青紫なひとりごと

蒼村 咲

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怖くて使えない……

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誤用が急速に広まって、本来の意味や用法よりも誤った意味や用法の方がスタンダードになってしまった表現というのが、日本語にはたくさんある。

たとえば、「全然」は否定語を伴うというルール。
これなんかは私自身もう慣れすぎて、「全然いいよ」、「全然大丈夫」なんて軽く口にしてしまう。
言い訳をするなら、「全然(気にしなくて)いいよ」、「全然(問題なくて)大丈夫」と、否定語が省略されているだけで意味的には否定を含んでいる……なんて。

とはいえ、どんなに広まっていても自分が納得できなければ使わない、というのが私のスタンス。
誤用と知ってしまっているにもかかわらず誤った意味で用いるのにはかなり──いや、非常に抵抗がある。

だから私は「行き詰まる」の意味で「煮詰まる」を使うことはないし、「悪いとわかっていて悪いことをする人」のことを「確信犯」と呼ぶこともない。

でも、正しい意味や用法で用いるのにも同じくらい抵抗を感じるのだ。
というのは、意図した意味が伝わらない可能性があるから。

たとえば、「潮時」と言った時、果たして「物事をやめるのにちょうどいい時」ではなく「物事の最高の時」と理解してもらえるだろうか?

「敷居が高い」と言った時、単に「訪ねにくい」のではなく、「相手に対して申し訳なく思うような事情がある」ということをくみとってもらえるだろうか?

「~の失笑を買った」と言った時、「~が呆れかえった」とか「~が冷笑した」ではなく「~がこらえきれずに吹き出した」という状況が伝わるだろうか?

「妙齢」と言った時、「中年」ではなく「若い」女性を思い浮かべてもらえるだろうか?

相手について言ったとき、「うがった見方」や「役不足」を誉め言葉だと受け取ってもらえるだろうか?


広まっている(けれど誤った)意味で認識している人に正しい意味で使うことも、正しい意味で認識している人に、広まっている(けれど誤った)意味で使うことも、どちらも同じように誤解を招いてしまう。

ゆえにいわゆる「最適解」は、このような言葉を「使わないこと」となる。
誤解を招きうる言葉は使わない。
瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず──は疑われるわけじゃないからちょっと違うか。


本当は、こんな理由で(私の限られた)語彙が(さらに)制限されるのは悲しいけれど、個人でできることはあまりない。

指摘なんてしようものなら「言葉なんて所詮コミュニケーションの手段なんだから大体が伝わればそれでいいでしょ」と論点をすり替えられ攻撃されてしまう。
(そうなってくると「みんなこの意味で使ってるじゃん」という素直な反論がかわいらしくすら思えてくる。)


まあ、この程度で行き詰るような表現力じゃだめなんだけど。
だからそう、的確な言葉を探す旅はこれからも続く。

仮に、今「誤用が広まっている言葉」の誤った意味が「慣用的な意味」として正式に認められたとしても、相手がどちらの意味で解釈するかの問題は解決されないのだから。
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