この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第46話 隠されたメッセージ

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 浮かび上がってきた「メッセージ」に私はごくりと唾をのむ──「気をつけて 三原先生はセクハラ男」。

「縦読みならぬ横読みだったみたいだね」

 佐伯先輩は並んだ背表紙を見ながら言った。

「三原先生、って誰なんですかね……」

 一切関わりのない先生もたくさんいるし、まだ教職員全員を把握していないものの、「三原」という名前にはどこかで見た覚えすらない。

「……昔いた先生だね」

 佐伯先輩は面識があるのか、何か考え込んでいる。

「たしか、僕が高一だった頃に教務主任だった気がする。それで、高二として戻ってきた時にはもういなかった──もちろん今もいないよ」

 ということは、私の記憶は正しかったのだ。
 いなくなったというのは、この隠された警告文と何か関係があるのだろうか。

「そんな噂とか、聞いたことってありました?」

 直接的なワードは出さずに尋ねると、佐伯先輩は首を振った。

「ないよ。もちろん、実は何かがあって、内密に処理された可能性は否定できないけど」

 内密に──示談とか依願退職とかそういうのだろうか。

「見方がいなかったり立場が違いすぎたりとかで告発できなくて、泣き寝入りだった可能性もありますよね……」

 私がぽつりと言うと、佐伯先輩ははっとしたように「そうだね」と言った。

「泣き寝入りだったとしても、握りつぶされるとわかっていたんだとしても、少なくともここに出入りできる人の中に被害に遭った人がいたのはきっと事実ですよね……」

 期せずしてほの暗い過去を掘り当ててしまったようで、なんだか気が重い。
 そんなところに辻先生が戻ってきた。

「どう? 順調に進んでる?」

 蔵書らしき本を何冊かまとめて自分の机に置いてこちらを振り返る。

「まあ、はい。……ところで辻先生は三原先生と面識はありますか?」

 佐伯先輩が尋ねると、辻先生はほんのかすかに顔をしかめた。

「私がここの学校に来た初年度は一緒だったわ。一学期だけだけど」

 佐伯先輩がいなかった期間ということは二年前か、それとも三年前か。
 年度途中の退職となると、やはり何かあったのかもしれない。

「……だったらこれは、辻先生へのメッセージだったかもしれませんね。きちんと整理された蔵書の中で、この十五冊だけが変な位置にありました」

 佐伯先輩は並べた本の背表紙を辻先生に見せる──よりわかりやすいよう、『気圧と気流』から『てづくり生活』を一番端に移動して。
 辻先生は左からざっと背表紙を眺め、今度ははっきりと眉をひそめた。順番は揃えてあるし、説明しなくとも伝わったようだ。

「なるほどね……書庫の入り口をふさいだのは、誰かが気づかず整理する可能性があったから、ってこと」

 辻先生は少し考え込み、それから「いや」と首を振った。

「でもあれじゃメッセージどころか書庫の存在にすら気づかなかったかもしれないじゃない。もしそうなってたら本末転倒もいいとこよ」

 たしかにその通りだ。警告や忠告なんて、それこそ伝わらなきゃ意味がないと思うのに。

「ちなみにその三原先生って……そういう感じの人だったんですか?」

 私が尋ねると、辻先生は記憶をたどっているのか、腕を組んで「うーん」と唸った。

「私は期間も短いし特に何もなかったけど……。まあ、そうね。火のない所に煙は立たない──とだけ言っておくわ。もちろんオフレコで」

 それから「もうこの話は終わり」とばかりにパンと手を叩く。

「じゃああとは、この本を本来の位置に戻して、あとは昨日伝えた開架に移したい本を図書室まで持ってきてくれる? そのころには向こうも片付いてると思うから」

 辻先生の言葉に、私たちは「はい」と声を合わせる。
 図書室へと戻っていく辻先生を見送りながら、私たちは目の前の十五冊を半分ずつ書庫へと運んだ。

「……その先生が一学期で学校を去ったなら、被害に遭った人はきっと泣き寝入りはせずに戦ったんですよね。それでも大多数の学校関係者には真相が知らされないだろうってわかってたから、こんな……」

 こんなふうに訴えを残したのだ。自分の方が相手より先に去るのでは、思うような行動ができないから。

「頭のいい人だったんだろうと思う。見つけてもらえる可能性も、読み解いてもらえる可能性も低いけど、その分万が一不都合な人物に見つかって追及されても、偶然だとかこじつけだって逃げられる。見方によっては、純粋な告発文書や壁の落書きとして残すよりも賢明だよ」

 一冊ずつ本を戻しながらの佐伯先輩の言葉に、私はうなずく。
 辻先生が初年度に三原先生という人と会っているのなら、おそらく書庫を封印したのはその前年度までいた辻先生の前任者だろう。
 きっと当時の図書委員の中にも、事情を知っていた生徒がいたんじゃないかという気がする。

「犯罪って……きっと気づいてないだけで身近でたくさん起こってるんでしょうね」

 佐伯先輩が何を思ったのかはわからない。
 でもいつもより少しだけ長い間をおいて、「そうだね」という声が返ってきた。
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