この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第9話 一年生のハチマキ

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(うわあ……いい天気……)

 五月の空はからりと晴れ渡っている。絶好の体育祭日和だった。
 今までなら憂鬱になっていたところだけど、今年は違う。なんてったって玉入れだけでいいのだから!

 そう、ともちゃんや私の考えは正しかったのだ。うちのクラスにもちゃんと、運動が得意な、そして体を動かすことが好きな生徒が一定数存在して、彼らがいくつも──もちろん自ら進んで──掛け持ちすることで各種目の出場枠は全てちゃんと埋まった。「一つしか出ないの?」と聞かれることすらなかったくらいだ。
 クラスメイトたちへのこの恩は、いずれ何らかの形で返したいと思う。

「香乃ちゃん、おはよう」

 更衣室で体操服に着替えていると、ともちゃんがやってきた。私より早く来ていたらしく、すでに着替え終わっている。

「おはよう。あ、それかわいい」

 思わず思ったことが口をついて出る。学校から配られたハチマキを、ともちゃんはカチューシャのように頭の上でリボン結びにしていた。
 私たちは青ブロックなので、ハチマキは鮮やかな空色だ。対抗チームは青、赤、白、黄、緑の五ブロックで、体育祭当日はそれぞれのチームカラーのハチマきを巻くことになっている。

「でしょ? 部活の先輩に教えてもらったんだけど、一年女子はこうやってリボン結びにするのが伝統なんだって」

「伝統―?」

 意味がよくわからずに聞き返す。部活に入っていない私には、その手の情報源は皆無なのだった。

「伝統って言うと大げさかな。なんかね、一年女子はカチューシャみたいに頭で結んで、二年女子はネクタイみたいに首で結んで、三年女子はベルトみたいに腰で結ぶのが……なんていうのかな。流行り?らしいの」

 ともちゃんが詳しく説明してくれる。
 どうやら、学年が上がるにつれて、ハチマキを着用する位置が下がっていくらしい。これはきっとあれだ、素直に頭に巻くのはダサい、みたいなやつだ。

「全員そうしないとだめなの? 競技中も?」

 私が尋ねると、ともちゃんは「あはは」と笑って首を振った。

「全然。強制でも何でもないし、しかも競技中は普通に頭に巻かないとダメなんだって」

 聞けば出場直前の待機場所で、体育科の先生のチェックがあるらしい。なんだそれは。

「でも私たち、どうせ玉入れにしか出ないし、ほら、頭に結んでるだけだからこうやって……後ろにまわしちゃえばオッケーじゃない?」

 そう言いながら、ともちゃんは器用にもハチマキをくるりと回転させて見せる。するとリボン結びは後頭部の下に隠れ、正面にはハチマキの平らな面だけが現れた。

「ほんとだ。完全にハチマキ」

 私が感心して言うと、ともちゃんは「でしょ?」と顔を輝かせる。

「だからね、香乃ちゃんも一緒にカチューシャ結びやらない?」

 ともちゃんはそう言って、荷物の上に置きっぱなしにしていた私のハチマキを指さした。

「いいけど……でも私、頭の上でそんなにきれいに結べないよ」

 手元が見えない頭の上で結ぶのだ。靴ひもやウエストのリボンを結ぶのとはわけが違う。
 作業を想像して難しい顔になっていたに違いない。ともちゃんが吹き出した。

「何言ってんの、私が結んであげるよ! こう見えて、結構リボン結ぶの上手いんだから」

 こう見えても何も、私はキレイに結ばれたリボンを目の前にしているのだけど。でも自分ではできる気がしないので、素直にお言葉に甘えることにする。

「……ねえ、二年のネクタイはいいとして、三年になったらベルトって言ってたよね?」

 ともちゃんにハチマキを結んでもらいながら、私はふと思ったことを口にする。

「うん。ベルトはちょうちょ結びじゃなくて、堅結びで残った端を垂らすのがいいんだって」

 器用なともちゃんは手を止めることなくそう答えた。でもその答えは、私の懸念を裏付けるものだった。

「それってさ、腰に結んで端を垂らせるくらいのウエストじゃないとダメってことだよね……?」

 思わず、といったふうにともちゃんの手が止まった。一メートル弱のハチマキを結んで端を風になびかせようと思ったら、一体何センチのウエストが必要なのだろう?

「……香乃ちゃん、それは二年後考えよう」

 再び手を動かし始めながら、ともちゃんが言った。きっと彼女も、私と同じ結論に至ったのだろう。どうか、私たちが三年生になる前に、この風潮が変わっていますように。

「はい、できあがり!」

「わあ、すごい! ありがとう!」

 鏡をのぞき込んでみると、ともちゃんとお揃いのきれいなリボン結びがちゃんとできあがっていた。
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