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本編
閑話4 呪われた男
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ロメ家の次男ジークフリートは呪われている。このことは、言わずともこの屋敷にいる人間全員が知っている事実だ。
始まりは誕生から。ジークフリートが生まれて初めて産声を上げた瞬間、ジークフリートの母親は命を落とした。たくさんの血を流し、眠るように死んでいったと聞いた。
母を愛していた父や兄、家の使用人たちはとても悲しんだ。しかし彼らはみんな優しい人たちばかりだったので、責めるようなこともせず生まれてきた私を喜び、目いっぱい愛してくれた。
そのことを嬉しく、ありがたく思う。
しかし、同時にこうも思うのだ。
こんな私が生きていても良いのだろうかと。
ジークフリートに関わる人はみな不幸になった。生母は死に、育ててくれた叔母は小さい子供を次々と亡くした。兄は十二年前に事故で目が見えなくなったし、父も戦争に行って治ることのない心の傷を負ってきた。
極めつけに、よくしてくれた使用人にも次々と不幸が襲ったとき、ジークフリートは自分の存在の罪深さにようやく気付いた。
そしてその頃から、頭の中で悪魔の声が聞こえるようになった。
##
『なあ、人でなしの、人間のくずの ジーク』
一人でいると、他の誰にも聞こえない声が喋りかけてくる。
無視をしても延々と話し、答えればじくじくと心の傷を抉るように言葉を紡いでくる。
『おまえ、人以下の分際で、婚約者の女を好きになったんだろ?』
(……違う)
『くだらねぇ嘘つくなよ、ジーク。オレにはわかるんだ。優しくされて褒められて、いい気になってるだろ? 柄にもなく浮かれてたろう?』
(ち、違う!)
『認めろよ、おまえは身分違いの女に義理と憐れみで親切にされて、それで好きになったどうしようもない男だ。わかってるだろ? 相手はお前のことなんて嫌いだ。そんな男と婚約させられて、可哀想に本心では会って話すのもうんざりだろうよ。だっておまえは喋るのも苦手、頭も悪い。唯一マシな剣技だって所詮、人を傷つけるための特技だ。それを人前で得意げにふるって、何がしたかった?』
悪魔の声は低く妖しくも魅力的で、人を誑かすためのものだった。
(……ちが、得意げなんかじゃ…!)
『当ててやるよ。おまえは、オデット姫に想われたかったんだろ?』
かっ、とジークフリートの頬が紅く染まる。
(――違う!違う!
黙れよ、ロットバルト!)
ジークフリートは婚約者の少女を思い浮かべる。
三年の時間を過ごした。決して通じ合っているとは言えない仲だけれども、思い出はジークフリートにとって幸福な宝物だった。
あの方を人として尊敬している。素晴らしい方だと思っている。それは確かだ。
……でも、それ以上の気持ちは許されない。持っているなどと、決して認めてはいけない。
これは分不相応な契約だから。
いずれ、なくなってしまうかもしれない縁だから。
いや違う。全て言い訳だ。
もしあの方を心から好きになって、それを自覚したとき、同じ想いを返して貰えないのが、辛い。結局、そこなのだ。
相手を想うようでいて、抱えているのは歪みきった利己的な自己愛。独りよがり。考えるたびに自分が嫌になる。
(……せめて、私は)
姫さまにとって、何でもない存在でありたい。ちっぽけな虫や塵のように、意識の表層に上ることもなくただこの世に存在し、知らぬ間にどこかへ消えていく。影響も迷惑もなく、無害で、関係の無いものとして、姫さまの傍に。
始まりは誕生から。ジークフリートが生まれて初めて産声を上げた瞬間、ジークフリートの母親は命を落とした。たくさんの血を流し、眠るように死んでいったと聞いた。
母を愛していた父や兄、家の使用人たちはとても悲しんだ。しかし彼らはみんな優しい人たちばかりだったので、責めるようなこともせず生まれてきた私を喜び、目いっぱい愛してくれた。
そのことを嬉しく、ありがたく思う。
しかし、同時にこうも思うのだ。
こんな私が生きていても良いのだろうかと。
ジークフリートに関わる人はみな不幸になった。生母は死に、育ててくれた叔母は小さい子供を次々と亡くした。兄は十二年前に事故で目が見えなくなったし、父も戦争に行って治ることのない心の傷を負ってきた。
極めつけに、よくしてくれた使用人にも次々と不幸が襲ったとき、ジークフリートは自分の存在の罪深さにようやく気付いた。
そしてその頃から、頭の中で悪魔の声が聞こえるようになった。
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『なあ、人でなしの、人間のくずの ジーク』
一人でいると、他の誰にも聞こえない声が喋りかけてくる。
無視をしても延々と話し、答えればじくじくと心の傷を抉るように言葉を紡いでくる。
『おまえ、人以下の分際で、婚約者の女を好きになったんだろ?』
(……違う)
『くだらねぇ嘘つくなよ、ジーク。オレにはわかるんだ。優しくされて褒められて、いい気になってるだろ? 柄にもなく浮かれてたろう?』
(ち、違う!)
『認めろよ、おまえは身分違いの女に義理と憐れみで親切にされて、それで好きになったどうしようもない男だ。わかってるだろ? 相手はお前のことなんて嫌いだ。そんな男と婚約させられて、可哀想に本心では会って話すのもうんざりだろうよ。だっておまえは喋るのも苦手、頭も悪い。唯一マシな剣技だって所詮、人を傷つけるための特技だ。それを人前で得意げにふるって、何がしたかった?』
悪魔の声は低く妖しくも魅力的で、人を誑かすためのものだった。
(……ちが、得意げなんかじゃ…!)
『当ててやるよ。おまえは、オデット姫に想われたかったんだろ?』
かっ、とジークフリートの頬が紅く染まる。
(――違う!違う!
黙れよ、ロットバルト!)
ジークフリートは婚約者の少女を思い浮かべる。
三年の時間を過ごした。決して通じ合っているとは言えない仲だけれども、思い出はジークフリートにとって幸福な宝物だった。
あの方を人として尊敬している。素晴らしい方だと思っている。それは確かだ。
……でも、それ以上の気持ちは許されない。持っているなどと、決して認めてはいけない。
これは分不相応な契約だから。
いずれ、なくなってしまうかもしれない縁だから。
いや違う。全て言い訳だ。
もしあの方を心から好きになって、それを自覚したとき、同じ想いを返して貰えないのが、辛い。結局、そこなのだ。
相手を想うようでいて、抱えているのは歪みきった利己的な自己愛。独りよがり。考えるたびに自分が嫌になる。
(……せめて、私は)
姫さまにとって、何でもない存在でありたい。ちっぽけな虫や塵のように、意識の表層に上ることもなくただこの世に存在し、知らぬ間にどこかへ消えていく。影響も迷惑もなく、無害で、関係の無いものとして、姫さまの傍に。
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