青春Doble Dutch

森山葵

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UNIVERSE

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【UNIVERSE】

学園祭当日。おれにしては珍しく緊張していた。胸が高鳴る。恋とも違った、清々しいようで、楽しい気分だった。これから始まるおれの初舞台が楽しみである一方、少しだけ不安にも思っていた。
「良太郎、調子はどうだ?」
「まあまあだね」
おれはあの後、二宮さんと相談してダブルダッチ部に入ることにした。青春は一度きり、と言った二宮さんの言葉を、おれは飲み込んだのだ。総務委員会で堅苦しい仕事に追われて三年間を終えるのもまた人生かもしれないが、こんなに面白い仲間のいるダッチ部で、青春を過ごすのも悪くないなと思った。だから、夏休みの直前におれは入部届けを提出し、おれは正式にダブルダッチ部に所属することになった。我ながら大きな決断をしたと思った。
今日は待ちに待った学園祭。おれの初舞台は目の前に迫っていた。
「りょーくん、あんた緊張してるでしょ」
「してないよ。こんくらいで緊張なんかするもんか」
おれは少し強がった。梨子は笑った。この一ヶ月、ダブルダッチに全てを捧げた。この九月の学園祭のために、暑い中でもナワを回す練習をして、この日のために努力して来た。とても楽しみだった。ひさびさに戦いの舞台に立つわけである。時間が迫るにつれ、緊張もさることながら、興奮する気持ちも抑えきれなくなって来た。アドレナリンがみなぎる。おれ達がこれからパフォーマンスを行うと大体育館は学園祭を訪れた人でいっぱいだった。いよいよ始まる。
「頑張ろうな、坊ちゃん」
「おお」
いよいよ始まった。まず梨子がナワの中に飛び込んだ。彼女はいつものようにこなれた様子で難なく跳んでみせる。ナワのスピードは徐々に上がっていき、春香さんと秋音さんは息ぴったりでナワの速度を上げていく。ナワを回すのにお互いのは息が合わなければ当然ナワがたるんでしまう。それがジャンプのミスにつながることもある。しかし、さすが双子の姉妹。二人は以心伝心で寸分の狂いもなくナワを加速させていく。その場に風が吹き荒ぶようだ。中で跳ぶ梨子も二人の加速に合わせて足を動かして懸命に跳ぶ。その姿はなんとも鮮やかだった。機械仕掛けの精密なカラクリが動くように、テンポよくすいすいと跳んでみせるのである。梨子はノーミスで跳び終えた。観客から拍手が沸き起こった。次は羽多野姉妹のリリース技。互いのナワを持ち替え、これも見事に成功させた。これはこの二人だから成せる技だ。続いて大の出番だ。ナワに飛び込んでグラウンドタッチ。逆立ちをしながらナワを跳んでいく。最初は二本腕、そして次にたった一本の腕で己の身を支え、力強く跳んでみせたのである。これには観客が驚いていた。先ほどの何倍も大きな拍手、そして歓声が大めがけて跳んで来た。大もミスなくこの技を終える。ターナーが変わった。羽多野姉妹から梨子と大に交代だ。続いてやって来たのは宮城。彼の繰り出すのはアクロ技。抜群の身体能力を生かし、梨子と大の回すナワとナワの間を器用にくぐり抜け、空に鮮やかなバック宙を決め込んだ。ダイナミックな技に、見ているもの皆魅了された。勢いよく宮城が着地すると、今度はおれの番がやって来た。ダブルダッチを初めて一ヶ月。まだまだおれは初心者だ。決して上手いとは言い難い。しかし、それでもこの一ヶ月の成果を見せてやる。おれの実力を見せてやる。ダブルダッチの素晴らしさを、皆に知ってもらいたい。おれは威勢よく梨子と大の回すナワに入り込み、足に迫り来る双縄を全身の感覚でとらえながら跳んでいった。左足、右足、左足、右足。全神経を足に集中させ、無我夢中で跳ぶ。おれが見ていたのはどう無に近い世界だった。見えるのはナワだけだ。自分の世界で、二本のナワによって編み出される宇宙で、羽を広げて翼をはためかせ、跳んだ。すごい。空を歩いているみたいだった。この瞬間が、おれには酷く長く感じた。おそらく三十秒に満ちるかどうかという世界なのに、まるで三十分くらいずっと跳んでいるみたいな気持ちになった。ずっと跳んでいたい。楽じゃないけど、この感覚か楽しい。ダブルダッチをやってよかった。汗が目に入った。おれはそれでリズムが崩れて、途端に元の世界に戻されてしまった。しかし、十分すぎるほど満足のいくパフォーマンスができた。おれはミスこそしたものの、心の底から満ち足りていた。演技の終わりに、客席にピースサインを送った。おれが跳んだ後は羽多野姉妹。二人でナワに入って、ここでも一糸乱れぬ跳びを見せる。まるで鏡に写したかのように、綺麗にシンクロして二人で跳ぶ。姉妹が飛び終えると、いよいよ緊張のラスト。ターナーが羽多野姉妹に交代。そしてここで跳ぶのは大だ。大が最後に繰り出すのはロンダートバック宙。先ほど宮城のやったバック宙とは違い、横に側転してからすぐにバック宙を繰り出す、非常に難易度の高い技だ。命がけの大技である。おれは大がロンダートバック宙を繰り出すのをまじまじと見守った。その場に緊張が走る。仲間も観客も見守る中で、大は音楽の最期のサビの始まりに合わせて助走を始めて、一気に技を繰り出した。ターナーを務める羽多野姉妹は一心不乱にナワを回す。大はそこに飛び込んで、側転を綺麗に決めた。成功するか、否か。皆が固唾を飲んで見守った。大は側転の後、ナワの隙間に合わせて渾身のバック宙。ナワとナワの間を縫って放物線を描いて大は空を飛んだ。そして着地。技は大成功に終わった。観客からは今日一番の拍手が上がった。
「どうも、ありがとうございました」
おれ達がパフォーマンスを終えて、観客に頭を下げると再び大きな拍手が起こった。二宮さんも見ていてくれた。二宮さんは生徒会長になった。二宮さんも満足そうだった。
    楽しかった。長いようで、あっという間のような気もした。ダッチ部に入って本当に良かった。
「おつかれ、坊ちゃん」
「大もおつかれ。ナイスだったよ。最後」
ああ、もっと跳びたいな。もっとダブルダッチを味わいたい。この青春でもっとダブルダッチをやりたい。
「まだまだこれからよ。頑張りましょうね、坊ちゃん」
梨子の言葉に、おれは大きく頷いた。

(終)
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