47 / 52
第47話 遭遇
しおりを挟む
うちの学校には、自由登録制の夏季進学補講なるものがある。
難関大学への進学を希望する生徒が、通常の授業のない夏休み中に受けられる進学特化型の講座だ。
もちろん大学進学を希望していなくても受講は可能なのだけど、そんな生徒はまあ、まずいない。
それに、聞くところによると難関大学を志望していても受講しないという生徒も少なくないらしい。
たぶん、塾や予備校で事足りているということなのだろうと思う。
実際、私が今日行った英語の講座も、出席者は学年全体で十数名だった。
(みんな、もったいないと思わないのかなあ……)
個人的には、この夏季進学補講の一番のウリは受講料の安さだと思う。指定されたテキストの購入費のみなのだ。
つまり、追加の授業料不要で新たに別の授業が受けられる。
そして講義内容自体も、通常のカリキュラムより高度でなかなか骨があった。
今日は初回だったからよかったものの、明日からはある程度予習をしていった方がいいかもしれない──なんて考えながら昇降口に向かっていた時だった。
「──香乃ちゃーん!」
どこかから私を呼ぶ声が聞こえる。
私は声の主を探してきょろきょろとあたりを見回した。
「こっちこっち! 上!」
そんな声に反応して校舎を見上げると、二階の窓からともちゃんが手を振っている。
一瞬(なんであんなところに?)と思ったものの、すぐに思い出す。あそこは美術室だ。部活中に違いない。
「ともちゃん! 部活―?」
手を振り返して尋ねると、ともちゃんは「うん!」とうなずいた。
「さっきね、佐伯先輩に会ったんだ。だからまだ校内にいるんじゃないかと思って」
ともちゃんの言葉に、私は首を傾げる。
図書室の蔵書整理は終わったばかりだし、図書委員の仕事はしばらくないはずだ。
ということは、佐伯先輩も進学補講を受けていたのだろうか。
「そうなんだ。ありがとう」
とりあえず伝えてくれたことにお礼を言うと、ともちゃんは「多分Ⅲ棟だと思うよー!」と三年生の教室が集まった校舎を指さした。
「わかった。行ってみるねー!」
私が答えると、ともちゃんは嬉しそうに再び手を振って、「じゃあまたねー!」と窓の向こうに姿を消した。
(Ⅲ棟、かあ……)
決して他学年の進入が禁止されているわけではないものの、実質三年生だけの領域である教室棟Ⅲ──通称Ⅲ棟に足を踏み入れるのは勇気がいる。
が、ともちゃんに「行ってみる」と言ってしまった手前、このまま帰るのは気が引けた。
もちろん、佐伯先輩の顔が見られるならそれはそれで嬉しいし。
(ああ、でも佐伯先輩ってたしか……)
三年二組だったはずだ。
ということは、教室は三階だろう。一階のクラスよりもさらにハードルが高い。
しばらく逡巡したものの、私はとりあえず教室まで行ってみることにする。
(ちらっと覗いて、取り込み中だったり佐伯先輩がいなかったりしたら帰ることにしよう……)
そんなことを考えながら、私はそっとⅢ棟へと足を踏み入れた。
難関大学への進学を希望する生徒が、通常の授業のない夏休み中に受けられる進学特化型の講座だ。
もちろん大学進学を希望していなくても受講は可能なのだけど、そんな生徒はまあ、まずいない。
それに、聞くところによると難関大学を志望していても受講しないという生徒も少なくないらしい。
たぶん、塾や予備校で事足りているということなのだろうと思う。
実際、私が今日行った英語の講座も、出席者は学年全体で十数名だった。
(みんな、もったいないと思わないのかなあ……)
個人的には、この夏季進学補講の一番のウリは受講料の安さだと思う。指定されたテキストの購入費のみなのだ。
つまり、追加の授業料不要で新たに別の授業が受けられる。
そして講義内容自体も、通常のカリキュラムより高度でなかなか骨があった。
今日は初回だったからよかったものの、明日からはある程度予習をしていった方がいいかもしれない──なんて考えながら昇降口に向かっていた時だった。
「──香乃ちゃーん!」
どこかから私を呼ぶ声が聞こえる。
私は声の主を探してきょろきょろとあたりを見回した。
「こっちこっち! 上!」
そんな声に反応して校舎を見上げると、二階の窓からともちゃんが手を振っている。
一瞬(なんであんなところに?)と思ったものの、すぐに思い出す。あそこは美術室だ。部活中に違いない。
「ともちゃん! 部活―?」
手を振り返して尋ねると、ともちゃんは「うん!」とうなずいた。
「さっきね、佐伯先輩に会ったんだ。だからまだ校内にいるんじゃないかと思って」
ともちゃんの言葉に、私は首を傾げる。
図書室の蔵書整理は終わったばかりだし、図書委員の仕事はしばらくないはずだ。
ということは、佐伯先輩も進学補講を受けていたのだろうか。
「そうなんだ。ありがとう」
とりあえず伝えてくれたことにお礼を言うと、ともちゃんは「多分Ⅲ棟だと思うよー!」と三年生の教室が集まった校舎を指さした。
「わかった。行ってみるねー!」
私が答えると、ともちゃんは嬉しそうに再び手を振って、「じゃあまたねー!」と窓の向こうに姿を消した。
(Ⅲ棟、かあ……)
決して他学年の進入が禁止されているわけではないものの、実質三年生だけの領域である教室棟Ⅲ──通称Ⅲ棟に足を踏み入れるのは勇気がいる。
が、ともちゃんに「行ってみる」と言ってしまった手前、このまま帰るのは気が引けた。
もちろん、佐伯先輩の顔が見られるならそれはそれで嬉しいし。
(ああ、でも佐伯先輩ってたしか……)
三年二組だったはずだ。
ということは、教室は三階だろう。一階のクラスよりもさらにハードルが高い。
しばらく逡巡したものの、私はとりあえず教室まで行ってみることにする。
(ちらっと覗いて、取り込み中だったり佐伯先輩がいなかったりしたら帰ることにしよう……)
そんなことを考えながら、私はそっとⅢ棟へと足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
両隣の幼馴染が交代で家に来る
みらいつりびと
恋愛
両親がタイへ行く。
父親が3月上旬に上司から命じられた。4月1日からバンコクで勤務する。
うちの父と母はいわゆるおしどり夫婦というやつで、離れては生きていけない……。
ひとり暮らしの高校2年生森川冬樹の世話をするため、両隣の美しい幼馴染浅香空と天乃灯が1日交代で通ってくる。
冬樹は夢のような春休み期間を過ごし、空と灯は火花を散らす。
幼馴染三角関係ラブストーリー。全47回。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる