傾国の魔女が殺されたら、可愛いお姫様に転生した。

夜のトラフグ

文字の大きさ
20 / 61
本編

閑話4 呪われた男

しおりを挟む
 ロメ家の次男ジークフリートは呪われている。このことは、言わずともこの屋敷にいる人間全員が知っている事実だ。

 始まりは誕生から。ジークフリートが生まれて初めて産声を上げた瞬間、ジークフリートの母親は命を落とした。たくさんの血を流し、眠るように死んでいったと聞いた。
 母を愛していた父や兄、家の使用人たちはとても悲しんだ。しかし彼らはみんな優しい人たちばかりだったので、責めるようなこともせず生まれてきたを喜び、目いっぱい愛してくれた。

 そのことを嬉しく、ありがたく思う。
 しかし、同時にこうも思うのだ。

 こんな私が生きていても良いのだろうかと。

 ジークフリートに関わる人はみな不幸になった。生母は死に、育ててくれた叔母は小さい子供を次々と亡くした。兄は十二年前に事故で目が見えなくなったし、父も戦争に行って治ることのない心の傷を負ってきた。
 極めつけに、よくしてくれた使用人にも次々と不幸が襲ったとき、ジークフリートは自分の存在の罪深さにようやく気付いた。

 そしてその頃から、頭の中での声が聞こえるようになった。


##


『なあ、人でなしの、人間のくずの ジーク』

 一人でいると、他の誰にも聞こえない声が喋りかけてくる。
 無視をしても延々と話し、答えればじくじくと心の傷を抉るように言葉を紡いでくる。

『おまえ、人以下の分際で、婚約者の女を好きになったんだろ?』

(……違う)

『くだらねぇ嘘つくなよ、ジーク。オレにはわかるんだ。優しくされて褒められて、いい気になってるだろ? 柄にもなく浮かれてたろう?』

(ち、違う!)

『認めろよ、おまえは身分違いの女に義理と憐れみで親切にされて、それで好きになったどうしようもない男だ。わかってるだろ? 相手はお前のことなんて嫌いだ。そんな男と婚約させられて、可哀想に本心では会って話すのもうんざりだろうよ。だっておまえは喋るのも苦手、頭も悪い。唯一マシな剣技だって所詮、人を傷つけるための特技だ。それを人前で得意げにふるって、何がしたかった?』

 悪魔の声は低く妖しくも魅力的で、人を誑かすためのものだった。

(……ちが、得意げなんかじゃ…!)

『当ててやるよ。おまえは、オデット姫に想われたかったんだろ?』

 かっ、とジークフリートの頬が紅く染まる。

(――違う!違う!
 黙れよ、!)

 ジークフリートは婚約者の少女を思い浮かべる。

 三年の時間を過ごした。決して通じ合っているとは言えない仲だけれども、思い出はジークフリートにとって幸福な宝物だった。
 あの方を人として尊敬している。素晴らしい方だと思っている。それは確かだ。
 ……でも、それ以上の気持ちは許されない。持っているなどと、決して認めてはいけない。

 これは分不相応な契約だから。
 いずれ、なくなってしまうかもしれない縁だから。

 いや違う。全て言い訳だ。

 もしあの方を心から好きになって、それを自覚したとき、同じ想いを返して貰えないのが、辛い。結局、そこなのだ。
 相手を想うようでいて、抱えているのは歪みきった利己的な自己愛。独りよがり。考えるたびに自分が嫌になる。

(……せめて、私は)

 姫さまにとって、何でもない存在でありたい。ちっぽけな虫や塵のように、意識の表層に上ることもなくただこの世に存在し、知らぬ間にどこかへ消えていく。影響も迷惑もなく、無害で、関係の無いものとして、姫さまの傍に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。 そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。 そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。 ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。 いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

処理中です...