gnikaerb

祜ヰ

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痛みが伴う者

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8月  地球温暖化が進み、都市部以外は1%を残して砂漠と化した。都市はと言うと、コンクリートで埋め尽くされている。そんな中、私は研究室に籠っていた。ある一報を受け取るまでは。

9月  無事に子どもが誕生してひと月が経った。奥二重で私に似ていると周りからはよく言われたが、口や鼻は妻に似ていると思う。私よりも妻に似てほしいという願望がそう見せているのかもしれないが。

10月  研究室で被検体がひとつ消えた。皆が必死になって探し回ったが、それは何処にも見当たらなかった。家に帰ると妻が私の元に暗い顔で歩み寄ってきた。家の中に愛する我が子の姿がどこにも見当たらなかった。

11月  突然命を落とした我が子の葬式が親族内で行われた。私は火葬の直前に採取した我が子の細胞を手のひらでグッと握りしめた。

12月 我が子を取り戻す為の研究を1人で始めた。誰にも気付かれないように人を払い、勤めていたチームリーダーも下りた。専門外の研究に心が粉々にされた。

1月  ひと月ぶりに家に帰ると、妻が痩せ細った状態で倒れていた。救急車に運ばれる妻を見送りながらも、私の心の真ん中は常に愛する我が子だった。取り戻せば妻も戻ってくると信じている。

2月  研究を進めていく内に、輪廻転生や前世は記憶が無い時点で存在しない事が判明した。手の震えが現れ始めたと同時に耳鳴りが止まなくなった。

3月  耳鳴りが大きくなると同時に、焦りと絶望がふつふつと湧き始めた。手探り状態で糸口も掴めない。遂には喋らなくなった妻を見ると、時間はあまり残されていない。

4月  我が子の細胞が残り2つになった。未だに何の手応えも掴めていない焦燥に苛まれ、掻きむしった腕から出血が止まらなくなった。

5月  最後の希望が目の前で実った。長い旅だったが、偶然が重なって奇跡が起こった。妻はその事を知ると日に日に言葉をぽつぽつとこぼすようになった。私はその日から我が子に昔の世界の話を聞かせるようになった。

6月  その昔、空は青空で世界には自然が溢れていた。四季という物が1年で巡って、とても幻想的な景色や感動的な花を咲かせた。雪は世界を白色に染めてしまうけど、冷たい不思議なものだった。

7月  笑顔を取り戻した妻は4ヶ月ぶりに立ち上がり、急速に成長した我が子を見るために研究室へとやって来た。愛する我が子を久しぶりに見た感動でなのか、膝から崩れ落ち、ぼろぼろと涙を流しながらごめんなさいと謝り続けていた。

8月  世界は光に包まれた。
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