39 / 146
7章
5 帰還1
しおりを挟む幸いなことに、リアムの部屋に繋がるエレベーターは駐車場からペントハウスへの直通のため、狼のシロウを抱えていたところで、誰にも見咎められることはない。
たとえ見つかったとしても、咎められはしないかもしれないが、動物の宿泊は可能を謳っている訳ではない分、何某かの問題はある。
リアムはタオルか何か、シロウを包めるものを持って来ればよかったと思った。だが、出掛けのリアムにそんな余裕は全くなかったので仕方がない。
車を降りたリアムはリアシートからシロウを抱き上げると、辺りの気配と匂いを確認する。
遅い時間なこともあり、辺りには人気ひとけはほぼない。しかし、リアムの帰途を知ったホテルがスタッフを地下に寄越していたようで、どうにかドアマンの目を逸らさなければならなそうだった。
後ろからついてきていたレナートも自身の車を停めて、リアムに近づいてきた。
「レナート、ドアマンの目をそらせないか。その隙に俺がエレベーターまでシロウを連れて行く」
声を顰めて伝えると、レナートは頷き、「わかった。ジェイムズはリアムの横を歩いて、リアムが隠れるように……お前の体格だと、あんまり隠れないな」
「そうっすね。でも、了解です!」
軽い感じで了承の返事をする。
リアムより、幾分背が低く、体格も細身なジェイムズでは、がっしりとして体格のいいリアムを隠す壁の役割はあまり果たせそうにないが、目くらましとなりそうな視線の妨害はないよりあった方がマシだろう。
レナートは一足先を行き、人の良さそうなドアマンの青年に何か話しかけると、ドアの前から移動した。
その隙にリアムとジェイムズはホテルの入り口を入り、一般のエレベーターホールと比べ、豪華な作りになった専用のエレベーターホールへと歩みを進める。
しばらくすると、レナートが近づいてきた匂いがした。
全員がエレベーターに乗り込むと、部屋へと問題なく辿り着けそうな状況に一同の安堵の息が漏れた。
「スパイみたいっすね!」
この状況で軽口を叩けるジェイムズはなかなかの大物かもしれない。
「で、ジェイミーはどうやってシロウを見つけたんだ?」
無事に部屋へと戻った一行は広いリビングに備え付けられたソファへと座って、状況の整理を始めた。
シロウは相変わらず狼の姿のままで、喋れもせず、大人しく尻尾をたらしている。
「夕方行った時はいなかったんですが、やっぱ夜になったら、戻ってくるんじゃないかな?って思って、もう一回見にいったんす」
若者は砕けた調子で話す。
「ギャラガーさんのところに戻ってなかったら、まぁどこに行くかってやっぱり、自分の部屋かな?って。そしたら、人狼の匂いがするんで、レナート教授に連絡したんです」
確かに言われてみればそうだ。
だが、鍵も持っていっていなかったことを知っていた分、自分の部屋に戻る可能性は低いと思い込んでしまった。
まして、狼の姿になってしまっているなどと、リアムは思いもしなかった。
突然街中で狼に変身してしまったシロウのことを考えるとどれほどの恐怖であったか。リアムは胸を痛める。
「じゃあ、君が見つけた時には既に狼の姿だったんだな?」
「そうです。喋れないし、オーガミさんにことも直接知らないから、本当に本人かわからなくて。でも、話しかけたら逃げもせずに大人しくしていたんで」
リアムは再び、茂みに隠れていたシロウの様子を思い出す。狼の姿で誰かに見つかったら、どうなるかわからないと思って、隠れていたのだろう。善意とはいえ、どのような尋ね方をしたかは知らないが、見知らぬ人物から「自分も人狼だ。オーガミか?」と尋ねられた状況にシロウはさぞかし驚き、不安に思ったに違いない。
リアムは足元のシロウを優しく抱き上げて、膝の上に乗せると、ぎゅっと抱きしめた。
「シロウ、おかえり。もう安心していいからな。」
そう声をかけると腕の中のシロウが身じろぎし、「くぅーん」と頼りなげな声を漏らす。
「疲れただろう。狼のままで構わないから今日はもう休もう」
そう言って、リアムは一足先にシロウを部屋に寝かせに行った。
29
あなたにおすすめの小説
俺がモテない理由
秋元智也
BL
平凡な大学生活を送っていた桜井陸。
彼には仲のいい幼馴染の友人がいた。
友人の名は森田誠治という。
周りからもチヤホヤされるほどに顔も良く性格もいい。
困っている人がいると放かってはおけない世話焼きな
性格なのだった。
そんな二人が、いきなり異世界へと来た理由。
それは魔王を倒して欲しいという身勝手な王様の願い
だった。
気づいたら異世界に落とされ、帰りかたもわからない
という。
勇者となった友人、森田誠治と一緒に旅を続けやっと
終わりを迎えたのだった。
そして長い旅の末、魔王を倒した勇者一行。
途中で仲間になった聖女のレイネ。
戦士のモンド・リオールと共に、ゆっくりとした生活
を続けていたのだった。
そこへ、皇帝からの打診があった。
勇者と皇女の結婚の話だった。
どこに行ってもモテまくる友人に呆れるように陸は離
れようとしたのだったが……。
ずっと、貴方が欲しかったんだ
一ノ瀬麻紀
BL
高校時代の事故をきっかけに、地元を離れていた悠生。
10年ぶりに戻った街で、結婚を控えた彼の前に現れたのは、かつての幼馴染の弟だった。
✤
後天性オメガバース作品です。
ビッチング描写はありません。
ツイノベで書いたものを改稿しました。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる