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5章
4 疑問
しおりを挟むシロウは自身が人狼に変化してから、ずっと疑問に思っていたことだった。先天的人狼とは遺伝で、やはり生まれながらにして狼になれる能力を持っているようなのだ。
となると、後天的人狼とは何なのか。
「俺は……なぜいきなり人狼になったのでしょうか。後天的人狼とはどのようになるのですか?」
後天的人狼とは、その問に答えることはできても、「なぜシロウが人狼になったのか」という質問にレナートは答えを持っていなかった。
シロウの変化と一般的な後天的人狼ではまったく事情が異なると思ったからだ。
「後天的人狼とは……便宜上、オーガミ君を後天的人狼と呼称しているが、君は先天的人狼なのか、後天的人狼なのか判断ができない」
どういうことなのだろう。自分はずっと後天的人狼と言われてきたので、「遺伝的に人狼ではないのだ」と思っていたし、自分も幼いころに両親を亡くしているとはいえ、父か母のどちらかの血族が人狼であったとは考えづらいと思っていた。
「どういうことでしょうか?」
「後天的人狼とは人狼の血を与えられて、肉体が人間から人狼に変化するものなのだよ。だが、滅多に行われない。そもそも人狼の存在が公にされているわけではないから……相当な事情がない限り行わないんだ」
相当な事情とはなんだろうか。確かに考えてみたら、血族ならいざしらず、そうでない人間がそうそう簡単に人狼になったとしたら、人狼の存在自体を隠しておくことは難しいだろう。
「人狼には人間を超える治癒能力や免疫能力があるんだ。大怪我をして、やむを得ず相手の同意を得て、血を与えて、人狼に変化させることが稀にある」
では、自分はどうなるのだろうか。大怪我をした覚えも、だれかに人狼に変化されてもいいかと同意を取られたこともない。
大した病気もしたことがない。
何より、自分の特殊な身体のせいで、病院に行くことすら忌避してきた。
「血を与えられてから人狼に変化するにはそれほど時間は必要ない。血を与えられた相手は速やかに肉体が変化するんだ」
レナートはそう説明してからシロウの方を見やると、目の前には青ざめた
そこまで聞いたシロウはひとつの考えに行きついた。
リアムによって血を与えられ、人狼になったのではないか──。
では、理由はなんだろう?
リアムとシロウは知り合いではなかった。渡米して初めて会ったはずだ。レナートへ挨拶をするために訪れた際の大学で。
──それとも、リアムは俺のことを既に知っていた?
だが、仮に以前からリアムがシロウのことを知っていたとして、この大学の、ましてやレナートの研究室に入るように仕向けられたとは思えない。
レナートの研究室に来るということは、シロウ自身で決めたことだ。
では、本当に偶然なのだろうか……。
全くの偶然に自分はレナートの研究室に入ることを決め、全くの偶然にこの広い世界の中で海を越えた出会いを果たし、全くの偶然にいままで人狼ではなかった自分が自然と人狼の能力に目覚める。
そんな確率はありえるのだろうか。
先ほど、レナートはシロウが先天的な狼か後天的に狼になったのかはわからないといっていた。だが、レナートはリアムの友人である。もし後ろ暗いところがあるならば、その事実はシロウには告げないと思う。
何故?いつ?
シロウの頭に次々と疑問がわいてくる。
一度、状況と頭を整理しなくてはならないと感じる。
「……ーガミ君?……」
「オーガミ君!」
はっとして顔を上げると、訝しげにレナートがこちらを眺めている。
「どうしたんだい?考え込んで」
「いえ…お忙しいのに、長居をしてしまったと思いまして…」
質問に素直に答えるべきではないと思い、適当な返事でその場をうけながすことにした。
「そろそろお暇いたします。少し落ち着いたら、当初お願いしておりましたように、研究室に伺わせていただきます」
そう言うと引き止められないようにそそくさと立ち上がり、その場をあとにしようとする。
「あぁ……確かに結構時間が経っていたね」
レナートは明らかに様子がおかしいシロウが気にかかりつつも、引き止めるほどではないと思い、立ち上がったシロウに挨拶をするために立ち上がる。
別れの挨拶に右手を差し出すが、気もそぞろに立ち去るシロウに無視される。
レナートは虚空に差し出された自分の右手を空しそうにただ眺めるしかなかった。
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