前世で悪帝と呼ばれた令嬢は、婚約者の王子に一目惚れをする。

夜のトラフグ

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chapter17 いじめっこアビゲール

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私はたぶん、真っ当な人間ではないと思う。
国民を虐殺した前世然り、王子こんやくしゃに熱を上げて、そのために全てを捧げる現在も。

人に優しくある。自分を大切にする。そういう基本的なことが、できない。理解を越えて、本質的にことができない。そういう欠陥を生まれついて持っている。

(……それを不幸だと思ったこと、少なくとも私は無いけれどね)


♯♯


学園へ入学してすぐ、私へ意識を向けてくるものは幾人もいた。男や女、級友や上級生や教師たち。たくさんの人々から、色とりどりの感情を受け取った。

好意、興味、感心。友情、恋慕、色欲、嫉妬、羨望。憎悪や嫌悪、恐れや憧れなど。

先行していた噂話、前世ほどではないけど人より優れた容姿や公爵令嬢としてのアドバンテージ、それに王子の婚約者という立場などの要因があって、私は常に人に囲まれる。
その一つ一つを穏便に躱してそれとなく囲い込むうちに、私は一つの視線に気がついた。

(ロム・クラダディ)

確か親は、王室秘書。古くはないが実力のある当主で、ここ数年勢力を上げてきている……。

(っと、ダメね)

人を理屈で判断してはいけない。これは前世で学んだ教訓だ。
アビゲールは気を取り直して前に座る彼を眺めた。

(………ふぅん)

顔は整ってる。背筋はピシッと伸びて、真面目そうな雰囲気が漂ってる。

(………それに左利きなのね。珍しいわ)

そう思ったとき、パチッと突然目が合った。彼が後ろを振り向いたためだった。

あ、とアビゲールは思ったが、とくに悪いことをしてるわけでもないのでそのまま見詰め続けた。
すると彼は、キュッと顔色を変えた。紅に使えそうなくらい、まっかっかに。

そうしてそのまま、ふいっと後ろを向いてしまった。
アビゲールは少し残念だったが、唇と同じくらい赤くなっている耳を見つけて、溜飲を下げた。

(………へぇ)

これが、アビゲールが彼に興味を持ったきっかけだった。
そしてまた言い換えれば本当の正体を彼に知られてしまう、きっかけ。
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