この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第4話 その心は

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「あの……佐伯先輩。私と付き合ってください!」

 本当に、心臓が口から飛び出しそうだった。それをごまかすように、私はペコっと勢いよく頭を下げる。

「好きなんです。佐伯先輩のこと……」

 ほんとはまっすぐに目を見て言いたかったけど、苦しくて見つめていられなかった。なんとも情けないことに私は今、佐伯先輩の腰あたりを見つめている。

「驚いた……まさか一年生に告白されるなんて」

 そっと顔を上げると、佐伯先輩は軽く握った右手で口元を隠していて、どうやら本当に驚いているみたいだった。

「やっぱり……ご迷惑でしたか?」

 ついさっきまで面識もなかったような相手にいきなり告白されたって迷惑かもしれない。困るだけかもしれない。今更そんな心配で胸が苦しくなる。

「ううん、そんなことない。嬉しかったよ。でも」

 この「でも」に続く内容が良いものじゃないことは、私にもわかってしまった。

「富永さんにはきっと、『先輩フィルター』がかかっちゃってるんだよ。少し先輩というだけで魅力的に見えちゃうみたいな、あれ」

 佐伯先輩は優しく、諭すように言った。

「……!」

 佐伯先輩は、いったいどんなつもりで言ったのだろう。できるだけ角が立たないように断りたくて? それとも少しでも私を傷つけないために?
 でもひとつだけ確かなことがある──佐伯先輩の今のこの言葉は、私がもし先輩と同級生だったら聞かずに済んだものなのだ。改めて、「対等」な関係じゃないことを思い知る。

 そりゃあ、「先輩」だからより素敵に見えるというのは、少しくらいはあるかもしれない。でも私は、佐伯先輩のことを「先輩だから」好きになったわけじゃないのだ。

「私にとっては、好きになった人が……偶然先輩だっただけです」

 そう言うのが精一杯だった。佐伯先輩は「そっか」と困ったように笑っている。

「……じゃあ、それがただの先輩じゃなかったら、どうする?」

 今ひとつ何を聞かれたのかわからず、私は首を傾げた。

「どういう意味……ですか」

 ただの先輩じゃない、とは? そもそも「ただの先輩」が何を指すのかもよくわからないけど。

「僕がどんな人間かを──どんな事情を抱えた奴なのかを知ったら、富永さんもきっと『ついていけない』と思うはずだよ」

 佐伯先輩は遠い目をして言った。私は追及しようと開きかけた口をつぐむ。隣を歩く佐伯先輩の横顔が、言いようのない悲しみを湛えている気がしたからだ。
 でもそこまでの「事情」って、いったい何なのだろう。はっきり聞いていいものなのか──迷う。

「……富永さんは僕のこと、いくつ年上だと思ってる?」

 突然、佐伯先輩が話題を変えた。
 なんで急にそんなことを、と思うものの、答えは簡単だ。佐伯先輩が三年生で私が一年生──誕生日による違いはあっても学年では二つ上になる。そう答えると、佐伯先輩はうなずいた。

「そうでしょ? でも……本当は四つだって言ったら、どう?」

 四つということは十九歳──誕生日が来たら二十歳だ。私には兄や姉、年上のいとこもいない。そのせいかもしれないけど、なんだかとても年上に思える。

「そう、なんですか?」

 一点の曇りもなく信じたと言ったら嘘になる。でも心のどこかでは納得していた。
 考えてみれば二つ差とは思えないくらいに大人びているし、動じないし……かといって、佐伯先輩が二年も留年するタイプには思えないのも事実だけど。

「そう。だから今、十九歳」

 佐伯先輩はそう言って笑った。完璧な笑顔だけど作り笑いだ。本当の話なのか、それともからかわれているだけなのか。あるいは諦めさせようとわざと言ったのか。佐伯先輩の真意がわからない。
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