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ワンコ先輩

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更新遅くなって大変申し訳ありません。

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~シェリル~

アシュレイさんの糖度が増している。
いや、絶賛糖度マシマシ中だ。


あれから一か月、私も第一隊に戻り、まぁ、戻ったら戻ったで、アシュレイさんとの婚約について同僚やら先輩やらにアレコレ聞かれて参ったけれど、最終的にはギャーワー言われながらも皆は祝福してくれた。
仕事も訓練もボチボチ順調にこなしている。

私生活では、婚約早々アシュレイさんからの「俺たちいつ住むの?」という圧に負け、一緒に住み始めている。

そう、住み始めてからというもの、アシュレイさんが甘々なのだ。
キャラ変わってない?え?前からこうだった?


正直にいうと、恋愛初心者には戸惑いしかない。

「魔術師なんてこんなもん」って、本当か?と思って、同じ魔術師のクリストファーさんの妻であるユーリさんに聞いてみたりした。


『もうね、慣れるしか無いよ。奴らに目をつけられたら終わりだよね。抵抗するより慣れた方が楽よ』

手をヒラヒラさせながら、あっけらかんと言われた。
彼女は渡り人だし、こういうものかと思って割りかしすんなり受け入れたらしいけど、根っからのグリードエンド国民からしたら、中々難しいもんだよ。
うちの父母も中々のバカップルぶりを見せてくれているけどさぁ。
戸惑ってしまうのよ。

あ、お姉ちゃんたちはどうなんだろう、と思って、物は試しと聞いてみたんだけれども。


『え?普通じゃない?』

・・・ダメだ。すっかり毒されていた。
グラントさんも見かけによらず、甘々なんだな。
しかし、そうか、普通か・・・いつまでも照れてる私がおかしいのか。
慣れる・・・慣れるしか無い。無いのか?やっぱり・・・



色々と現実逃避しているが、今まさに、ソファに座った私を正面からから腕の中に囲い込むように、アシュレイさんから壁ドンならぬソファドン?を、受けている。

ブルーグレーの透明感ある瞳に間近で見つめられ、甘く促すように、でも絶対に言い逃れは許さない声音で問われた。

「シェリル、こっち見て。さっきの答え俺聞いてない」 
「ふぁい」

ヒョッっと、ソファで体育座りになったまま、恐る恐るアシュレイさんを見上げる。

ううっ、どうしてこうなった???



****

時間は今から少し遡る。

訓練場から戻る私を後ろから呼び止める声がした。
振り返ると、最近第三隊から移動して来たばかりのえぇ~っと・・・

「ジョーだよ。ジョー・ルール」

誰だ?って露骨に顔に出ていたのだろう、相手は苦笑しながら教えてくれた。

「ルール先輩。何か御用ですか?」

確か彼は私より2年先輩のはず。
頭一つ分ほど高い彼を見上げた。

柔らかそうに揺れる茶色の髪に人懐こそうな明るい青の瞳、さわやかイケメンだが、何となく大きいワンコを想像させるような人だ。

小首を傾げでこちらを見ていた。
その姿を見て思い出した。
ゴールデンレトリバー!毛の感じとか雰囲気とか、正にそれ。

ワンコ先輩は周りを見渡し

「あの・・・・・ちょっと相談があるんだけど、ここじゃあ何だから、場所変えて良いかな」
「相談ですか?良いですけど」

何だろう。
考えてみたら、第一隊に戻って来たとはいえ、入隊してすぐに護衛任務に回され、隊のことなどさっぱりわからない。
前を歩くワンコ先輩の後を、はて?と首を捻りながら取り敢えず着いて行った。

到着した先は第一隊と魔術研究所を繋ぐ道の丁度真ん中あたから少しそれたところだった。
所々に休憩できるように、芝生にベンチが置かれている。
終業後とあって人も少ない。

「あそこで話そう」

促されて隣に座る。

「で、お話とは?」

訓練後は帰るだけとはいえ、手短にお願いしたい。
何てったって帰ったらアシュレイさんと夕飯を作る約束をしてるからだ。

ワンコ先輩は少しソワソワしながら、こちらを見ると、思い切ったように口を開いた。

「君があの『難攻不落の氷結魔術師』を落としたシェリル・テパルさんだろ?頼む!その手腕を是非俺に伝授してくれ!!!」

パンッと音がするほど手を合わせて拝むと一気に捲し立てた。

難攻不落の氷結魔術師ぃぃぃ!?
アシュレイさんが?
初めて聞いた。
『来るもの拒まず3ヶ月で破局の魔術師』の間違いじゃ無くて?
あれ?世間と認識違う??本人が言ってたんだけどな。まぁいいか。


「あのぅ~、アシュレイさんのことですよね?手腕と言われましても、特に何かしたって記憶はないんです。お役に立ちそうも無くてすみません」
「えー!!自覚がなくてあのアシュレイ・ロックスと速攻で婚約したの!?毎日一緒にいたんでしょう?」
「護衛だから当然です。普通に仕事してただけです」

仕事にかこつけて籠絡したみたいに言わないで欲しい。
真面目に勤務していただけだ。
たまに飲みに行ってウェッフェ~イと盛り上がったことはあったけど。
仕方ないじゃん、アシュレイさんといると楽しいから。
しかし、氷結とは・・・解せない。

ワンコ先輩はまたも俯いて、えー無自覚?凄いな、などどブツブツ言っていたが急にこちらを向いた。

「アリエル・シュード知ってる?」
「私と同期のですか?知ってますよ」
「俺、こっちに配属されて初めての任務で一緒だったんだけど、彼女ってマジで天使だと思ったんだよね。どうにかして仲良くなりたいんだよ」

アリエルは攻撃魔術よりも防御や治癒が得意で、後方支援で主に救護班として任務に着くことも多い。
確かにフワフワの若草色の髪にくりっとした薄い紫の瞳の小柄で可愛らしい子だ。
その任務とやらは大分減ったがクリストファーさんの浄化に同行したのだろう。
各隊持ち回りで確か今回はうちが同行したと聞いていた。


つまり、任務で一緒になった彼女に一目惚れしたと。そして、彼女を狙うライバルも多いから、モテ男アシュレイさんと婚約した私に何かヒントをもらおうと、そういうわけですか。
あれ?でもアリエルって。

「彼女、彼氏いますよね」
「・・・・・・知ってる」

ワンコ先輩が今にもクゥンと音がしそうなほど俯いてつぶやいた。
しかし、次の瞬間、ガバッと起き上がって私の両手を掴むなり

「でも、諦められない!好きなんだ!!」
「何の話だ」
「「!!!!」」

ピシリと空気が凍るような声が聞こえて、ワンコ先輩と手を取り合ったまま、ギギギギと声のした方を向いた。

難攻不落の氷結魔術師様がベンチの後ろから腕を組んで我々を見下ろしていた。

ギャー!!と心の中で悲鳴をあげ、ワンコ先輩の手をぱっと話すと立ち上がってアシュレイさんに直立不動で向き直る。

「ワン・・・ルール先輩の相談に乗っておりました!!」
「そうです!!!デパルさんには私の個人的な相談に乗ってもらっておりました!!!」

騎士団の上官にするように二人で直立不動で報告した。
怖い、怖くてアシュレイさんの目が見れない。
後ろめたい事は何一つ無いけど、さっきの言葉が聞こえていたのだから怖すぎる。

しばらくジッと私を見ていたが、フッと息を吐くと私の手を取った、

「遅いから迎えに行くところだったんだ。帰ろうシェリル」
「帰りますっっ!失礼します。ルール先輩」

ワンコ先輩はカクカクと何度も頷き、私たちを見送った。



アシュレイさんに連れられて転移で家に戻り、ソファに腰を下ろした私に、「で、さっきのアイツの告白は何?」と見下ろされていたのである。

ベンチでは氷点下だったのに、今は瞳の奥にチロチロと炎が見え隠れして、段々とアシュレイさんの声や態度に甘さが増して行く。

「シェリル、答えてご覧」

どんどん近づいてきて、とうとうコツンと額が合わさった。
ひょぉぉぉ!ある意味氷点下より怖い。

「あ、あ、あの、ルール先輩が最近任務で一緒になった、私の同期の女性に好意を持ちまして、彼女には恋人がいるのでなんとか仲良くなれないかと、難攻不落のアシュレイさんと婚約した私に良い知恵はないかと聞かれていたところです」

一息で言い切った。
嘘はないぞ、何一つない!
先輩の個人的な悩みを話すのはどうかと思ったが、アシュレイさんに誤解されるくらいなら迷わず話す。
ジッと私を見ていたアシュレイさんが少し離れた。

「難攻不落って何だ?」

そこ???今の説明で食いつくところそこ???

「私もよくわかりませんが、先輩がそう言ってました。とにかく、名前も知らなくて今日初めて話した先輩なんです。私とアシュレイさんが婚約したのを聞いて、手腕を伝授して欲しいと言われたんですが・・・・・・」

困ったように言う私を見て、ブッと吹き出した。

「なるほどね。確かに恋愛の手腕って言われてもシェリルは戸惑うよな」
「うん」
「だって、自然体のシェリルを好きになったからな、俺」
「ひょえ??」
「そういうとこ。可愛い、たまんない」

さらりと宣うアシュレイさんに体育座りのまま固まる。
クスクスと笑いながらゆっくりと顔を近づけて来た。
だ、か、ら、甘い~~、甘すぎるってぇぇ。
やっぱり・・・慣れないっっ!!


















































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