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第12話 こんな人
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「えー! じゃあ一目惚れした先輩に、初めて話したその日に告白して、そのまま付き合っちゃってるってこと?」
一通り話し終えると、ともちゃんは文字通り目を丸くした。
私は(自分でも信じられないけどね)と思いながらうなずく。信じられないけど、振り返ってみればまさにともちゃんの言う通りなのだった。
「うん……。我ながら大胆だったなと思う」
心の底からそう言うと、ともちゃんは「だね」とうなずいた。
「それで、その先輩ってどんな人なの?」
どんな人──というのは難しい質問だ。外見の描写から始めるか、あるいは人物像か。何をどう言えばいいだろう、と迷った時だった。
「──こんな人だったりして」
突然背後から声がしたのだ。私たちは反射的に振り向き、何よりもまずその声の主を確かめる。「こんな人」ってまさか……
「佐伯先輩……!」
そのまさかだった。そこで微笑んでいたのは、紛れもなく佐伯先輩本人だったのだ。
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」
そう言って佐伯先輩は私たちを手招きした。邪魔になってはいけないということだろう。私たちは素直に、ブロック席へと戻る生徒の集団から外れた。
(あ、そうだ。紹介しなきゃ)
「佐伯先輩。こちら、同じクラスの友達の中山智美ちゃんです」
ともちゃんが佐伯先輩に会釈した。
「それで、えーと、こちらが佐伯和斗先輩で……あの……」
後が続かずに口をぱくぱくさせる。
どうしてなんだろう。なんで言えないんだろう。ともちゃんはもう、私と先輩の関係だって知っているのに。なのにどうして、「私の彼氏」って、そのたった一言が喉を通らないんだろう。
「……初めまして、中山さん」
私が言いよどんだせいで作り出してしまった変な沈黙を、佐伯先輩がさりげなく遮る。
「は、はじめまして」
ともちゃんも先輩に合わせて挨拶してくれている。
ああ、二人ともに気を遣わせてしまって、私は一体何をやっているんだろう。自己嫌悪に陥りかけた時、佐伯先輩が口を開いた。
「実はちょっと誘いにくる途中だったんだけど、中山さんといっしょなら邪魔しない方がいいかな?」
「え?」
誘うって、いったい何にだろう?
とっさに振り返ると、ともちゃんは何か言いたそうな顔をしていた。
「なんかわかんないけど、行ってきなよ」
私にだけ聞こえるよう、小声で言う。
「え? でも……」
ともちゃんとは、競技がないときは一緒にいようねって約束していたのに。
「私のことはいいから。先輩、三年生なんでしょ? いっしょに過ごせる体育祭なんて、これが最初で最後じゃない! 私たちはあと二回もあるんだから。ほら!」
そう言ってともちゃんは、私の背中をぽん、と押した。
「香乃ちゃん、私部活対抗リレーの応援で美術部のメンバーのとこ行かなきゃなの。ちょっとごめんね! 先輩、失礼します」
少しだけ早口で言って、ともちゃんはブロック席の方へ駆けていった。
「……だ、そうだけど」
佐伯先輩の声ではっと我に返る。
「あっ。誘うって、何のことだったんですか?」
尋ねるが、佐伯先輩は意味ありげに微笑むだけで答えてくれない。でも私を誘うように歩き始めたので、私はその後を追った。
「かわいいね。ハチマキ」
「あ、ありがとうございます。さっきのともちゃんが教えてくれて……」
そんな会話をしながらグラウンドの端を移動する。そういえば、体操服姿の佐伯先輩を目にするのは初めてだった。競技には出ないからか、体操服の上に指定のジャージを羽織ってはいるけれど、よく似合っている。
「……いい人だね。中山さんって」
佐伯先輩はそう言って微笑んだ。きっと、ハチマキのことだけじゃない。さっき気を遣って二人にしてくれたこともわかっているのだろう。
「はい。……って、どこ行くんですか?」
佐伯先輩はブロック席を通り過ぎ、グラウンド自体を出て行こうとしていた。
「大丈夫だよ。校外に出たりはしないから」
いや、それでは答えになっていない。けれどそう指摘するわけにもいかず、私は小走りで佐伯先輩に追いついた。
一通り話し終えると、ともちゃんは文字通り目を丸くした。
私は(自分でも信じられないけどね)と思いながらうなずく。信じられないけど、振り返ってみればまさにともちゃんの言う通りなのだった。
「うん……。我ながら大胆だったなと思う」
心の底からそう言うと、ともちゃんは「だね」とうなずいた。
「それで、その先輩ってどんな人なの?」
どんな人──というのは難しい質問だ。外見の描写から始めるか、あるいは人物像か。何をどう言えばいいだろう、と迷った時だった。
「──こんな人だったりして」
突然背後から声がしたのだ。私たちは反射的に振り向き、何よりもまずその声の主を確かめる。「こんな人」ってまさか……
「佐伯先輩……!」
そのまさかだった。そこで微笑んでいたのは、紛れもなく佐伯先輩本人だったのだ。
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」
そう言って佐伯先輩は私たちを手招きした。邪魔になってはいけないということだろう。私たちは素直に、ブロック席へと戻る生徒の集団から外れた。
(あ、そうだ。紹介しなきゃ)
「佐伯先輩。こちら、同じクラスの友達の中山智美ちゃんです」
ともちゃんが佐伯先輩に会釈した。
「それで、えーと、こちらが佐伯和斗先輩で……あの……」
後が続かずに口をぱくぱくさせる。
どうしてなんだろう。なんで言えないんだろう。ともちゃんはもう、私と先輩の関係だって知っているのに。なのにどうして、「私の彼氏」って、そのたった一言が喉を通らないんだろう。
「……初めまして、中山さん」
私が言いよどんだせいで作り出してしまった変な沈黙を、佐伯先輩がさりげなく遮る。
「は、はじめまして」
ともちゃんも先輩に合わせて挨拶してくれている。
ああ、二人ともに気を遣わせてしまって、私は一体何をやっているんだろう。自己嫌悪に陥りかけた時、佐伯先輩が口を開いた。
「実はちょっと誘いにくる途中だったんだけど、中山さんといっしょなら邪魔しない方がいいかな?」
「え?」
誘うって、いったい何にだろう?
とっさに振り返ると、ともちゃんは何か言いたそうな顔をしていた。
「なんかわかんないけど、行ってきなよ」
私にだけ聞こえるよう、小声で言う。
「え? でも……」
ともちゃんとは、競技がないときは一緒にいようねって約束していたのに。
「私のことはいいから。先輩、三年生なんでしょ? いっしょに過ごせる体育祭なんて、これが最初で最後じゃない! 私たちはあと二回もあるんだから。ほら!」
そう言ってともちゃんは、私の背中をぽん、と押した。
「香乃ちゃん、私部活対抗リレーの応援で美術部のメンバーのとこ行かなきゃなの。ちょっとごめんね! 先輩、失礼します」
少しだけ早口で言って、ともちゃんはブロック席の方へ駆けていった。
「……だ、そうだけど」
佐伯先輩の声ではっと我に返る。
「あっ。誘うって、何のことだったんですか?」
尋ねるが、佐伯先輩は意味ありげに微笑むだけで答えてくれない。でも私を誘うように歩き始めたので、私はその後を追った。
「かわいいね。ハチマキ」
「あ、ありがとうございます。さっきのともちゃんが教えてくれて……」
そんな会話をしながらグラウンドの端を移動する。そういえば、体操服姿の佐伯先輩を目にするのは初めてだった。競技には出ないからか、体操服の上に指定のジャージを羽織ってはいるけれど、よく似合っている。
「……いい人だね。中山さんって」
佐伯先輩はそう言って微笑んだ。きっと、ハチマキのことだけじゃない。さっき気を遣って二人にしてくれたこともわかっているのだろう。
「はい。……って、どこ行くんですか?」
佐伯先輩はブロック席を通り過ぎ、グラウンド自体を出て行こうとしていた。
「大丈夫だよ。校外に出たりはしないから」
いや、それでは答えになっていない。けれどそう指摘するわけにもいかず、私は小走りで佐伯先輩に追いついた。
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