傾国の魔女が死んだら、なぜか可愛いお姫様に転生していた。

夜のトラフグ

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『『魔女を殺せ! 魔女を殺せ!』』


 外には怒号が響いていた。戦士に貫かれた胸と、肩から血がドクドクと流れている。それを、私はたっぷりと時間をかけて、気休め程度に治していく。

 もはや、魔力も体力も運も尽きた。

 ボロボロになった壁に身体をもたせ掛ける。傍にある暖炉に隠された奥の通路からは、焦げ臭い煙の臭いがする。火を付けられたのだ。この部屋までまわってくるのも、時間の問題だろう。

「……ここまでね」

 覚悟を決めてしまえば、恐ろしさや怒りの気持ちよりも、諦めが勝ってきた。

 思えば、私も長く生きたものだ。国に仇なす『魔女』と呼ばれて五百年、よくもここまでしぶとく生き長らえられたものだと自分でも思う。

 心残りもない。やりたいことは全てやってきた人生だ、五百年も生きなくとも、普通の人間の人生だけで充分だったような気もする。こう思うのも、長く生きた故かも知れないが。

ーーただ、叶うのならば……。

 魔女はひとりだった。ずっと孤独だった。手に入りそうになっては、かき消え、幻のように思いながら追い掛けてきた幻想。生まれてから必死で、生き抜いていくことに一生懸命で、その感じていたはずの寂しさすら、ついに自覚することもなかったけれど。

(……今度は特別な力など何も持たず、普通の人として人の中で生きていければ、いいわ…)

 力を求めた人生の最期に、こんなことを思う自分が愚かしくて、魔女は「ふふふ…」と少し笑った。自分の力だけを頼り、王も神も信じず、最後まで人の敵であった魔女とも思えない考えだった。

 そのとき、部屋の扉が大きな音を立て、勢いよく開いた。

「ここにいたか、魔女め!」

 乱暴な仕草でドアを蹴飛ばし、男が一人で押し入ってくる。額から血を流しながらも、魔女を蔑むように見つめて目をそらさない。魔女をとうとうここまで追い詰めた、この男も人の身に余る力を持つ者だった。
 彼は剣を構え直した。一目で魔女が弱っていることを見抜き、ここでとどめを刺すつもりなのだろう。

「うふふ……たったひとりでここまで乗り込んでくるなんて、正気かしら?」

 人を唆すような魔女の声にも、動揺せず、男は冷たい目で魔女を見ていた。
 
「仲間たちは皆、おまえが殺した……。これで終わらせるのだ」
「そう……。魔女の呪いを、一身に受けるわよ」
「望むところだ」

 男に揺らぎは無かった。それで魔女は、全てを悟った。笑みを浮かべた顔をそのままに、わざと無防備に喉元をさらけ出す。

「ほら、ここを切れば終わり……。魔女にも赤い血が流れているのよ。知ってた?」
「もとは人間だったのだろう。そんなことは関係ない」
「そう、残念だわ…」

 魔女は最期まで笑っていた。それが魔女としての矜持だった。

 そして無慈悲に、剣は振り下ろされた。

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