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7章
6 帰還2
しおりを挟む戻ったリアムはキッチンへ立ち寄り、コーヒーを入れてリビングに戻る。
「シロウはどこで狼に変わったんだろう?」
「それはわからないな。ただ、アパートの近くではなさそうだ。」
そう言って、コーヒーを受け取ったレナートに視線をやるとレナートは隣に座るジェイムズに目配せをした。
「そうなんっす。あまり近くに寄って逃げられたら困ると思って、少し距離を空けて話してはいたんですが、彼の周りには服とか、荷物の類いが落ちてなかったんですよ」
話し方や雰囲気からは到底想像つかないが、ジェイムズという男はなかなか気遣いができる男のようだ。
「素晴らしいな。」
リアムは正直な感嘆を漏らす。
「あざっす」
そう、軽く答えたジェイムズをレナートが小突く。
「『ありがとうございます。』だろ。言葉使いはきちんとしなさい。」
そう言われたジェイムズは少し居住いを正して、「ありがとうございます。光栄です。」と丁寧に言った。
「いや、礼を言うのはこちらだ。本当にありがとう。シロウを見つけられずに途方にくれていたんだ。」
リアムは礼をしたいと申し出たが、それはレナートによって却下され、彼がリアムとレナートと同じ群れに所属している学生だということがわかった。
大学は同じだが、レナートの研究室の学生ではなく、別の学部で学んでいるが、群れのよしみで、レナートが面倒をみているそうだ。
再び、シロウの状況の話に戻り、本人が人間に戻って説明をしてくれない限りは埒があかないという結論になり、もう遅いのでその場は解散する流れとなった。
見送りにドア口に立ったリアムにレナートが声を抑えて、話しかける。
「とにかく、落ち着かせて、人間に戻してやれよ。あと、あまり問い詰めるな?昼間話したことが原因ならなにか思い詰めて……だったんだろうし」
「あぁ……わかってる」
「ジェイムズを置いて行くか?あいつに人間に戻る方法を説明させてもいいが……」
なに、今までリアムが教えていたことだ。ここでレナートでもなく、いきなりジェイムズを推薦した理由はリアムにはわからなかったが、丁重に断った。
ジェイムズがなにか人狼変身のエキスパートでない限り、リアムとそう変わらないはずだし、何より人見知りのシロウが見知らぬ青年に直ぐに心を開き、その教えに従えるとも思えなかった。
二人を見送ったドアを閉めると、リアムはキッチン横のバーカウンターから、酒を取り出して、グラスに注ぐ。
クイッとグラスの琥珀色を飲み込むと、昼から何も食べていなかった胃にアルコールが染み渡った。
シロウは戻ってきた。
シロウが不在の間の不安や心配はいくらかおさまっていたが、夕方からの一連の騒動で昂ったリアムの神経は落ち着く気配を見せなかった。
──熱いシャワーでも浴びて、俺も休もう。
本当は熱いお湯に入れてシロウを洗ってあげたかった。
狼の姿でもいいから、抱きしめてその腕の中にシロウがいる安心感をえて、眠りにつきたかった。
だが、今日は我慢しよう。再び手の中に戻ってきたことを喜ぼうと思う。
リアムはグラスの中の残りをあおると、気持ちを切り替えるべく、バスルームへと向かった。
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