51 / 52
第51話 帰り道で
しおりを挟む
「さっきはごめんね。巻き込む形になっちゃって」
駅へ向かう道すがら、申し訳なさそうに言う佐伯先輩に、私はぶんぶんと首を振った。
「いえいえ! そもそも私が勝手にお邪魔した感じですし……」
実は佐伯先輩の教室を訪れたのはともちゃんにけしかけられたからなのだけど、佐伯先輩も特に不思議がっていないのでそれは言わないでおく。
「でも、富永さんのおかげで演目が決まったわけだし。ありがとう。お手柄だよ」
「いえそんな、全然です」
佐伯先輩の笑顔に私は恐縮する。
佐伯先輩のクラスは仲も良さそうだったし、ということは団結力もあるはずだ。
早かれ遅かれ演目はちゃんと決まったんじゃないかと思う。
「それより佐伯先輩、脚本書くことになったんですよね?」
佐伯先輩が書いた脚本で劇が上演されるなんて、楽しみなことこの上ない。
けれど佐伯先輩は困ったように笑った。
「うん。……って、荷が重すぎない?」
確かに、演劇部でもない限り脚本を書いたことのある高校生なんてほとんどいないだろうけど。
「佐伯先輩だったら大丈夫だと思います! っていうか……」
「っていうか?」
続きを言うかどうか迷って言いよどんだものの、佐伯先輩に促されて私は再び口を開く。
「クラスの人も言ってたみたいに、佐伯先輩しかいないんじゃないかと」
もちろん、他の人には書けないという意味ではないけれど。
さっき教室にいた二十人くらいが、言ってみれば文化祭に積極的な面々なのだろうし、そこにちゃんといた佐伯先輩が脚本執筆を担うのはごく自然なことのように思える。
けれど佐伯先輩は「そうかなあ……」と不安そうに首を傾げた。
「じゃあ、キャストの方が良かったんですか? それこそ牛若丸とか」
答えはわかったうえで聞くと、佐伯先輩はやっぱり「ううん、全く」と笑った。
「じゃあちょうどよかったじゃないですか」
さすがに、脚本係とキャストを兼任させることはないと思う。
「うーん、そう言われるとそうなのかなあ……」
佐伯先輩がここまで歯切れが悪いのは珍しい。
なんだか、今日だけで新鮮な佐伯先輩の姿をやたらと目にしている気がする──いや、嬉しいのだけど。
「私で良ければ手伝いますから!」
実際に力になれるかは別問題だとは思いながらも言うと、佐伯先輩は即座に首を振った。
「いや、そういうわけにはいかないよ」
そんなに頼りないだろうかと落ち込みそうになったのを、佐伯先輩の「だって」という声が遮る。
「見に来てくれるでしょ? だったらお楽しみにしておかないと」
「……!」
その気遣いは嬉しかった。でも同時に、やっぱり部外者なんだなって思わずにはいられない。
学年が違うっていうのはそういうことだと、わかっていたつもりだったけど。
「……それはそうと、佐伯先輩のクラスってなんっていうか……すごく仲良しですよね」
私はなんだか複雑な気持ちになってしまい、そっと話題を変えた。
「うん、僕もそれは本当に思う。クラスで希望者で集まって遊びに行ったりしてるし。来月のお祭りも……」
そこで佐伯先輩は少し考えるように口をつぐむ。
どうしたのだろうと不思議に思ったところで目が合った。
「……富永さん、実は来月の中旬にお祭りがあるんだけど、よかったら行ってみない?」
「お祭り、ですか?」
予想外の提案に、私は目を瞬く。
「うん。正式には観月祭」
九月のお祭りということで、私の頭の中で「かんげつさい」が「観月祭」に変換された。
「お月見のお祭りってことですか?」
「うん。中秋の名月を眺めつつ収穫を祝うお祭りなんだって」
佐伯先輩の説明に、私は「へえ……」と声を漏らした。
神社とかでやる、わりとかっちりした感じのお祭りなのかもしれない。
「出店もたくさん並ぶし、花火大会もあるんだけど、どうかな?」
「えっ」
想像していたのとは違う──気軽に遊びに行けそうな大きなお祭りだ。否が応でも胸が高鳴る。
花火大会があるくらいの大きなお祭りなんて何年ぶりだろう。
「行きます!」
勢い込んで言うと、佐伯先輩は「よかった」と微笑んだ。
「あ、それとその前にちょっと寄りたい場所があるんだけど、いいかな?」
それは私も一緒に、ということなのだろうか。それともその後で待ち合わせということなのだろうか。
一瞬判断に迷ったものの、すぐにそんなことはどっちだったっていいのだと気づく。
私が「もちろんです」とうなずくと、佐伯先輩はなぜかほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ十五日の夕方四時に駅で待ち合わせにしよう」
「はい! 楽しみにしてます」
佐伯先輩とお祭りデートだ。さて、何を着ていこう。
駅へ向かう道すがら、申し訳なさそうに言う佐伯先輩に、私はぶんぶんと首を振った。
「いえいえ! そもそも私が勝手にお邪魔した感じですし……」
実は佐伯先輩の教室を訪れたのはともちゃんにけしかけられたからなのだけど、佐伯先輩も特に不思議がっていないのでそれは言わないでおく。
「でも、富永さんのおかげで演目が決まったわけだし。ありがとう。お手柄だよ」
「いえそんな、全然です」
佐伯先輩の笑顔に私は恐縮する。
佐伯先輩のクラスは仲も良さそうだったし、ということは団結力もあるはずだ。
早かれ遅かれ演目はちゃんと決まったんじゃないかと思う。
「それより佐伯先輩、脚本書くことになったんですよね?」
佐伯先輩が書いた脚本で劇が上演されるなんて、楽しみなことこの上ない。
けれど佐伯先輩は困ったように笑った。
「うん。……って、荷が重すぎない?」
確かに、演劇部でもない限り脚本を書いたことのある高校生なんてほとんどいないだろうけど。
「佐伯先輩だったら大丈夫だと思います! っていうか……」
「っていうか?」
続きを言うかどうか迷って言いよどんだものの、佐伯先輩に促されて私は再び口を開く。
「クラスの人も言ってたみたいに、佐伯先輩しかいないんじゃないかと」
もちろん、他の人には書けないという意味ではないけれど。
さっき教室にいた二十人くらいが、言ってみれば文化祭に積極的な面々なのだろうし、そこにちゃんといた佐伯先輩が脚本執筆を担うのはごく自然なことのように思える。
けれど佐伯先輩は「そうかなあ……」と不安そうに首を傾げた。
「じゃあ、キャストの方が良かったんですか? それこそ牛若丸とか」
答えはわかったうえで聞くと、佐伯先輩はやっぱり「ううん、全く」と笑った。
「じゃあちょうどよかったじゃないですか」
さすがに、脚本係とキャストを兼任させることはないと思う。
「うーん、そう言われるとそうなのかなあ……」
佐伯先輩がここまで歯切れが悪いのは珍しい。
なんだか、今日だけで新鮮な佐伯先輩の姿をやたらと目にしている気がする──いや、嬉しいのだけど。
「私で良ければ手伝いますから!」
実際に力になれるかは別問題だとは思いながらも言うと、佐伯先輩は即座に首を振った。
「いや、そういうわけにはいかないよ」
そんなに頼りないだろうかと落ち込みそうになったのを、佐伯先輩の「だって」という声が遮る。
「見に来てくれるでしょ? だったらお楽しみにしておかないと」
「……!」
その気遣いは嬉しかった。でも同時に、やっぱり部外者なんだなって思わずにはいられない。
学年が違うっていうのはそういうことだと、わかっていたつもりだったけど。
「……それはそうと、佐伯先輩のクラスってなんっていうか……すごく仲良しですよね」
私はなんだか複雑な気持ちになってしまい、そっと話題を変えた。
「うん、僕もそれは本当に思う。クラスで希望者で集まって遊びに行ったりしてるし。来月のお祭りも……」
そこで佐伯先輩は少し考えるように口をつぐむ。
どうしたのだろうと不思議に思ったところで目が合った。
「……富永さん、実は来月の中旬にお祭りがあるんだけど、よかったら行ってみない?」
「お祭り、ですか?」
予想外の提案に、私は目を瞬く。
「うん。正式には観月祭」
九月のお祭りということで、私の頭の中で「かんげつさい」が「観月祭」に変換された。
「お月見のお祭りってことですか?」
「うん。中秋の名月を眺めつつ収穫を祝うお祭りなんだって」
佐伯先輩の説明に、私は「へえ……」と声を漏らした。
神社とかでやる、わりとかっちりした感じのお祭りなのかもしれない。
「出店もたくさん並ぶし、花火大会もあるんだけど、どうかな?」
「えっ」
想像していたのとは違う──気軽に遊びに行けそうな大きなお祭りだ。否が応でも胸が高鳴る。
花火大会があるくらいの大きなお祭りなんて何年ぶりだろう。
「行きます!」
勢い込んで言うと、佐伯先輩は「よかった」と微笑んだ。
「あ、それとその前にちょっと寄りたい場所があるんだけど、いいかな?」
それは私も一緒に、ということなのだろうか。それともその後で待ち合わせということなのだろうか。
一瞬判断に迷ったものの、すぐにそんなことはどっちだったっていいのだと気づく。
私が「もちろんです」とうなずくと、佐伯先輩はなぜかほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ十五日の夕方四時に駅で待ち合わせにしよう」
「はい! 楽しみにしてます」
佐伯先輩とお祭りデートだ。さて、何を着ていこう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
両隣の幼馴染が交代で家に来る
みらいつりびと
恋愛
両親がタイへ行く。
父親が3月上旬に上司から命じられた。4月1日からバンコクで勤務する。
うちの父と母はいわゆるおしどり夫婦というやつで、離れては生きていけない……。
ひとり暮らしの高校2年生森川冬樹の世話をするため、両隣の美しい幼馴染浅香空と天乃灯が1日交代で通ってくる。
冬樹は夢のような春休み期間を過ごし、空と灯は火花を散らす。
幼馴染三角関係ラブストーリー。全47回。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる