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第2話 チャンスは突然に
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「──あっ、中山さん! 申し訳ないんだけど、ちょっと手伝ってくれない?」
そう梢を呼び止めたのは、英語の志田先生だった。
来週に控えた中間テストのために、図書室に寄った帰りのことだ。
志田先生は教室の入り口からひょっこり上半身だけをのぞかせている。
「あ、はい。いいですよ」
梢は深く考えずに駆け寄った。志田先生に手招きされて教室に入る。
見ればざっと100冊近くありそうなノートの山、CDプレーヤー、辞書などが一番前の列の机に並べてあった。なるほど、これを一人で持つのは無理そうだ。
「これ……」
運べばいいんですか、と尋ねようと振り返ったけれど、志田先生はまた廊下に顔を出している。
「──相原くん! ちょうどいいところに! ちょっとお願いが」
相原くん──その名前に思わず梢の肩が跳ねる。
(え、相原くん──?)
そう思うが早いか、志田先生の肩越しに相原くんの姿が見えた。
梢の鼓動が速くなる。
(え、いや、平常心、平常心……)
梢は心の中でそう唱えた。嬉しさと驚きと緊張がごっちゃになって、自分でもわけがわからない。変な顔をしていないか、急に不安になってきた。
「これ、職員室まで運べばいいんですか?」
不安を押し殺し努めてさりげなく尋ねると、志田先生は困ったようにうなずいた。
「そうなの。何往復かしないといけないかと思ってたところで。助かったわ、ありがとう」
職員室は別の校舎だし、ここからだと少し遠い。
偶然私の後に通りかかったらしい相原くんも、応援に呼ばれたようだ。
「二人にはそのノートとデッキをお願いできるかしら?」
そう言って志田先生は出席簿と辞書数冊を抱えた。
私はうなずいて、手前にあったノートの山に手を伸ばす。
「──あ、待って。俺がそっち持つから」
そんな相原くんの声に、梢は「え」と顔を上げる。
と、彼はすっと教室に入ってきて、ノートを全部一気に抱え上げてしまった──ひょい、とまるでクッションでも持ち上げるかのように軽々と。
「え、あ……うん。ありがとう……」
梢はどぎまぎしながら、CDプレーヤーを手に取る。CDプレーヤーは軽く、取っ手がついているので持ちやすかった。
「──大丈夫? 重くない? 私そっちでもよかったよ?」
職員室に向かう道すがら、梢は隣を歩く相原くんを見上げた。
梢よりもずっと背が高い──多分、百七十センチ台半ばくらいだろうか。
「え? 全然大丈夫。ってか重い方女子に持たせるとかないでしょ」
相原くんはそう言って笑う。
(そういうこと、普通にできちゃうんだもんな……)
そう思って、前を歩く志田先生の背中に視線を戻した時だった。
(──あれ?)
隣の相原くんを盗み見ながら思う。
(これって、よく考えたらチャンスなんじゃ……?)
これを職員室まで運び終わったら、志田先生とはそこで別れることになるはずだ。
そうしたらほんの一瞬でも、相原くんと二人だけで話ができるタイミングがあるに違いない。
(え、でも、どうしよう……)
急にこんなチャンスが巡ってくるなんて思いもしなかった。
正直、心の準備ができていない。
(けど……)
これを逃したら、二人で話せる機会なんていつあるだろう。周囲に人が何人もいる状況で「二人で話がしたいから、ちょっと来てくれない?」なんて連れ出す勇気は、梢にはない──なら、選択の余地はなかった。
「助かったわ! 二人とも、本当にありがとう」
職員室に着くと、志田先生が笑顔でこちらを振り返った。
梢は相原くんとともに「失礼します」と口にして、職員室に足を踏み入れる。先生たちがあちこちで動き回っていてるせいか、職員室はざわざわとせわしない。
梢は入口のカウンターの上にプレーヤーを置いた。相原くんもそれにならう。
「そう、そこで大丈夫。ありがとうね! それじゃ、気をつけて帰るのよ」
そう言って志田先生は、職員室の奥へと姿を消した。
二人して「失礼しました」と会釈して職員室を出る。
(今しかない──!)
数歩前を歩く相原くんの背中を見つめ、梢は心を決めた。
そう梢を呼び止めたのは、英語の志田先生だった。
来週に控えた中間テストのために、図書室に寄った帰りのことだ。
志田先生は教室の入り口からひょっこり上半身だけをのぞかせている。
「あ、はい。いいですよ」
梢は深く考えずに駆け寄った。志田先生に手招きされて教室に入る。
見ればざっと100冊近くありそうなノートの山、CDプレーヤー、辞書などが一番前の列の机に並べてあった。なるほど、これを一人で持つのは無理そうだ。
「これ……」
運べばいいんですか、と尋ねようと振り返ったけれど、志田先生はまた廊下に顔を出している。
「──相原くん! ちょうどいいところに! ちょっとお願いが」
相原くん──その名前に思わず梢の肩が跳ねる。
(え、相原くん──?)
そう思うが早いか、志田先生の肩越しに相原くんの姿が見えた。
梢の鼓動が速くなる。
(え、いや、平常心、平常心……)
梢は心の中でそう唱えた。嬉しさと驚きと緊張がごっちゃになって、自分でもわけがわからない。変な顔をしていないか、急に不安になってきた。
「これ、職員室まで運べばいいんですか?」
不安を押し殺し努めてさりげなく尋ねると、志田先生は困ったようにうなずいた。
「そうなの。何往復かしないといけないかと思ってたところで。助かったわ、ありがとう」
職員室は別の校舎だし、ここからだと少し遠い。
偶然私の後に通りかかったらしい相原くんも、応援に呼ばれたようだ。
「二人にはそのノートとデッキをお願いできるかしら?」
そう言って志田先生は出席簿と辞書数冊を抱えた。
私はうなずいて、手前にあったノートの山に手を伸ばす。
「──あ、待って。俺がそっち持つから」
そんな相原くんの声に、梢は「え」と顔を上げる。
と、彼はすっと教室に入ってきて、ノートを全部一気に抱え上げてしまった──ひょい、とまるでクッションでも持ち上げるかのように軽々と。
「え、あ……うん。ありがとう……」
梢はどぎまぎしながら、CDプレーヤーを手に取る。CDプレーヤーは軽く、取っ手がついているので持ちやすかった。
「──大丈夫? 重くない? 私そっちでもよかったよ?」
職員室に向かう道すがら、梢は隣を歩く相原くんを見上げた。
梢よりもずっと背が高い──多分、百七十センチ台半ばくらいだろうか。
「え? 全然大丈夫。ってか重い方女子に持たせるとかないでしょ」
相原くんはそう言って笑う。
(そういうこと、普通にできちゃうんだもんな……)
そう思って、前を歩く志田先生の背中に視線を戻した時だった。
(──あれ?)
隣の相原くんを盗み見ながら思う。
(これって、よく考えたらチャンスなんじゃ……?)
これを職員室まで運び終わったら、志田先生とはそこで別れることになるはずだ。
そうしたらほんの一瞬でも、相原くんと二人だけで話ができるタイミングがあるに違いない。
(え、でも、どうしよう……)
急にこんなチャンスが巡ってくるなんて思いもしなかった。
正直、心の準備ができていない。
(けど……)
これを逃したら、二人で話せる機会なんていつあるだろう。周囲に人が何人もいる状況で「二人で話がしたいから、ちょっと来てくれない?」なんて連れ出す勇気は、梢にはない──なら、選択の余地はなかった。
「助かったわ! 二人とも、本当にありがとう」
職員室に着くと、志田先生が笑顔でこちらを振り返った。
梢は相原くんとともに「失礼します」と口にして、職員室に足を踏み入れる。先生たちがあちこちで動き回っていてるせいか、職員室はざわざわとせわしない。
梢は入口のカウンターの上にプレーヤーを置いた。相原くんもそれにならう。
「そう、そこで大丈夫。ありがとうね! それじゃ、気をつけて帰るのよ」
そう言って志田先生は、職員室の奥へと姿を消した。
二人して「失礼しました」と会釈して職員室を出る。
(今しかない──!)
数歩前を歩く相原くんの背中を見つめ、梢は心を決めた。
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