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第11話 青春の玉入れ
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お昼休憩が終わり、体育祭の午後の部が始まった。
午後一番の玉入れ競争に出場する私たちは今、校庭の端で待機している。もちろん、ハチマキはここに来るまでにくるりと回転させてあるのでお咎めなしだ。
「なんかワクワクしてきたね」
隣でささやくともちゃんにうなずく。
「玉入れなんて、考えてみれば私小一の運動会でやったのが最後だよ」
「私は小三だった気がする」
学校によって違うようだ。いずれにしても、二人とも玉入れがかなり久しぶりなのには違いなかった。
グランドでは、五カ所に描かれた円の中心に、それぞれかごを持った男子生徒が立っている。体操服に入っているラインの色からして全員三年生のようだ。玉入れには女子しか参加できないので(一方、騎馬戦には男子しか参加できない)、体育委員の男子たちが駆り出されているのだろう。
「──それでは、午後の部の最初のプログラム、全学年女子による玉入れ競争を始めます」
スピーカーを通して放送が流れると、先頭で待機していた三年生から順に入場が始まった。三年生はもちろん、その後に続く二年生もまさに「勝手知ったる」という感じなので、私たちはただ真似してついていけばいい。なんて楽なんだろう。
全員が入場し終わると、競技の注意事項が説明された。開始の笛が鳴るまでは玉に触らない。終了の笛が鳴ったら速やかに円の外に出る。その後、放送に合わせてかごの中の玉の数を数え、それに応じて順位がつく。
なんてことはない、オーソドックスな玉入れだ。
「用意!」
メガホンを通した体育の先生の声が聞こえ、続けてピーッと甲高い笛の音が鳴った。玉入れ競争の始まりだ。
ともちゃんも私も、周りの同じチームの女子たちも、一斉に動き出す。しゃがみこんでいくつか玉を拾っては、立ち上がってかごの中を目がけて放り投げる。さすがに百発百中とはいかないが、三つ四つ投げれば一つ二つはなんとか入れられる。
拾っては投げ、また拾っては投げるという単純な繰り返しが無性に楽しくなってきた時だった。
「あっ、ちょ、いてっ! お前、やめろって!」
すぐそばで聞こえたのは男子の声だった。気になったので玉を拾いつつ顔を上げる。と、なんと玉入れに出場している三年生が数人、かごを支える男子生徒にわざと玉をぶつけているのだった──キャッキャッと楽しげに。どうやらもともと知り合いどうしらしい。
(うわ、何この青春感あふれるワンシーン!)
玉入れの玉は、おそらく安全のために布製のものが使われている。なので仮に直接投げつけたとしても、あざになるようなダメージを与えることはなさそうだった。ただ、そうやってふざけて玉をぶつけたりぶつけられたり──まるで雪合戦のように──できる関係性というのが眩しいのだ。
その光景から目が離せなくなりながらも、拾っては投げ拾っては投げを繰り返していると、ついに終了の笛が鳴らされた。私たちは全員おとなしく円の外に出て、そして玉の数が見えやすくなるようにしゃがみ込む。さっきの三年生たちは、円の外でしゃがんだ後もまだ笑っていた。
「いーち、にーい、さーん……」
カウントの声に合わせて、あちこちのかごから玉が放り上げられる。
「ごじゅはーち、ごじゅきゅーう、ろーくじゅう……」
玉が残っているのは我らが青組と、隣の白組だけになった。でもまだ、どちらが勝つかはわからない。
「ろくじゅはーち、ろくじゅきゅー……おっ、白組、青組、ともに六十九個で同率一位です!」
ちょうど同数だったようだ。ブロック席の方からパラパラと拍手が上がる。盛り上がり方の雰囲気から見て、総合順位にはまだ変化はなさそうだ。
「同点だって。一応これで顔が立つよね……」
ほっとした様子で言うともちゃんに向かってうなずく。同点ではあったものの一位になれたわけだし、少しはチームに貢献できたはずだ。
その後は速やかに退場となり、私たちは二人してハチマキをくるりと回転させた。それから、お互いのリボンの部分を整え合う。
「あ、そうだ。ともちゃん、さっきの三年生見た?」
「三年生? かご持ってた人?」
一応、本人たちがそばにいないことを確認してから、私は口を開いた。
「ううん。その人に玉投げつけてた人たちの方。なんか青春って感じだなあって思って」
きっと共感してもらえると思っていたのに、ともちゃんは首を傾げている。
「青春……? そうかなあ……」
ともちゃんはそれから少し考えこみ、その後膝を打ったような顔になった。
「あ、わかった。あれを『青春』って思えるの、香乃ちゃんが今その『青春』の中にいるからだよ」
「えっ?」
青春の中にいるって、どういうことなんだろう。
意味がわからなくて目を瞬いていると、ともちゃんの目がきらりと光った。
「……ねえ、香乃ちゃん今好きな人とかいるでしょ」
あ、そうだ。これは「女子」の目だ。
そして「好きな人」と言われた私の脳裏には、すぐに佐伯先輩が浮かぶ。
「え、ええと、好きな人というか……」
佐伯先輩の話を最初にする相手といったら、ともちゃんをおいて他にはいないと思う。私は順を追って説明を始めた。
午後一番の玉入れ競争に出場する私たちは今、校庭の端で待機している。もちろん、ハチマキはここに来るまでにくるりと回転させてあるのでお咎めなしだ。
「なんかワクワクしてきたね」
隣でささやくともちゃんにうなずく。
「玉入れなんて、考えてみれば私小一の運動会でやったのが最後だよ」
「私は小三だった気がする」
学校によって違うようだ。いずれにしても、二人とも玉入れがかなり久しぶりなのには違いなかった。
グランドでは、五カ所に描かれた円の中心に、それぞれかごを持った男子生徒が立っている。体操服に入っているラインの色からして全員三年生のようだ。玉入れには女子しか参加できないので(一方、騎馬戦には男子しか参加できない)、体育委員の男子たちが駆り出されているのだろう。
「──それでは、午後の部の最初のプログラム、全学年女子による玉入れ競争を始めます」
スピーカーを通して放送が流れると、先頭で待機していた三年生から順に入場が始まった。三年生はもちろん、その後に続く二年生もまさに「勝手知ったる」という感じなので、私たちはただ真似してついていけばいい。なんて楽なんだろう。
全員が入場し終わると、競技の注意事項が説明された。開始の笛が鳴るまでは玉に触らない。終了の笛が鳴ったら速やかに円の外に出る。その後、放送に合わせてかごの中の玉の数を数え、それに応じて順位がつく。
なんてことはない、オーソドックスな玉入れだ。
「用意!」
メガホンを通した体育の先生の声が聞こえ、続けてピーッと甲高い笛の音が鳴った。玉入れ競争の始まりだ。
ともちゃんも私も、周りの同じチームの女子たちも、一斉に動き出す。しゃがみこんでいくつか玉を拾っては、立ち上がってかごの中を目がけて放り投げる。さすがに百発百中とはいかないが、三つ四つ投げれば一つ二つはなんとか入れられる。
拾っては投げ、また拾っては投げるという単純な繰り返しが無性に楽しくなってきた時だった。
「あっ、ちょ、いてっ! お前、やめろって!」
すぐそばで聞こえたのは男子の声だった。気になったので玉を拾いつつ顔を上げる。と、なんと玉入れに出場している三年生が数人、かごを支える男子生徒にわざと玉をぶつけているのだった──キャッキャッと楽しげに。どうやらもともと知り合いどうしらしい。
(うわ、何この青春感あふれるワンシーン!)
玉入れの玉は、おそらく安全のために布製のものが使われている。なので仮に直接投げつけたとしても、あざになるようなダメージを与えることはなさそうだった。ただ、そうやってふざけて玉をぶつけたりぶつけられたり──まるで雪合戦のように──できる関係性というのが眩しいのだ。
その光景から目が離せなくなりながらも、拾っては投げ拾っては投げを繰り返していると、ついに終了の笛が鳴らされた。私たちは全員おとなしく円の外に出て、そして玉の数が見えやすくなるようにしゃがみ込む。さっきの三年生たちは、円の外でしゃがんだ後もまだ笑っていた。
「いーち、にーい、さーん……」
カウントの声に合わせて、あちこちのかごから玉が放り上げられる。
「ごじゅはーち、ごじゅきゅーう、ろーくじゅう……」
玉が残っているのは我らが青組と、隣の白組だけになった。でもまだ、どちらが勝つかはわからない。
「ろくじゅはーち、ろくじゅきゅー……おっ、白組、青組、ともに六十九個で同率一位です!」
ちょうど同数だったようだ。ブロック席の方からパラパラと拍手が上がる。盛り上がり方の雰囲気から見て、総合順位にはまだ変化はなさそうだ。
「同点だって。一応これで顔が立つよね……」
ほっとした様子で言うともちゃんに向かってうなずく。同点ではあったものの一位になれたわけだし、少しはチームに貢献できたはずだ。
その後は速やかに退場となり、私たちは二人してハチマキをくるりと回転させた。それから、お互いのリボンの部分を整え合う。
「あ、そうだ。ともちゃん、さっきの三年生見た?」
「三年生? かご持ってた人?」
一応、本人たちがそばにいないことを確認してから、私は口を開いた。
「ううん。その人に玉投げつけてた人たちの方。なんか青春って感じだなあって思って」
きっと共感してもらえると思っていたのに、ともちゃんは首を傾げている。
「青春……? そうかなあ……」
ともちゃんはそれから少し考えこみ、その後膝を打ったような顔になった。
「あ、わかった。あれを『青春』って思えるの、香乃ちゃんが今その『青春』の中にいるからだよ」
「えっ?」
青春の中にいるって、どういうことなんだろう。
意味がわからなくて目を瞬いていると、ともちゃんの目がきらりと光った。
「……ねえ、香乃ちゃん今好きな人とかいるでしょ」
あ、そうだ。これは「女子」の目だ。
そして「好きな人」と言われた私の脳裏には、すぐに佐伯先輩が浮かぶ。
「え、ええと、好きな人というか……」
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