青紫なひとりごと

蒼村 咲

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敬語「いただく」「くださる」問題

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言語は常に変化の可能性をはらんでいる──それは否定のしようがない事実。
けれどその言語の変化や変容は今、どのような段階にあるのだろう?

以前正しいものとして身につけた表現が、今も正しいとは限らない。
以前誤ったものとして認識した表現が、今も誤りとされるとは限らない。

でもその「正しい」「正しくない」を決めるのは誰なのか。何なのか。
少なくとも私個人でないことだけは確かだけれど、それでも考察くらいなら許されるかな……という思いのもとに。


*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*


以前から気になっていた問題のひとつに、「いただく」と「くださる」の混同(もしかしたらいずれ「融合」とみなされる日が来るかもしれない)があって。
まずはふたつの例を。

a)「お越しいただいた皆様」
b)「お越しくださった皆様」

本来なら、上記のa)とb)のうち片方は「誤り」とされる。
でも昨今ではどちらもほとんど同じように使われている印象。

敬語の意味を取り払うと、「お越し(になる)」は「来る」、「いただいた」は「もらった」、「くださった」は「くれた」になる。
したがってa)とb)はそれぞれ、

a')「来てもらった皆」
b')「来てくれた皆」

という意味だといえる。

「来て…た」の部分は当然「皆」を修飾するのだから、両者は意味上の主述の関係にある。
つまり主語が「皆」である以上、「来て」に続くのは「くれた」でなければならない。
ゆえに、伝統的な日本語というものを考慮した場合、「正しい」のはb)。


ところがTwitterの投票機能で聞いてみたところ、以下のような結果に。



今までずっとb)が正しいと思ってきたのに、今ではa)の方が主流とのこと。
本当に言語は絶えず変化していて、私のような人間はきっとその変化についてはいけないのだと思う。悲しきかな。

ちなみに(私が勝手に無責任に考える)この現象の一因は、「いただく」「くださる」、すなわち「もらう」「くれる」の境界がどんどん不明瞭になっているということ。
というのも、

a'')「来てもらったのは私」
(「私が(皆に)来てもらった」だから)
b'')「来てくれたのは皆」
(「皆が来てくれた」だから)

という説明が通じないから。
通じない説明は成り立たない説明も同然なのだ(※自分の説明力不足は棚に上げている)。

もしかしたら、いずれこの区別はなくなるのかもしれない。
(もちろん、もうすでになくなっているのでなければ、だけど)


*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*


次に、関連する別の例。

c)「そんなこと言っていただけるの先輩だけですよ」
d)「そんなこと言ってくださるの先輩だけですよ」

このc)とd)の場合は、先述のa)とb)とは違い、文脈次第でどちらも「正しい」。
ポイントは「省略」で、c)とd)ではそれぞれ「誰が」「誰に」「そんなことを言った」のかが異なる。

c)は、「自分よりも先輩よりも目上の誰かが」「先輩に」「そんなことを言った」ことになる。
たとえば、先輩がコーチにプレーを褒められた場合に、後輩である話し手が先輩に対して口にする台詞だと解釈できる。
一方d)は、「先輩が」「後輩である自分に」「そんなことを言った」ことになる。

意味が明瞭になるよう助詞や登場人物を補うと、

c')「(○○コーチに)そんなこと(を)言っていただけるの(は)先輩だけですよ」
d')「(僕に)そんなこと(を)言ってくださるの(は)先輩だけですよ」

となる。

d)は敬意の方向が自分から先輩という一方向であるのに対し、c)は自分から先輩に加え、自分と先輩からコーチという二方向である、という違いがある。


*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*✱*


さて、結論。

a)とb)はいずれにしても話し手の意図した内容は同じなので、b)の意味でa)を用いてもそれほどコミュニケーションに支障はない。

でもc)とd)は話し手が伝える内容が違うので、d)の意味でc)を用いてはいけない。明らかに意味の乖離が生じてしまう。


ただ、そう言えるのもいつまでなのだろう、というのが正直なところ。
──言語は常に変容するものだから。
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