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閑話2 好きな季節
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オデット姫の見合い相手、ジークフリートは憂鬱だった。それというのも、これから見合いをするオデット姫が、自分にとって明らかに不釣り合いだと感じているせいだった。
お見合い相手の姫さまは、陛下にこの話をされて二つ返事で了承したと父上から聞いた。それは、相手がどんな人間だろうと構わないという覚悟を決めているということだ。もともとオデット姫といえば神童と評判になるほど頭が良くて、性格も優しく穏やかだと聞く。
僕より二つも年下とは思えない。
まだ幼いのに、なんて立派な方なんだろう。
ジークフリートは、こんな人と向き合える人間では到底無い。
そのことがとても、気が重かった。
##
「初めまして。第八代ヴァンシュタイン国王が王女、オデットと申します」
実際に会ってみたオデット姫は、噂通りの美少女だった。傍目に見合いにしては地味な格好をしているような気もしたが、しゃんと背を伸ばし真っ直ぐに相手を見上げていて、その姿に思わず気後れするほどだった。
「は、はい。私はロメ辺境伯の次男、ジークフリート・ロメです」
「お目にかかれて嬉しいですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちら、こそ……。」
完璧なカーテシーとともにニッコリ笑うオデット姫。そんな姿に、ジークフリートはタジタジだった。
付き添いの大人たちが軽く雑談をしたところで、早速とばかりに「庭を案内して差し上げなさい」とオデット姫とジークフリートは二人きりにされた。何を話せばいいのかも分からず無言で歩くジークフリートに、オデット姫は口を開いた。
「…秋の庭ですので、春より落ち着いた雰囲気がすてきですわね。ジークフリートさまは、春と秋ならどちらがお好きでしょうか」
「え? えっと……」
何て答えれば良いんだろう。姫さまは秋の庭を褒めたから、そちらが好きなのかな。話を合わせた方が良いだろうか。
迷ったジークフリートは、結局思ったままを答えることにした。
「……秋です。花のことはよく知らないのですが、葉っぱが黄色くなって落ちていくのが面白いと思います。それに秋は、収穫された美味しいものがたくさん食べられるので…」
そう言って、せっかく姫さまが庭の話をしてくれていたのに食べ物のことを言ってしまった、と早速後悔した。
しかし、オデット姫は優しくニッコリ笑った。
「そうですわね。私も、景色が変わるのを見るのは好きですわ。それに実りの秋がなければ、人も動物も生きてゆけませんものね」
年下であるのに、包み込むような肯定にジークフリートは思わずうっとりとなった。しかし、今度こそきちんと会話を広げなければ、という思いから慌てて口を開いた。
「あの…、」
「はい」
「ひ、姫さまはいつの季節がお好きなんですか!?」
急に大きな声を出したため、驚かせてしまった。しかし、オデット姫はジークフリートのそんな失敗にも優しく笑ってくれた。
「私は、冬かしら」
「え。冬ですか」
オデット姫が冬と答えたのは意外だった。可憐で優しく賢い彼女には、とりどりの花が咲き乱れる春や日が長くたくさん活動できる夏、豊かに過ごせる秋などが似合っていると思ったからだ。
「私が生まれたのが、冬だったからかしら。朝の空気の冷たさやたまに降る雪、凍った水や葉のなくなった木の枝などが、無性に愛おしく感じますの」
「…そうなのですか」
「ふふ、でも厳しい冬の寒さや飢えに苦しんでいる人のことを思えば、私がこんなことを言うのは不謹慎かしら」
憂いを含んだ顔で、オデット姫はそう言った。思わずジークフリートは彼女の手をとった。
「――いえ! そのようなことはありません。姫さまの感じる世界も、その、とても素敵なものだと思います…!」
「まあ」
ジークフリートの拙い言葉に、オデット姫は軽く驚いたあと、はにかむように笑った。
「ありがとうございます」
その笑顔は、思わず目を逸らしてしまったほど綺麗だった。
このとき確かに、ジークフリートはオデット姫に恋をしたのだ。
お見合い相手の姫さまは、陛下にこの話をされて二つ返事で了承したと父上から聞いた。それは、相手がどんな人間だろうと構わないという覚悟を決めているということだ。もともとオデット姫といえば神童と評判になるほど頭が良くて、性格も優しく穏やかだと聞く。
僕より二つも年下とは思えない。
まだ幼いのに、なんて立派な方なんだろう。
ジークフリートは、こんな人と向き合える人間では到底無い。
そのことがとても、気が重かった。
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「初めまして。第八代ヴァンシュタイン国王が王女、オデットと申します」
実際に会ってみたオデット姫は、噂通りの美少女だった。傍目に見合いにしては地味な格好をしているような気もしたが、しゃんと背を伸ばし真っ直ぐに相手を見上げていて、その姿に思わず気後れするほどだった。
「は、はい。私はロメ辺境伯の次男、ジークフリート・ロメです」
「お目にかかれて嬉しいですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちら、こそ……。」
完璧なカーテシーとともにニッコリ笑うオデット姫。そんな姿に、ジークフリートはタジタジだった。
付き添いの大人たちが軽く雑談をしたところで、早速とばかりに「庭を案内して差し上げなさい」とオデット姫とジークフリートは二人きりにされた。何を話せばいいのかも分からず無言で歩くジークフリートに、オデット姫は口を開いた。
「…秋の庭ですので、春より落ち着いた雰囲気がすてきですわね。ジークフリートさまは、春と秋ならどちらがお好きでしょうか」
「え? えっと……」
何て答えれば良いんだろう。姫さまは秋の庭を褒めたから、そちらが好きなのかな。話を合わせた方が良いだろうか。
迷ったジークフリートは、結局思ったままを答えることにした。
「……秋です。花のことはよく知らないのですが、葉っぱが黄色くなって落ちていくのが面白いと思います。それに秋は、収穫された美味しいものがたくさん食べられるので…」
そう言って、せっかく姫さまが庭の話をしてくれていたのに食べ物のことを言ってしまった、と早速後悔した。
しかし、オデット姫は優しくニッコリ笑った。
「そうですわね。私も、景色が変わるのを見るのは好きですわ。それに実りの秋がなければ、人も動物も生きてゆけませんものね」
年下であるのに、包み込むような肯定にジークフリートは思わずうっとりとなった。しかし、今度こそきちんと会話を広げなければ、という思いから慌てて口を開いた。
「あの…、」
「はい」
「ひ、姫さまはいつの季節がお好きなんですか!?」
急に大きな声を出したため、驚かせてしまった。しかし、オデット姫はジークフリートのそんな失敗にも優しく笑ってくれた。
「私は、冬かしら」
「え。冬ですか」
オデット姫が冬と答えたのは意外だった。可憐で優しく賢い彼女には、とりどりの花が咲き乱れる春や日が長くたくさん活動できる夏、豊かに過ごせる秋などが似合っていると思ったからだ。
「私が生まれたのが、冬だったからかしら。朝の空気の冷たさやたまに降る雪、凍った水や葉のなくなった木の枝などが、無性に愛おしく感じますの」
「…そうなのですか」
「ふふ、でも厳しい冬の寒さや飢えに苦しんでいる人のことを思えば、私がこんなことを言うのは不謹慎かしら」
憂いを含んだ顔で、オデット姫はそう言った。思わずジークフリートは彼女の手をとった。
「――いえ! そのようなことはありません。姫さまの感じる世界も、その、とても素敵なものだと思います…!」
「まあ」
ジークフリートの拙い言葉に、オデット姫は軽く驚いたあと、はにかむように笑った。
「ありがとうございます」
その笑顔は、思わず目を逸らしてしまったほど綺麗だった。
このとき確かに、ジークフリートはオデット姫に恋をしたのだ。
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