あやかしマフラー

わかば

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ルククの告白

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 大きなお風呂が、くるるの絶望を少しだけ癒してくれた。こんな思いをしたのは、いつぶりだろうか。たしか、この世界に来てしまったとき以来だろう。けれど、クルルが一番絶望したのはこの世界に来た時ではなかった。今ではなかった。家族が人間に連れて行かれてしまった時だ。あの時ほど寂しく、恐ろしい思いをしたことはない。大丈夫。あの時も乗り越えられたんだから、きっと今回も乗り越えられる。
食堂に着いた頃、クルルはポソリと呟いた。
「よし、大丈夫。」
「え?何が?」
「わっ。」
後ろから話しかけてきたのは、ルククだった。その顔は、まるで無理やりトリックも破れたような笑顔だった。
「無理して笑わなくていいよ…私だって笑えないし。」
「そうか?でも、なんか笑わないとやっていけなくてなあ…。」
ルククははあ、とため息をついた。
 食事をしている途中、二人は何も話さなかった。ルククの両親はなんとか盛り上げようと、元気付けようと頑張って話しかけてくれていたのだが、二人は悲しそうにニコッと笑うだけで何もいうことはなかった。そのうち両親も諦め、誰も何も話さなくなった。いつもよりも、食事が不味く感じた。
「なあ、クルル。大切な話があるんだけど、今からルククの部屋に行ってもいいか?」
食事を済ませ、貸してくれた部屋に戻ろうとすると、ルククが話しかけてきた。
「いいよ。」
もう連日の疲労でかなり眠いのだが、仕方がない。一緒に旅した相棒が、大切な話があるというのだから。
部屋に着き、椅子に二人が座ると、ルククは真剣な顔で話を始めた。
「俺と二人で、この世界で生きて欲しいんだ。」
ルククの話は、クルルにとってそこまで悩むものではなかった。どちらにせよ、元の世界に帰る方法はないのだから。でも、一つ、気になることがある。
「二人で?」
「そう。二人で。」
ルククの顔は、だんだん赤くなっていった。
「俺、クルルのこと……好きみたいなんだ。」
ルククの精一杯の告白だった。けれど、クルルは直ぐに答えを出すことはできなかった。ルククのことは好きだ。けれど、それは恋人としてじゃない。相棒、友人としてなのだ。
クルルは、それを素直にルククに伝えた。するとルククは、少し悩んだ後クルルに笑いかけていった。
「じゃあ、お試し期間をくれよ。」
「お試し期間?」
ルククはそう、と言って頷く。
「その間に、クルルに認めてもらえるように頑張る。」
期間はどうしようか、とルククが悩んでいると、クルルは
「一年。」
と提案した。ルククにとってはそれでも短いだろうに、快く承諾してくれた。
「じゃあ、今日はもう寝ようか。」
「うん、お休み。」
ルククに、好きだと言ってもらえた。その余韻は、ルククが部屋を出ていった後も続いていた。嬉しかったのだ。唯一の同郷で、仲のいい友人ではなくなってしまったのには悲しいし、少し動揺している。けれど、好意を寄せてもらえるというのはいいことだ。
「おやすみなさい、お母さん、お父さん、私の可愛い妹……。」
みんなにお休みなさいの挨拶をして、その日はゆっくりと夢の中に飲まれていった。
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