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14章
6 気まずさの理由
しおりを挟む薄暗い廊下から扉を開けると、大きく開いた窓から差し込む陽で眩しく、一瞬目が眩む。
明るさに敏感になったのも人狼になったせいだろうか。ほんの少し前のことなのに、シロウには人狼になる以前、ただの人だった時に光をどう感じていたのか思い出せなかった。
眩しさに目を瞬かせながらリビングまで案内し、ジェイムズにソファを勧めて自分も座る。
ソファに横並びで座るとどこを向いていいのかよくわからなくて、シロウは視線を彷徨わせる。
落ち着かない気がするのは、先週まではダイニングテーブルや、キッチンカウンターに座ってもらっていたからかもしてない。リビングのソファは座って話すためより、狼化の訓練のためにリビングの床に座った時の服を置く場所だった。
でも、今日はソファに座ってもらう。なんとなく、ソファに座る方が距離感が近い気がしたからだ。その考えは間違ってはいなかった。ただ、シロウには少しだけ近すぎた。
一人そわそわして落ち着きのないシロウに、ジェイムズは「今日はリアムさんはいないんだね」と話しかける。
「あ、うん。仕事に朝から出かけて」
「忙しいのかな」
「かもしれない。たぶん……きっと……」
そう。リアムは忙しいのだと思う。
元々多くの仕事を抱えている様子だった。それが不慣れなシロウに付き合って、毎日無理して一緒にいてくれたのだと思う。
シロウは避けられているのかもしれないとは思いたくなかった。実際、避けられている訳では無いだろうことも頭の中ではわかっていた。
だが、週末の出来事のせいで気まずい気持ちにさせているのでは無いかと不安だった。
視線を落として、シロウは膝の上にある自分の手を見つめる。
会いに来てくれた友人に相談したい気持ちと、つまらない自分の話を聞かせるのはジェイムズに悪いのでは無いかという気持ちが、今更になって葛藤する。
せっかくなら楽しい話をしたいと思う。だが、楽しい話題が何も思い浮かばなかった。
「シロウ?」
呼びかけられて、ハッと顔を上げる。
「あ、ごめん。ごめん。ちょっとぼーっとした」
笑いながら答える。
「疲れてる?ごめんな、急に来たりして」
「いや、大丈夫。本当にちょっとぼーっとしただけだよ」
「なら、いいけど……」
「それより、何か用事があった?」
シロウは口にした後で、今の言い方は感じ悪かったかもしれないとハッとする。
「あ、いや、別に用が無くても、来てくれて、あの、大丈夫なんだけど……」
しどろもどろに言い訳のような言葉を取ってつけたように繋げてみるが、気を悪くさせていないか不安になる。
「あ!なんか飲む?何も出さなくてごめん」
シロウは慌ててソファから立ち上がり、キッチンへ向かう。
ジェイムズはぽかんとした顔でシロウの後ろ姿を追った。
「何、飲む?」
聞いたものの、冷蔵庫にあるミネラルウォーターか、フレッシュジュースしか出せない。かろうじて、紅茶なら淹れれない気もしなくもないが、ティーバッグではばくポットと葉っぱからいれるのはシロウには少しだけハードルが高かった。
「シロウ、気にしないで。なんでもいいよ」
その答えにシロウは胸を撫で下ろした。冷蔵庫を開けて、オレンジジュースのパックを取り出し、グラスに注ぐ。氷を入れるべきだったと、製氷室からスコップで氷をすくい、グラスに入れると、先に入っていたジュースがびしゃびしゃと飛び散った。
グラスに入ったジュース一つ満足に用意出来ない自分に、シロウは呆れを通り越して、情けなくなった。
二つ目のグラスには先に氷を入れてから、オレンジジュースを注ぐ。今度は無事うまくいった。
飲み物を用意している間に少しだけ、冷静になった。飲み物を持っていったら、ジェイムズに話を聞いてもらおう、そう決意してシロウはグラスを両手にソファに戻った。
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