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5章
5 シロウがいない
しおりを挟む日も暮れ始めた頃、レナートの携帯が鳴る。ディスプレイの表示を見ると、リアムからだった。
大方、今日のシロウとの面談の様子でも探ろうと電話をかけてきたに違いないとレナートは思い、携帯のロック画面をスライドする。
「レナート、シロウはまだそこにいるのか?」
検討違いのリアムの質問に面食らう。
(オーガミ君がまだいるかだって?)
レナートが壁に掛けられた時計を見ると、時刻は16時を回ったころだった。
シロウがレナートの研究室を後にして、かれこれ4時間ほどは経過している。
「オーガミ君はとっくに研究室から帰ったよ」
「そうか……連絡がないからまだ研究室にいるのかと思ったんだが……」
携帯の向こうのリアムから焦りがにじむ。
「狼になりたてとはいえ、大の大人だ。一人でホテルに帰れるだろう?何をそんなに焦っているんだ」
普段は冷静沈着はリアムが焦る様子が少々珍しく、レナートはからかい交じりに尋ねる。
「数時間前からメッセージを送っているが何の返事もない…てっきり、お前や研究室のメンバーとでも話し込んでいて、携帯に気づいていないのかと……」
「部屋に自分で戻っているんじゃないか?」
「帰る時は迎えに来るから、連絡するように朝言ったんだが……」
狼の姿であれば耳が垂れているのではないかと思うほどにしょぼくれた声を出すリアムがこれまた珍しく、レナートは思わず笑いそうになるのをぐっとこらえる。
「シロウに変わった様子はなかったか?」
そう尋ねるリアムにレナートは「そういえば、お前、ほとんど何もオーガミ君に人狼のことを話していなかったな?」と逆に返され、リアムは焦り交じりに弁明した。
「いずれにせよ、部屋に戻って確認してみたらどうだ」
「そうだな」
リアムもこれ以上レナートと話していても仕方ないと言わんばかりにそそくさと電話を切った。
「薄情な奴め」と暗くなった携帯のディスプレイを眺めながら、レナートは独りごちた。
リアムはホテルに着くまでの間、車の中からも何度かシロウの携帯を鳴らしてみたが、出なかった。
──何か胸騒ぎがする……。
アクセルペダルを踏む足に力が入る。
やはり一人で行かせるべきではなかったか…とリアムは後悔した。
いや、シロウは俺に面倒をかけると思って、自分で帰ったのでは?と都合の良い解釈で自分をなだめようとするが、焦る気持ちはおさまるどころか一層にひどくなり、ホテルまで車を飛ばした。
ホテルの部屋の扉を開けると中は真っ暗だった。
「シロウ?……」
「シロウ!いないのか?」
呼びかけたものの、部屋からはシロウの香りはしない。
いないことはわかっていて、なお声を張り上げてシロウを呼ぶ。
暗い部屋のどこにも、シロウの姿はなかった。
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