この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第49話 ミーティング

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 ミーティングといっても、ホームルームでやるみたいなきっちりしたものではなく、ただ教室に集まって話し合っていただけのようだ。
 みんな、椅子に座ったり机にもたれたり立ったままだったりと、思い思いの場所と姿勢で参加している。

 佐伯先輩と時田先輩に連れられるようにして教室に入ると、何人かがわらわらと集まってきた。

「何ちゃん? 名前聞いてもいい?」

 まず話しかけてきたのは、比較的小柄で人懐っこい感じの人だった。

「ええと、富永香乃です」

「香乃ちゃんか。かわいい名前」

 名乗ってすぐに笑顔で名前を呼ばれ若干動揺する。
 なんというか、私の知っている男子と距離感が違う。

「いやお前、いきなりちゃんづけは馴れ馴れしすぎ。しかも彼氏持ち」

 そばにいた別の人が呆れたように言うと、彼はきょとんとした顔で「え、だめ?」とこちらを覗きこんできた。

「い、いえ、大丈夫です」

 私も名前を聞いたほうがいいのだろうか、と思いながら佐伯先輩の方を振り返ると、そっちはそっちでいろいろと絡まれているようだった。

「佐伯―、いつの間に彼女?」

「それな。勉強漬け仲間だと思ってたのに裏切られたわー」

「てか佐伯くん年下派?」

「いーなー、俺も彼女欲しい」

 肩を叩かれたりつつかれたりと、友達に囲まれている佐伯先輩を見るのは初めてだった。
 新鮮で、なんだか不思議な感じさえする。
 年上であることや、普段の落ち着いた言動からつい忘れがちだったけど、佐伯先輩だって紛れもなく高校生なのだ。

「ほら、せっかくゲストをお迎えしたんだから始めましょうよ」

 時田先輩が言うと、さっきみたいにしん、とはならなかったものの、教室の空気が引き締まる。

「じゃあ、まず簡単に説明するね。二学期になったら文化祭があるのは知ってると思うけど、三年は毎年演劇をやることになってるの。それで、その演目をどうするかを話し合ってたところ。なんとかして大賞を取りたい、ってね」

 佐伯先輩がざっと説明してくれたことで、私にもだいたいの事情がわかった。
 最初に立ち聞きしてしまった内容ともつながる。
 演劇の審査で他のクラスを上回るためには、演目の選定が何よりもまず大事なのだろう。

「そうそう。それでさっきからない頭を絞って考えてた時に君がやってきたってわけ」

 ひょろりと背の高い人が言う。
 するとその隣にいた童顔の人が顔をしかめてツッコんだ。

「おい、ない頭とか言うなよ。一応学年成績トップスリーを擁するクラスなんだぞ」

 そこに今度はまた別の、メガネの人が割り込む。

「いや学力とイマジネーションは別物でしょ」

「んじゃ何か案出せよミスター・スリー」

「誰がミスター・スリーだよ。せめてサードだろ」

「ツッコむとこそこかよ」

 サードということは、あのメガネの人が学年三位の成績優秀者なのだろう。
 いや、なんというか、やり取りがいちいち楽しい。
 根本的に仲が良いことが部外者の私にすら伝わってくる。

 ただ、今教室にいる二十人くらいのうち、時田先輩を除く全員が男子というのが気になるけど。

「あの……このクラスって、男女比はどんな感じなんですか?」

 思い切って尋ねてみる。
 と、答えてくれたのは時田先輩だった。

「実はね、女子は私とあと四人しかいないの」

「えっ」

 標準的な四十人クラスだと仮定すると、女子が五人なら男子は三十五人──男女比は七対一だ。

「特進の理系コースだからどうしても男子が多くなっちゃって。一組は同じ特進でも文系だから男女半々くらいなんだけど」

 時田先輩の説明に、(理系?)と思う。佐伯先輩はてっきり文系に進むものだと思っていたのに。
 好きや得意と進路はまた別の話なのだろうか。
 そんなことを思っていると、当の佐伯先輩が口を開いた。

「でもそれ、実はすごくポイントなんだよ。去年とか一昨年の大賞も、基本的には半分かそれ以上女子がいる普通コースのクラスに持っていかれてる」

 なるほど。たしかに単純に考えても、これだけ男子が集中するクラスがあれば、女子の比率が高くなるクラスは出てくるだろう。
 そういうクラスの方が、文化祭の演劇においては有利なようだ。

「そうそう。やっぱ女子がいっぱい着飾って歌って踊ってするほうが単純に見栄えがするんだよな」

 佐伯先輩の言葉を引き継いで一人が言うと、またみんながわいわいと喋り出した。

「そりゃ俺だって野郎しか出ない劇より女子いっぱいの方がいいわ」

「うーわ、オッサンかよ」

「審査するのは主に先生なんだからオッサン視点は大事だろ」

「おばさんもいるぞ、一応」

「ちょ、お前もし聞かれたら国語の成績全部Eにされんぞ」

 三年生男子たちの独特のノリというか空気に圧倒されていると、となりで佐伯先輩が苦笑していた。

「……と、まあそういうわけなんだよ」

 そう言って呆れたように、でも微笑ましくクラスメイトを見守る佐伯先輩はやっぱり格段に大人に見える。
 でもクラスから浮くことなくちゃんと溶け込んでいて、私はそれに勝手に感動してしまった。

 そんな佐伯先輩のためにも、佐伯先輩を偏見なく受け入れているこのクラスの人たちのためにも、何とか役に立ちたいと思う。

(現実的に女子が多い方が有利な中で男子ばっかりのクラスが対抗する手段、かあ……)

 文化祭の定番としては女装なのかもしれない。
 ウケ狙いの場合もあるけど、さっきのあの距離感のおかしな人や童顔の人なんかはわりとハイクオリティな女装を披露できる気がする。本人がやりたがるかは別として、だけど。
 でも正攻法としてはやっぱり──…。

「このクラスの男女比を生かせる舞台にするのがいいんじゃないですかね……」

 思ったことをぽつりと口にすると、そばにいた一人が早速追及してきた。

「え、どういう意味?」

 その反応の速さとまっすぐさに気圧されながらも、私は説明を試みる。

「ええと、毎年女子がたくさん出る舞台が有利なら、きっと今年もそういう劇にするクラスが多いと思うんですよね。なのでそこにあえて男子メインの劇をぶつけたら逆に目を引くんじゃないかなって……」

 自分なりになんとか考えをまとめたつもりだったのだけど、相手は意外そうに目を瞬いている。

「え、男子がいっぱい歌って踊る劇とかある?」

「……」

 聞かれた瞬間、顔の濃い男性がキリッとした笑顔で踊るインド映画が脳裏に浮かんだが、私は気づかなかったことにしてそのイメージを振り払った。

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