この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第16話 駅まで

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「? どうかしました?」

 図書館の敷地を出て数メートル歩いたところで、佐伯先輩が何かに気づいたように足を止めたのだ。それからキョロキョロと周囲を見回し始める。
 私もつられて周囲に目を向けてみたが、路上駐車の車をよけて自転車が走ってきたくらいで、特に変わった様子は見られない。

「あ、ううん。なんでもない」

 いかにも反射的に答えたふうだったけど、その顔にはちゃんと笑顔がある。気にしなくてもいいのだろうかと思いかけたところで、佐伯先輩がくるりとこちらに向き直った。

「……んだけど、ごめん。ちょっと用を思い出しちゃって……カフェはまた今度でもいい?」

「えっ」

 思わずそんな声を上げてしまった。けれど慌ててうなずく。

「は、はい。大丈夫です」

 図書館を出るまでのワクワクした気分がしぼんでいく。でも佐伯先輩に用があるのなら仕方ない。忙しい人だし、もともとは私だって勉強会だけのつもりだったのだ──が。

(用……って何だろう?)

 気にならないと言えば嘘になるけど、追及するのはなんとなく憚られた。
 確信があるわけじゃないけど、私が知っていい内容なら、佐伯先輩は聞かなくても最初から具体的に言ってくれるような気がするのだ。たとえば、「お使いを頼まれていたのを思い出した」というように。

「本当にごめん。駅まで送ってくよ」

 心から申し訳なさそうな表情で言う佐伯先輩に、私は慌てて首を振った。

「いえ、そんな! 佐伯先輩、用事があるならここで大丈夫です」

 とっさに来た道を戻りかける。けれど佐伯先輩はそれを手で制した。

「ううん、せめて送らせて。駅までは同じ方向だから」

「は、はい。それなら……」

 佐伯先輩の厚意を無下にするわけにもいかず、私たちは一緒に駅へと向かった。
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