狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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4章

2 驚き

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 シロウの部屋からは彼が起きた気配がしていることにリアムは気づいていた。
 いつまでも出てこないシロウに不安が募る。
 様子を見に行こうかと思ったその時、シロウの部屋の扉が開く音がした。
 少しすると、いつもと変わらない、デニムに白いTシャツを着たシロウがリビングに入ってきた。
「身体は大丈夫かい?」
 リアムはそう声をかけ、出迎えるように近づこうとすると、シロウから悲しみと緊張の匂いがした。
「その、昨日はすまなかった」
 そう謝った瞬間、シロウが顔を赤らめ身を硬くする。
 誠意を尽くそうと話しかけたが、失敗したかもしれない。シロウが話し始めるのを待った方が良かったかもしれなかった。
「昨晩は申し訳ありませんでした。貴方にあんなことをさせてしまって。ここにはいられない。出ていかせていただきたいです」
 そこまで言い切ると深々と頭を下げた。
 どんな目で見られるかを考えると、頭を上げてリアムの顔を見ることが出来なかった。

 リアムは困惑した。自分がなじられ、非難されると思っていたが、まさかシロウから謝られるとは思ってもいなかった。
「そんな!ちょっと待つんだ。俺が謝ることはあっても君が謝ることはないだろう。前後不覚なのをいいことに秘密を暴いたのは自分だ」
 そう言われてはっとする。思わず上げたシロウの顔には恐怖の表情が浮かんでいた。
 それ以上何も言わないでくれと目で訴えてくる彼に、それでも自分はシロウを手放す気はないことを伝えなくてはと気が急いる。
「君が……君のことが好きなんだ」
 思わず、子供のような告白をしてしまい、思いの外自分が焦っていることにリアムは気がつく。

(俺のことを好きだって?)
 唐突なリアムの告白にシロウは頭が真っ白になり、返す言葉を見つけられずに戸惑っていると、リアムが再び口を開いた。
「ずっと側に居てほしい」
 そう告げると、真摯な瞳で見つめられる。
 リアムはどういう意味かわからずに呆然としているシロウに近づくとおもむろに抱きしめ、唇を合わせてきた。
「んぐっ」
 リアムの行動についていけず、混乱する頭で考えをめぐらせている間に、きつく結んだ唇を何度もついばまれ、今度はその行為に思考が纏まらなくなる。

 シロウは身を捩り、リアムの腕から逃げ出そうとする。逃がすまいとより強く抱きしめられ、息が苦しい。尚も逃れようと、リアムの胸に拳を叩きつけた。
 抱きしめる腕を少し緩めると腕の中のシロウを見つめて囁いた。
「君が好きなんだ。どうかいなくならないでくれ」
 美しいアイスブルーの瞳に魅入られる。掠れた色っぽい声で告げられ、それが愛の告白であることをシロウはようやく理解した。
「どうして……?」
 小さく疑問の声を漏らした。本当はもっと気の聞いた言葉を返したかったかったのだが、うまく言葉にならず、諦めた。もともと口下手だ。
 返事はなく、再びキスが落ちてくる。
 何故、どうして、いつから、そんな疑問がシロウの頭の中に渦巻いていく。
 返ってこない言葉の代わりに情熱的に求められる唇に言葉などでは言い表せないというリアムからの強い気持ちを感じ取り、疑うべくもない愛情に自分は拒絶されてはいないと思い、シロウはそのまま身を任せる。
 シロウに拒絶の様子がないことを感じとり、徐々に口付けを深くした。薄く開いた唇を割り、ぬるりと入ってきた舌におずおずと舌を合わせるとじゅっと吸われる。リアムに絡め取られた舌がのたうつ。だんだん息があがってきた。一際強く吸引され、頭が痺れ、思わずふるりと身体を震わせる。腹の奥がきゅうとなり、秘唇がじわりとした。
 そのまま、されるがまま口腔内をリアムに蹂躙される。おさまりきらない唾液が口の端からつぅっと溢れる。

 大きく取られた窓からは午前中の日の光が差し込み、部屋を明るく照らす。爽やかな朝の空気とは対照的なみだりがましい水音が耳を犯し、頭の中が真っ白になって、シロウは何も考えられなくなった。
 足の力が抜けて、自分で立つのもやっとのシロウの腰をリアムはぐいっと引き寄せる。
 さらにきつく抱きしめられ、腹に硬いものがぐりっと押し付けられ、それがリアムの勃起だとわかり、驚きと困惑から現実に引き戻された。
 腕を振り解こうと足に力を込めるが、全く力が入らず、はふはふと喘ぐように、リアムの唇から逃れようとする。
 すると、気づいたリアムは唇を離し、シロウを抱え上げるとソファに向かって歩き出す。
 降ろして座らせてもらえるという期待を裏切られ、そのままソファに仰向けに押し倒された。
 広い肩幅に大きな体躯のリアムに上から覆い被された自分はさしずめ、大型捕食獣に射すくめられた獲物である。
 このままなし崩しに淫らな行為続けるわけにはいかないと意を決して、声をかけようとしたところでリアムの眼が狼の目に変わっていることに気づく。自分の視界も色を失っていた。

「君がほしい」
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