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第44話 書庫の秘密
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「──あっ」
しまった、と思うがもう遅い。
キュウキュウに詰まった棚から一冊を引っ張ったせいで、同じ棚の他の本も飛び出してしまったのだ。
(落ちてくる──!)
反射的に目をつぶり、頭をかばうように身をかがめる。
直後、十数冊の本がバタバタと落ちてきた。なのに──当たらない?
何が起こったのかと目を開けた時だった。
「──っと。大丈夫?」
佐伯先輩が、身をかがめた私の上に覆いかぶさるようにして立っていた。私は思わず息をのむ。
落ちてきた本が一冊も私に当たらなかったのは、佐伯先輩が傘になってくれていたからだったのだ。
「佐伯先輩! どうして……」
続きがうまく言葉にならない。どうしてここに? どうしてこんな危ないことを? あの一瞬にどうやって?
「どうしてって……それはこっちのセリフだよ。ちょうど通りかかったからタイミングだったからよかったものの……」
佐伯先輩は床に落ちた本を拾いながら言って、私を見た。
珍しく同じ高さにある佐伯先輩のその瞳が、不安そうに揺れている。
「高いところの本は僕がやるから。無理して危ないことしないで……ほんとに」
どこか切実な響きを帯びた声に胸が詰まって、私はこくんとうなずいた。
「……ごめんなさい」
ハードカバーじゃなくたって、厚い本ならその角は十分に凶器になりうる。
脚立を取りに行かなかった私は自業自得としても、佐伯先輩にケガをさせる恐れがあったと思うと血の気が引いた。
「……引っ張り出そうとした本は、もしかしてこれ?」
いつも通りの佐伯先輩の声に振り向くと、その手にはまさに『はてしない物語』がある。
私が「そうです」とうなずくと、佐伯先輩は棚を見上げた。
「ミヒャエル・エンデがなんでここに……」
佐伯先輩が何か考え込んでいる間に、私はなんとなく司書室の方に目を向ける。
すると、私が抜き出して持っていったもの以外に何冊も本が置かれていた。
「佐伯先輩の方でも、変な場所に紛れ込んでる本があったんですか?」
そう尋ねてみると、佐伯先輩は複雑な表情のままうなずいた。
「何冊もあったよ。おかしいよね」
「おかしいって……何がですか?」
疲れていたり、他のことに気をとられていたりしたら誰にでも間違えることはあると思う。
もとがいい加減な人ならなおさらだ。いたずらという可能性もある。
けれど佐伯先輩は首を振った。
「開架ならまだしも、この書庫に入るには司書室を経由しないといけない。ってことは、ここに出入りするのは司書の先生か、せいぜい図書委員だよ。どっちにしても、いたずらやこんな不自然な間違い方はしないと思う」
言われてみれば確かにそうだ。でも、間違いじゃないということは──…。
「意図的な並び替えだってことですか?」
拾った本を書架に戻すのも忘れて聞く。
すると佐伯先輩は自由になった両手を組んで少し考え込んだ。
「……今はまだ言い切れないけど、可能性はあると思う。とりあえず最後までやってみてからだね」
と、その時司書室のドアが開いて辻先生が戻ってきた。
「お疲れさま。進捗はどう?」
「順調ですよ」
佐伯先輩はそう答えながら、抜き出してあった本をまとめて書庫の中へと運んでいった。
きっと、正しい書架には戻さずにどこかにまとめて置いておくのだろう。
「図書室の方はどうですか?」
私が尋ねると、辻先生は満足そうにうなずいた。
「向こうもまずまず順調よ。だから今日はこの辺りで切り上げようかと思って」
そこへ佐伯先輩も戻ってきた。
「ああ、佐伯くん。今年はもしかして、明日で足りるかもしれないくらいなの。こっちはどう?」
辻先生の言葉に、私はへえ、と思う。
例年三日かかる作業が二日で終わるなら、それはかなり優秀なのではないか。
「それはよかったです。書庫の方も明日で十分だと思いますよ」
そう言って佐伯先輩は書庫の電気を消した。なぜかその後ろ姿を、辻先生がじっと見つめる。
「……何かあった?」
その声についどきりとしてしまう。もちろん、何も悪いことはしていないのだけれど。
辻先生は不思議そうにしている佐伯先輩に近づき、その肩を軽く払った──シャツが埃で少し黒ずんでいたのだ。
「……何もないですよ」
佐伯先輩は動揺する様子もなく微笑む。
辻先生は「そう」とだけ返し、それ以上は追及しなかった。
なぜかはわかならい──けれどその一連のやり取りに、私の胸はなんだか嫌な感じのざわつきを覚えたのだった。
しまった、と思うがもう遅い。
キュウキュウに詰まった棚から一冊を引っ張ったせいで、同じ棚の他の本も飛び出してしまったのだ。
(落ちてくる──!)
反射的に目をつぶり、頭をかばうように身をかがめる。
直後、十数冊の本がバタバタと落ちてきた。なのに──当たらない?
何が起こったのかと目を開けた時だった。
「──っと。大丈夫?」
佐伯先輩が、身をかがめた私の上に覆いかぶさるようにして立っていた。私は思わず息をのむ。
落ちてきた本が一冊も私に当たらなかったのは、佐伯先輩が傘になってくれていたからだったのだ。
「佐伯先輩! どうして……」
続きがうまく言葉にならない。どうしてここに? どうしてこんな危ないことを? あの一瞬にどうやって?
「どうしてって……それはこっちのセリフだよ。ちょうど通りかかったからタイミングだったからよかったものの……」
佐伯先輩は床に落ちた本を拾いながら言って、私を見た。
珍しく同じ高さにある佐伯先輩のその瞳が、不安そうに揺れている。
「高いところの本は僕がやるから。無理して危ないことしないで……ほんとに」
どこか切実な響きを帯びた声に胸が詰まって、私はこくんとうなずいた。
「……ごめんなさい」
ハードカバーじゃなくたって、厚い本ならその角は十分に凶器になりうる。
脚立を取りに行かなかった私は自業自得としても、佐伯先輩にケガをさせる恐れがあったと思うと血の気が引いた。
「……引っ張り出そうとした本は、もしかしてこれ?」
いつも通りの佐伯先輩の声に振り向くと、その手にはまさに『はてしない物語』がある。
私が「そうです」とうなずくと、佐伯先輩は棚を見上げた。
「ミヒャエル・エンデがなんでここに……」
佐伯先輩が何か考え込んでいる間に、私はなんとなく司書室の方に目を向ける。
すると、私が抜き出して持っていったもの以外に何冊も本が置かれていた。
「佐伯先輩の方でも、変な場所に紛れ込んでる本があったんですか?」
そう尋ねてみると、佐伯先輩は複雑な表情のままうなずいた。
「何冊もあったよ。おかしいよね」
「おかしいって……何がですか?」
疲れていたり、他のことに気をとられていたりしたら誰にでも間違えることはあると思う。
もとがいい加減な人ならなおさらだ。いたずらという可能性もある。
けれど佐伯先輩は首を振った。
「開架ならまだしも、この書庫に入るには司書室を経由しないといけない。ってことは、ここに出入りするのは司書の先生か、せいぜい図書委員だよ。どっちにしても、いたずらやこんな不自然な間違い方はしないと思う」
言われてみれば確かにそうだ。でも、間違いじゃないということは──…。
「意図的な並び替えだってことですか?」
拾った本を書架に戻すのも忘れて聞く。
すると佐伯先輩は自由になった両手を組んで少し考え込んだ。
「……今はまだ言い切れないけど、可能性はあると思う。とりあえず最後までやってみてからだね」
と、その時司書室のドアが開いて辻先生が戻ってきた。
「お疲れさま。進捗はどう?」
「順調ですよ」
佐伯先輩はそう答えながら、抜き出してあった本をまとめて書庫の中へと運んでいった。
きっと、正しい書架には戻さずにどこかにまとめて置いておくのだろう。
「図書室の方はどうですか?」
私が尋ねると、辻先生は満足そうにうなずいた。
「向こうもまずまず順調よ。だから今日はこの辺りで切り上げようかと思って」
そこへ佐伯先輩も戻ってきた。
「ああ、佐伯くん。今年はもしかして、明日で足りるかもしれないくらいなの。こっちはどう?」
辻先生の言葉に、私はへえ、と思う。
例年三日かかる作業が二日で終わるなら、それはかなり優秀なのではないか。
「それはよかったです。書庫の方も明日で十分だと思いますよ」
そう言って佐伯先輩は書庫の電気を消した。なぜかその後ろ姿を、辻先生がじっと見つめる。
「……何かあった?」
その声についどきりとしてしまう。もちろん、何も悪いことはしていないのだけれど。
辻先生は不思議そうにしている佐伯先輩に近づき、その肩を軽く払った──シャツが埃で少し黒ずんでいたのだ。
「……何もないですよ」
佐伯先輩は動揺する様子もなく微笑む。
辻先生は「そう」とだけ返し、それ以上は追及しなかった。
なぜかはわかならい──けれどその一連のやり取りに、私の胸はなんだか嫌な感じのざわつきを覚えたのだった。
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