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いち
SS 完璧なデート(2)
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三日後。
「いかがですか!?」
アビゲールはグルリと振り返って王子に尋ねた。
「いかがですかって………まずここは、どこ?」
「縁日ですよ~!」
アビゲールは声高に叫ぶ。
「嫌ですわ、殿下。いくら殿下が高貴なお生まれでいらっしゃるからって、天下の縁日も御存じないなんて!」
「いや、縁日くらい知ってるから!
問題は、何で城下の祭りに僕が君といるのかってことだよ!」
「何でも何も、お約束したじゃありませんか!」
完璧なデートを完遂すると。
そのためにアビゲールは三日三晩、徹夜で下調べをしたのだ。
初手の縁日から何まで、計略は完璧なのである。
「さァお手をどうぞ、プリンス?」
行動がいちいちイケメンっぽいんだよなあ、と王子は手を引かれながら思った。
♯♯
「あっ、見ろ! 白くてフワフワしたものがたくさん!」
「わたあめですね。二つ買いましょう」
店主に注文しながら、目を輝かせてわたあめを作る様子を眺める王子を横目で見て、アビゲールはニンマリと笑った。
(ふふふ………王子に、珍しいものの多い縁日は″刺さる″………予感は間違っていなかった………!)
何せ、エスコートのお相手は王子である。
前世の自分ほどでは無いとはいえ、彼は贅沢を随分味わってきている。デートで楽しませるにしても、正攻法ではなかなか難しいのだ。
そこで考えた搦め手。それが縁日だ。
(ま………連れてくるに、色々と障りはあったけれど)
主に常識とか。警護とか。
しかしそんなもの、アビゲールの力をもってすれば問題にならない。
(…………それにしても彼の周りの人間は駄目ね、あれっぽっちのお金で靡くなんて。悪帝の側近は、あの百倍まで搾ろうとして魂まで売っ払ったのに)
何しろアビゲール自身が問題なので。
♯♯
「はぁ、少し疲れた」
「屋台三周しましたからね~。休憩しましょうか」
アビゲールは王子を、喧騒から離れた高台へ導いた。
「少し足場が悪いですが、この岩場へ。ほらっ、景色がいいでしょう?」
「………本当だ………」
そこは、都が一望できる高台だった。
大きな石造りの城から商店や港、人々の営みから歴史を一目で捉えられる、絶景。
前世においての彼にとっても、お気に入りの場所だった。
(あーーー…………)
風景は黙せずして語る。匂いで。色で。鉄や岩や草の、ざわめきで。
(随分変わってしまったものね)
城下。
それはそのまま、かつて持ち、慈しみ、そして無惨に壊した街。
「………ほんの三十年も前は。この辺り一帯、眼前に豊かな町並みがあったそうですよ」
「………ふーん………」
王子は反応せず、何かを考えているようだった。だからアビゲールもそれ以上語らず、押し黙る。
やがて、王子がポツリと言った。
「………僕は、今の景色も嫌いじゃない」
「え?」
驚き、アビゲールは素になってしまう。
「壊れた、この街が?」
その言葉に、王子は少し憤慨した。
「僕だって、戦争なんか嫌いだ。僕の治世のときにそんなのを起こしたらと思うと、ゾッとする」
「………」
ですよね、と相槌をうちかけて言葉がまだ続いてると気付く。
「ーーけど。何が理由でどんなことが起きたか、それを知るのも大事だよ。………誰だって考えや背景があって行動をするのだと、僕は思うから」
だから王族には見る責任がある。
王子はそう静かに告げた。
「………そうですか」
アビゲールは思う。
知らないから言えるのだと。何も、彼らの悪行も何も知らないから、そんなことを言えるのだと。
「…………じゃあ、もし」
私が悪帝だと知ったら。
変わらずあなたは、理解しようと励むだろうか。
そう言いかけて、口を噤んだ。
(…………知ったら、彼もどうせ悪帝を見限る)
見てきたのだ。知ってるのだ。わかって、いるのだ。
弱者へ鉄槌を下すことは、悪いこと。平和を乱すのは、嫌われること。戦うのは、酷いこと。殺すのはいけないことだ。
志を共にした仲間が一人ひとりと離れていくのを見るたび、悪帝の心は凍り、悪帝を悪帝たるものにした。
心は頑なになり、何も受け入れられず独り生きて死に、それでもまだここに抱えている。
(………悪帝は、悪いやつだから)
ーーそれでも彼に触れると、なぜか身が軽くなる。
精神のわだかまりがフッと薄れて、少しまともになれる気になる。
捻れたその隙間に、わたあめみたいな優しくて柔らかいものが入ってくる。
その感情を、私はまだ知らなかった。
「アビゲール?」
「………いえ。なら、国中をデートしなくてはいけませんね」
アビゲールはそう言って笑った。
ーー今は、まだ。
「いかがですか!?」
アビゲールはグルリと振り返って王子に尋ねた。
「いかがですかって………まずここは、どこ?」
「縁日ですよ~!」
アビゲールは声高に叫ぶ。
「嫌ですわ、殿下。いくら殿下が高貴なお生まれでいらっしゃるからって、天下の縁日も御存じないなんて!」
「いや、縁日くらい知ってるから!
問題は、何で城下の祭りに僕が君といるのかってことだよ!」
「何でも何も、お約束したじゃありませんか!」
完璧なデートを完遂すると。
そのためにアビゲールは三日三晩、徹夜で下調べをしたのだ。
初手の縁日から何まで、計略は完璧なのである。
「さァお手をどうぞ、プリンス?」
行動がいちいちイケメンっぽいんだよなあ、と王子は手を引かれながら思った。
♯♯
「あっ、見ろ! 白くてフワフワしたものがたくさん!」
「わたあめですね。二つ買いましょう」
店主に注文しながら、目を輝かせてわたあめを作る様子を眺める王子を横目で見て、アビゲールはニンマリと笑った。
(ふふふ………王子に、珍しいものの多い縁日は″刺さる″………予感は間違っていなかった………!)
何せ、エスコートのお相手は王子である。
前世の自分ほどでは無いとはいえ、彼は贅沢を随分味わってきている。デートで楽しませるにしても、正攻法ではなかなか難しいのだ。
そこで考えた搦め手。それが縁日だ。
(ま………連れてくるに、色々と障りはあったけれど)
主に常識とか。警護とか。
しかしそんなもの、アビゲールの力をもってすれば問題にならない。
(…………それにしても彼の周りの人間は駄目ね、あれっぽっちのお金で靡くなんて。悪帝の側近は、あの百倍まで搾ろうとして魂まで売っ払ったのに)
何しろアビゲール自身が問題なので。
♯♯
「はぁ、少し疲れた」
「屋台三周しましたからね~。休憩しましょうか」
アビゲールは王子を、喧騒から離れた高台へ導いた。
「少し足場が悪いですが、この岩場へ。ほらっ、景色がいいでしょう?」
「………本当だ………」
そこは、都が一望できる高台だった。
大きな石造りの城から商店や港、人々の営みから歴史を一目で捉えられる、絶景。
前世においての彼にとっても、お気に入りの場所だった。
(あーーー…………)
風景は黙せずして語る。匂いで。色で。鉄や岩や草の、ざわめきで。
(随分変わってしまったものね)
城下。
それはそのまま、かつて持ち、慈しみ、そして無惨に壊した街。
「………ほんの三十年も前は。この辺り一帯、眼前に豊かな町並みがあったそうですよ」
「………ふーん………」
王子は反応せず、何かを考えているようだった。だからアビゲールもそれ以上語らず、押し黙る。
やがて、王子がポツリと言った。
「………僕は、今の景色も嫌いじゃない」
「え?」
驚き、アビゲールは素になってしまう。
「壊れた、この街が?」
その言葉に、王子は少し憤慨した。
「僕だって、戦争なんか嫌いだ。僕の治世のときにそんなのを起こしたらと思うと、ゾッとする」
「………」
ですよね、と相槌をうちかけて言葉がまだ続いてると気付く。
「ーーけど。何が理由でどんなことが起きたか、それを知るのも大事だよ。………誰だって考えや背景があって行動をするのだと、僕は思うから」
だから王族には見る責任がある。
王子はそう静かに告げた。
「………そうですか」
アビゲールは思う。
知らないから言えるのだと。何も、彼らの悪行も何も知らないから、そんなことを言えるのだと。
「…………じゃあ、もし」
私が悪帝だと知ったら。
変わらずあなたは、理解しようと励むだろうか。
そう言いかけて、口を噤んだ。
(…………知ったら、彼もどうせ悪帝を見限る)
見てきたのだ。知ってるのだ。わかって、いるのだ。
弱者へ鉄槌を下すことは、悪いこと。平和を乱すのは、嫌われること。戦うのは、酷いこと。殺すのはいけないことだ。
志を共にした仲間が一人ひとりと離れていくのを見るたび、悪帝の心は凍り、悪帝を悪帝たるものにした。
心は頑なになり、何も受け入れられず独り生きて死に、それでもまだここに抱えている。
(………悪帝は、悪いやつだから)
ーーそれでも彼に触れると、なぜか身が軽くなる。
精神のわだかまりがフッと薄れて、少しまともになれる気になる。
捻れたその隙間に、わたあめみたいな優しくて柔らかいものが入ってくる。
その感情を、私はまだ知らなかった。
「アビゲール?」
「………いえ。なら、国中をデートしなくてはいけませんね」
アビゲールはそう言って笑った。
ーー今は、まだ。
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