傾国の魔女が殺されたら、可愛いお姫様に転生した。

夜のトラフグ

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本編

閑話7 魔女の孫 上

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 神官長ヨーランは奇特な人間である。

 神の道に入った二十代の頃から、粗食に耐え自らを律して欲は持たず、どんな人間にも優しく公平に接して、たとえ心に思うことがあっても口には出さず静かに笑っている。神の信徒として相応しい人格者であった。

 そんな彼にも欠点…、いや秘密はある。

 それは神官でありながら魔に魅せられ、悪魔を信仰していること。そして自国を滅ぼしかけた魔女を恩人と崇め、人知れず助力していることだ。
 もしも教会内部に知られれば、免職クビでは済まされない。最悪、異端審問にかけられて火炙りとなるだろう。

 それでも、信仰も恩返しも止めることはできない。その理由は彼の出生の秘密にある。

 ヨーランの祖母は、かつて「災害」と呼ばれた日照りの魔女だった。彼女は天候を自在に操り、気の赴くままに田畑や川を涸らしたり、逆に大雨や台風を起こしたりしたという。
 魔女には気紛れで人の苦しみを見るのに生き甲斐を感じるという性質があり、国一つが魔女の魔法によって飢餓や干ばつなどの被害を受けた。

 しかし、度し難いのは結局ただの人間である。神官であるヨーランは、よくそのことを知っている。魔女はそんな人間の心を上手く利用しているだけだ。

 遊ぶように国を壊す魔女を見た冬の国は、魔女をことを思い付いた。贅沢を教えて人を傅かせる楽しみを覚えさせ、代わりに戦争や農業の道具として魔女を使った。

 魔女の力は圧倒的だ。周りのどこの国も、魔女のいる冬の国に逆らうことができなくなった。
 そして、魔女が飼われる以前の何十倍という数を殺した頃、国の内部では大きな問題が起こっていた。魔女や中枢の人間による奢侈である。国の財政はみるみるうちに悪化し、やがて魔女を満足させるだけの対価を払うことができなくなった。

 その頃の魔女は、持て余した暇と時間で不老不死の魔法を研究していた。
 魔女にかかれば百年や二百年の時を生きることは容易いらしいが、それでも全く姿を変えないまま永遠を、というのは難しい。そこで考え出されたのが、を産み落とし育て、身体を奪い乗り移っていくことだった。

 そのために生み出された無数の未完成な分身に、魔女は洗脳の呪いをかけた。そしてそれを味方の冬の国と敵であった春の国の両軍に捨て値で売り飛ばしばら撒いたのだ。両国は競い合うようにして魔女の分体を買い集め、戦争の火蓋は切って落とされた。
 そうして始まった二十年にも及ぶ長い長い戦争は、結局冬の国で起きた民衆の反乱という形で終わった。そして混乱のさなか、王族たちは相次いで死に、寄る辺を失った魔女も「傾国の魔女」によって人知れず討たれた。

 あのときのことを一生忘れない。傾国の魔女オディールさまは、祖母によって洗脳されたわたしの前に一度現れたのだ。

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