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本当に良いんですか!!

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ぺこり、とおじぎの絵文字を送ってから。
ふぅぅ、と雅は息を吐いた。少し緊張していたらしい。

那須のお蕎麦屋さんは後輩に聞いてから本当に行きたかったところだ。
あちこちで食べ歩くのが趣味な子で、色々と美味しいところを紹介してくれる。

今度彼氏と行ってみて下さい、とおススメしてくれたのだ。
どうやら、彼女も会社の前で待ってた蒼司を見たらしい。
『彼氏さん凄いイケメンですね、物凄くお似合いで声かけられませんでしたー』と明るく笑って言ってた。

前田さんは声かけて来ましたけど、と、思ったがそれは言わないでおいた。


まぁ、何はともあれ、無事蒼司を誘うこともできた。
温泉付き、と言われたが、もちろん了解である。
先日の返事もしなくてはいけない。
心は決まっている。

明日はちゃんと言わなくては。
明日に備えて、悠里からもらったポーションを飲んで寝た。


***

翌、土曜日。
天気も良く、ドライブ日和だ。
昼前には着きたいからと、朝は少し早めに出る事にした。

待ち合わせ場所の駅前ロータリーに行く。
既に蒼司はいた。が、いつもと雰囲気が違う?

「おはようございます・・・」
「おはよう雅ちゃん」

蒼司が笑いながらメガネを外す。
あ、いつもの蒼司だ。あれ?さっきのは?
その様子をくすくす笑いながら見る蒼司。

「このメガネに認識障害かけてもらったんだ」
「認識障害?」
「そう、俺って一瞬わからなかったでしょ?」

確かに。蒼司なんだけど、いつもより目立たないというか・・・

「凄いですね、それはクリストファーさんが?」
「そう、依頼してたのってこれだったんだ」

助手席のドアを開けながら、蒼司が雅を車へエスコートする。
自分も乗り込むと

「じゃ、行こうか」

ニッコリ笑って車をスタートさせた。




「異世界で仕事増えたんですか!!」
「そう。ピアノの調律以外にもリサイタルの仕事ももらって来たよ」
「こっちではリサイタルは?」
「今のところ特に無いんだけど、あれば受けてみようとは思うよ」
「本当にピアノ好きですよね」
「うん、ピアノと雅ちゃんが入れば良い」

さらっと照れることを言う。雅はボワっと頬が赤くなる。
話題を変えようと

「朝ごはん食べました?おにぎり作ったんですが」
「ありがとう!食べてない」

運転しながら食べられるように、小さめのおにぎりを作って来たのだ。

ラップを半分外し手渡す
案外豪快に一口食べる。

「美味しい!炊き込みご飯だ。朝から大変だったでしょ。ありがとう」
「いえいえ、すぐに炊けるので」

美味しい、美味しいとパクパク食べる。
気持ちいい食べっぷりだ。
作って良かった、と雅は微笑みながら蒼司を見ていた。


***

幸い、早めに出たお陰で渋滞に巻き込まれずにスイスイやって来れた。
目的地手前のインターで休憩がてら車を停める。

「まだ時間早いから、どこか観光しよっか」
「はい」

お蕎麦屋さんの近くに道の駅があった。
ちょっとぶらつくには良いかもしれない。
二人は行ってみる事にした。


土曜日なので、結構賑わっていた。
地域物産を見て歩き、お互い家に土産を買ったり、
広場をぶらついたりしていた。



気がつくと予約の時間が近くなっていた。

「さ、そろそろ行こうか」
「え、もうそんな時間?」
「ぶらぶらしてたらお腹すいた」
「あはは、おにぎりあんなに食べたのに?」
「雅ちゃんのおにぎりは無限に食べられる」
「も~」

車に向かって行った。


お蕎麦屋さんまではすぐだった。
隠れ家的なお店でちょっとわかりにくかった。


こじんまりしてて、雰囲気は良い。
二人は後輩がおススメしてくれた、天ざるを頼んだ。
お蕎麦は絶品で、天ぷらはサクサクでここまで来た甲斐があった、と雅は感謝した。

蒼司も蕎麦好きらしく、二人はペロリと平らげ、蕎麦湯まで堪能して、店を出た。


「さて、温泉行くか~」
「?宿ってもう入れるんですか?」
「宿?」
「あれ?今日泊まりじゃなく?」
「!!!!」

思わずハンドルに突っ伏した蒼司。
あれ?違った?私だけ?勘違いしてたの?雅は早とちりで自分だけやる気マンマンだったのかとちょっと恥ずかしくなった。

「い、今のは忘れて下さい」
「無理、忘れない。いいの?本当に?本気にしちゃうけど」

とりあえず、ここは出ようと、車を出す。
少し走ってコンビニを見つけ、ちょっと待っててと雅を車に残して、買い物しに出て行った。

しばらくして戻ってくると、雅に無糖の紅茶を差し出し。
いつも飲んでいるのだった。
ちゃんと見てくれているのが嬉しい。

スマホを取り出して、宿をチェックする。
ピアニストと一緒にあちこち遠征することの多い蒼司は、以前泊まったことのある、部屋に露天風呂のある宿があったのを思い出した。
幸い、キャンセルがあって、念願の部屋が取れた。

雅は一連の早業に呆気に取られた。
すぐに電話を切り、蒼司は雅を見てニッコリする。

「さて、もう逃してあげられないよ、雅ちゃん」

雅はコクコクと頷くしか無かった。

それまでは少し観光して、チェックインの時間になると、蒼司は早速宿に行く。

「わぁ、素敵なとこですね」
「仕事で来たことがあってね。気に入った?」

蒼司を振り返り、頷く。
さ、行こうか、と二人はチェックインをした。













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