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【11】

「コンブ! 底に貝はあるん貝!?」②

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 琥珀こはく色の体

 クロムイエローの目

 クッペに憑依ひょういし、スタミナ不足の小さな体をきたえ上げ、わずか数日ですっかり我が身体モノにしたベクセナは、

 次はクッペが持つテレパシー能力を使いこなそうと修行にいそしんでいた。

 しかし……

 瞑想めいそうに明けくれ、冷たい滝にうたれてもみたが、体力づくりとは異なり、

 いやしの魔族が自分たちの存続そんぞくをかけて身につけた特有の力は、そうそう簡単に修得マスターできるものではなかった。

「……やっぱり、普通に目で見て耳で聞いて、口を開いてしゃべってるせいなのかね。

 だから全神経が一点に集中しないんだろうか……

 仕方ないね。こうなったらどうにか自力で煎路せんじを探し出すしかないねっ」

 負けん気の強いベクセナだが、ムリだと判断したらいったんはいさぎよくあきらめる。

 だが、いずれは必ず技術モノにする。

 彼女の良いところだ。

「ブアイスディーだね。

 黄泉あっちで見た山は……

 煎路の身に何かあった山は間違いなくブアイスディンテン山だった。

 とにかく急がないと!」

 永眠していたはずのベクセナだったが、なぜか突然黄泉よみの世界で目を覚まし、

 さまじい光の威力いりょくに襲われる煎路の危機を感知かんちした。

 煎路の姿やその光景を目にしたわけではない。

 ただ、感じとったのだ。

 そして直後に、オレンジカルサイトのごとき煎路のあざやかな“たね”がブアイスディンテン山を背景に、まるで映像を見ているようにクッキリとまぶたに焼きついた。

 さらには、光の羊水ようすいをユラユラとただよう煎路らしき人影まで確認した。

 ベクセナは驚き、たまらず呼びかけたのだが……

 何度呼びかけてみても、煎路からの返事はなかった。

 煎路ではなかったのか? いや、アレは煎路だ。

 かすかに感じたあのオーラは、正真しょうしん正銘しょうめい愛する息子の精気せいきだった。

 もう、気が気ではなかった。

 それからどれくらいの時がったのか……

 煎路だけにとどまらず、今度はなんと、

 神々こうごうしい光の中に溶けこみプカプカと宙に浮いているクッペを見つけ、ベクセナは意を決した。

(クッペ……その体を、

 その体を借りるよ……!)

 繰り返しそう念じていると、ベクセナの魂はあらゆる色の光彩こうさい燦然さんぜんと輝く世界へと瞬間移動し、どんどんクッペに近づいて行った。

 記憶はあいまいだが、クッペの中に入りこんだ感覚は覚えている。

 入りこんだ後どうやって生の魔界こちらに戻ってきたのかは忘れてしまったが……

 気が付くと、木々に囲まれ、満月に見下ろされて横たわっていた。

 本当に、クッペの体になって――


「とにかく、煎路の無事を早いとこ確かめないと……

 今のこの魔界はどうにも変だよ」

 ベクセナは下山し、半分は自力で、もう半分は貨車かしゃ荷馬車にばしゃ、旅人の魔馬まばに乗せてもらうなどの他力で、北の町ブアイスディーを目指した。

 彼女は一刻いっこくも早く息子たちのそばに行き、息子たちの力になろうと懸命けんめいになっていた。
 
 ――守りたいのだ。

 まだ幼かった息子らを残しってしまったがゆえに、

 こうして戻って来たからには今度こそ、今度こそ全てをかけて守りぬきたいのだ。
 
 何から……?

 明らかに、ベクセナが生きていた頃の以前の魔界には揺曳ようえいしていなかった、得体えたいの知れない大きな、

 形の見えない大きな“何か”の気配けはいから――
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