40 / 61
本編
29 見合いの勧め
しおりを挟む
「エウト。少しいいかしら」
学園が休みの日、いつものように私室で寛いで本を読んでいたところへ現れたエウトに、オデットは言った。
「あなた、お見合いをしたらどう?」
「ええ? 何、急に」
「あのね、全く気にしてなかった私も悪かったけれど。もう私たちは十六になるというのに、気安く部屋を出入りするのはどうかと思うのよ」
そう言っても、エウトは気にした様子はなかった。オデットの私室のデッキでオデットの向かいに座り、悠々と紅茶を飲んでいる。
「――社交界でも噂になっているそうよ」
「ああ、それねえ。随分前からだよ。オデットは情報が遅いからなー」
全く気にした様子もなく、のんびりと答えるエウト。この男の不始末で今後もあんな面倒に度々巻き込まれるのかと思うと腹立たしかったが、努めて冷静にと言葉を続けた。
「せめて、お互いに相手がいれば妙な勘繰りもされなくなるでしょう。誰でもいいから婚約者をひとりふたり、見繕って来なさい」
「二人はダメでしょ。それに相手がいたって、邪推するやつはすると思うけど」
そう言ったエウトはテーブルにあった菓子をぱくりとつまみ、そのまま身体を背もたれに預けた。
「見合いねぇ……」
どうやら気が進まないらしい。
きっとエウトは、もとから婚約したい相手がいるなら、既に外堀を埋めて婚約しているような人間だろう。適当な断り文句といい、気が進まないことは分かっていた。
そう言えば兄のイヴォも既に学園を卒業して跡継ぎになるための修行に入ったのに、女の影のひとつもない。
「このままじゃ、私と禁断の恋をしてるって噂が浸透してしまうわ」
「はははっ。いっそ、する? 駆け落ちとか」
「まさか」
オデットは鼻で笑った。
前世を含めても、恋の経験などない。オデットが見てきたのは相手を屈伏させたいとか支配したいとかいう身勝手な欲ばかりで、甘く愛し愛される感情なんてとんと知らない。
それでもわかる。エウトはオデットに恋愛感情なんて持ってない。
だからこそオデットは性別の違うこの幼馴染みに、何でも話すことができるし全幅の信頼を寄せているのだ。
「……まあ、気が向いたら言ってちょうだい。好きな人がいるなら、相手が誰だろうと私は気にしないし、出来る範囲で協力してあげる」
「太っ腹だね」
そう言うエウトは、どこか力無く笑っていた。そして、「冷えてきたわ」と話は終わったとばかりに立ち去るオデットの背中に、エウトは心の中だけで答えた。
(ありがとう、オデット。でもね、おれの恋は一生叶うことはない。それで良いおれ自身がそう思っているんだよ……)
学園が休みの日、いつものように私室で寛いで本を読んでいたところへ現れたエウトに、オデットは言った。
「あなた、お見合いをしたらどう?」
「ええ? 何、急に」
「あのね、全く気にしてなかった私も悪かったけれど。もう私たちは十六になるというのに、気安く部屋を出入りするのはどうかと思うのよ」
そう言っても、エウトは気にした様子はなかった。オデットの私室のデッキでオデットの向かいに座り、悠々と紅茶を飲んでいる。
「――社交界でも噂になっているそうよ」
「ああ、それねえ。随分前からだよ。オデットは情報が遅いからなー」
全く気にした様子もなく、のんびりと答えるエウト。この男の不始末で今後もあんな面倒に度々巻き込まれるのかと思うと腹立たしかったが、努めて冷静にと言葉を続けた。
「せめて、お互いに相手がいれば妙な勘繰りもされなくなるでしょう。誰でもいいから婚約者をひとりふたり、見繕って来なさい」
「二人はダメでしょ。それに相手がいたって、邪推するやつはすると思うけど」
そう言ったエウトはテーブルにあった菓子をぱくりとつまみ、そのまま身体を背もたれに預けた。
「見合いねぇ……」
どうやら気が進まないらしい。
きっとエウトは、もとから婚約したい相手がいるなら、既に外堀を埋めて婚約しているような人間だろう。適当な断り文句といい、気が進まないことは分かっていた。
そう言えば兄のイヴォも既に学園を卒業して跡継ぎになるための修行に入ったのに、女の影のひとつもない。
「このままじゃ、私と禁断の恋をしてるって噂が浸透してしまうわ」
「はははっ。いっそ、する? 駆け落ちとか」
「まさか」
オデットは鼻で笑った。
前世を含めても、恋の経験などない。オデットが見てきたのは相手を屈伏させたいとか支配したいとかいう身勝手な欲ばかりで、甘く愛し愛される感情なんてとんと知らない。
それでもわかる。エウトはオデットに恋愛感情なんて持ってない。
だからこそオデットは性別の違うこの幼馴染みに、何でも話すことができるし全幅の信頼を寄せているのだ。
「……まあ、気が向いたら言ってちょうだい。好きな人がいるなら、相手が誰だろうと私は気にしないし、出来る範囲で協力してあげる」
「太っ腹だね」
そう言うエウトは、どこか力無く笑っていた。そして、「冷えてきたわ」と話は終わったとばかりに立ち去るオデットの背中に、エウトは心の中だけで答えた。
(ありがとう、オデット。でもね、おれの恋は一生叶うことはない。それで良いおれ自身がそう思っているんだよ……)
14
あなたにおすすめの小説
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。
石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。
そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。
そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。
ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。
いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる