傾国の魔女が殺されたら、可愛いお姫様に転生した。

夜のトラフグ

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本編

16 活気ある城下町

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「………ッ、ふっ…くくく…」
「エウト。いっそ、思い切り笑ったらどう?」
「ふっ、あはははははは…!」

 腹を抱えて笑い転げるのは、オデットと同じく騎士の制服を着て用意していたエウト。そんな彼をじと、とオデットは面白くなさそうに睨みつける。

「……笑いすぎよ」
「だっ、だって……似合いすぎだよ! 凄いよオデッ……エド!」
「……」
「何で、そんなに似合うんだよ…!」

 嫌そうにしても構うことなく、エウトは男装したオデットの姿を見て爆笑した。

 普段も分厚い眼鏡を外せば、王国唯一の姫として恥ずかしくない可憐な美少女だが、最近になって背が伸びたオデットが騎士のシュッとした制服を着込み、流れるような金髪を一つに束ねると、お伽噺の王子さまのような男装の麗人となった。乙女の憧れそのものだ。

「くっ、くく……いやぁ、これはこれは。身分がバレることは無いと思うけど、少年好きの変態に拐かされないよう気を付けないとね」
「遺憾だわ」
「エド、口調を気を付けろ」
「……」

 自身も騎士の服に着替えて現れたイヴォの指摘に、オデットは黙り込む。そんなオデットの顔をじっと見つめて、イヴォは口を開いた。

「眼鏡はなくても大丈夫か? だが、そのままだと往来で目立ちそうだな」
「……が普段使用しているものを身に付けるわけにもいかないだろう。これで結構」

 口調を変えたオデットがそう答える。実のところ、視界はぼやけているが形や色でものの判別はできる。

「よし、なら行くか。エド、行きたいところはあるか?」

 そう聞かれたが、急なことでオデットはこれといって思い付かない。そもそも城下のことなど、たまに周りの使用人や兵士たちから噂程度に聞くくらいしか知らない。

「任せる。警護の都合もあるだろうから」

 その言葉に、イヴォは眉をピクリと動かす。

「そういうことは気にしなくて良い。今は、ただの新人騎士なんだからな」
「……」

 そんなわけにもいかないだろう、とオデットは思った。しかし言わんとすることはわかった。彼はこの一日、オデットに王族ではないただの人として過ごして欲しいのだろう。
 しばらく考えたあと、オデットは短く答えた。

「……では露店の並ぶ大通りと、古書店に」
「わかった」

##

 王国は十二年前まで戦争をしていた。言わずもがな、オデットの前世「魔女」との戦いである。そして、彼女の圧倒的かつ執拗な攻撃によって致命的な打撃を受けたのが、物流だ。
 魔女は時間や空間といった制約を受けることなく、いつどこを攻撃することもできる。そのため国の主要都市はあっという間に戦禍にさらされ、他国との貿易も停止。王国は流通の速度・量・質の全てに致命的な打撃を受けることとなった。それは、兵士たちの尽力によって直接の攻撃を免れた王都も同じこと。

 つまり何を言いたいのかと言えば、王都の物流は戦争から十二年の時を経て、いま絶好の上り調子にあるということだ。
 食べ物も衣服も何もかもの生活に必要なものが足りていない時代から、着飾って満足にものを食べられる時代へ。昼間の商店は活気で溢れ返り、人々の表情は希望に満ちていて、明日がどんどん豊かで便利に変わっていっている実感があった。

「随分モノが高い」
「そのぶん、この辺りはいいものが揃ってるよ」

 呟いたオデットの言葉に、ときどき騎士たちに交じって城下を歩いているらしいエウトが小声で説明した。
 食糧・布・炭などの生活必需品から、装飾品や筆記具、彫刻やら様々なものの店が並ぶ大通りを、三人はゆったりと歩いていく。目新しいものが多く、見ているだけで楽しむことができる。商品を売ろうとする人々の呼び込みの声、道の端で笑い合う女性たちの話し声やその傍を動き回る子供のはしゃぐ声。それらを、オデットはどこか遠くに感じながら聞いていた。
 ふと、目の隅に丸くて白い、モコモコしたものが映った。よく見るとそれは、緻密に編まれた白ネコの編みぐるみのようだった。思わず足を止める。

「いらっしゃいませ!」

 そのとき、元気の良い少女の声が聞こえた。
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