった。
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