この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第45話 二日目

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「富永さん、そっちはどう?」

「えーと、ちょっと待ってくださいね」

 佐伯先輩の呼びかけに、私はきりのいいところまで作業を終えてしまってから答える。
 書架の間から通路に出ると、佐伯先輩がこちらを覗き込んでいた。

「あと最後の二枚になりました」

 リストをぴらぴらと振って見せると、佐伯先輩は「オッケー」と手を伸ばす。
 どういう意味だろうと首を傾げていると、佐伯先輩が微笑んだ。

「僕の方は全部終わったから、最後の一枚貸して」

「えっ……」

 いいんですか、と聞きかけて気づく。
 まずこの照合作業を終わらせてしまう方が次の作業に早く移れるし、手が空いた佐伯先輩を何もできない状態で待たせる方が申し訳ない。

「じゃあ、こっちお願いします」

 私は残ったリストの後半を手渡し、照合の続きを始めた。


「十五冊、ですか……」

 無事にリストと蔵書の照合作業を終えた私たちの前には、間違った書架から引き抜いた本が並んでいる。その数実に十五冊。
 書庫にあった本の数からすれば決して多くはないものの、こうして集めてみると多い気がしてしまう。

「特に統一性はないね」

 佐伯先輩の言葉にうなずく。

『ライ麦畑でつかまえて』や『はてしない物語』、それから『三銃士』、『つむじ風を追いかけて』、『「をかし」の文化』など文学系。
 それから、『クローンの倫理』、『生物学入門』、『気圧と気流』など自然科学系。
『男女共同参画社会をめざして』や『原子力発電のいま』、『ハンムラビ法典の謎』、『セント・ポール大聖堂』、『先史時代の日本』など社会系や歴史系に加えて、新書『けりをつけない生き方』や『てづくり生活』なんてのもある。

「なんなんでしょうね……」

 分野はもちろん出版社、出版年、本の大きさなどもばらばらだ。

「これがミステリーだったら、何か暗号が隠されてたりしそうですけどね」

 たとえばダイイングメッセージとか──なんて考えかけた自分に苦笑する。
 本棚にこんな、誰が気づいてくれるともわからない暗号を残す余裕があったら自力で救急車を呼べるだろう。

(あ、じゃあ監禁されてたとしたら?)

 自分がここに監禁されていた痕跡を残そうと、本の位置を入れ替えることはあるかもしれない。
 次に連れていかれる場所をもし知っていれば、その場所を示す暗号を残すとか。
 書くものや手段が何もなかったなら、すでにある文字を使うのではないだろうか。

(──ん?)

 私はふと気になって、『「をかし」の文化』を手に取った。それから、また別に数冊を選びとる。

「……佐伯先輩、こんなのどうですか」

 私は左から順に、『気圧と気流』、『「をかし」の文化』、『つむじ風をおいかけて』、『けりをつけない生き方』、『てづくり生活』の五冊を、背表紙が見えるように立てて並べた。

「タイトルの頭文字を一字ずつとってつなげると『気をつけて』になる、っていう」

 気づいた一瞬は少し得意げな気分になったものの、字体も文字の大きさも異なる文字を並べて読むというのは、なんだか妙な不安を掻き立てる行為だった。新聞を切り貼りした古の脅迫状を彷彿とさせるからかもしれない。
 しかも「気をつけて」というのは──いわば「警告」の文句だ。この暑い中、背筋に寒気が走る。

「そういうことか……」

 佐伯先輩がつぶやいた。え?と私が反応する前にもう残りの本を並べ替え始めている。
 まもなく、「気をつけて」の隣に『三銃士』、『原子力発電のいま』、『先史時代の日本』、『生物学入門』、『はてしない物語』、それから『セント・ポール大聖堂』、『クローンの倫理』、『ハンムラビ法典の謎』、『ライ麦畑でつかまえて』、『男女共同参画社会をめざして』が並んだ。

「これって……」

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