この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第47話 遭遇

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 うちの学校には、自由登録制の夏季進学補講なるものがある。
 難関大学への進学を希望する生徒が、通常の授業のない夏休み中に受けられる進学特化型の講座だ。
 もちろん大学進学を希望していなくても受講は可能なのだけど、そんな生徒はまあ、まずいない。

 それに、聞くところによると難関大学を志望していても受講しないという生徒も少なくないらしい。
 たぶん、塾や予備校で事足りているということなのだろうと思う。
 実際、私が今日行った英語の講座も、出席者は学年全体で十数名だった。

(みんな、もったいないと思わないのかなあ……)

 個人的には、この夏季進学補講の一番のウリは受講料の安さだと思う。指定されたテキストの購入費のみなのだ。
 つまり、追加の授業料不要で新たに別の授業が受けられる。

 そして講義内容自体も、通常のカリキュラムより高度でなかなか骨があった。
 今日は初回だったからよかったものの、明日からはある程度予習をしていった方がいいかもしれない──なんて考えながら昇降口に向かっていた時だった。

「──香乃ちゃーん!」

 どこかから私を呼ぶ声が聞こえる。
 私は声の主を探してきょろきょろとあたりを見回した。

「こっちこっち! 上!」

 そんな声に反応して校舎を見上げると、二階の窓からともちゃんが手を振っている。
 一瞬(なんであんなところに?)と思ったものの、すぐに思い出す。あそこは美術室だ。部活中に違いない。

「ともちゃん! 部活―?」

 手を振り返して尋ねると、ともちゃんは「うん!」とうなずいた。

「さっきね、佐伯先輩に会ったんだ。だからまだ校内にいるんじゃないかと思って」

 ともちゃんの言葉に、私は首を傾げる。
 図書室の蔵書整理は終わったばかりだし、図書委員の仕事はしばらくないはずだ。
 ということは、佐伯先輩も進学補講を受けていたのだろうか。

「そうなんだ。ありがとう」

 とりあえず伝えてくれたことにお礼を言うと、ともちゃんは「多分Ⅲ棟だと思うよー!」と三年生の教室が集まった校舎を指さした。

「わかった。行ってみるねー!」

 私が答えると、ともちゃんは嬉しそうに再び手を振って、「じゃあまたねー!」と窓の向こうに姿を消した。


(Ⅲ棟、かあ……)

 決して他学年の進入が禁止されているわけではないものの、実質三年生だけの領域である教室棟Ⅲ──通称Ⅲ棟に足を踏み入れるのは勇気がいる。
 が、ともちゃんに「行ってみる」と言ってしまった手前、このまま帰るのは気が引けた。
 もちろん、佐伯先輩の顔が見られるならそれはそれで嬉しいし。

(ああ、でも佐伯先輩ってたしか……)

 三年二組だったはずだ。
 ということは、教室は三階だろう。一階のクラスよりもさらにハードルが高い。

 しばらく逡巡したものの、私はとりあえず教室まで行ってみることにする。

(ちらっと覗いて、取り込み中だったり佐伯先輩がいなかったりしたら帰ることにしよう……)

 そんなことを考えながら、私はそっとⅢ棟へと足を踏み入れた。
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