傾国の魔女が殺されたら、可愛いお姫様に転生した。

夜のトラフグ

文字の大きさ
59 / 61
本編

45 エピローグ 上

しおりを挟む
「ねぇ、この髪型変じゃない? 崩れてこないかしら」

 そう言って鏡とにらめっこするオデットに、遠くから眺めていたエウトが溜め息をつきながら答える。

「……いいんじゃない? 取り敢えずその眼鏡さえ外せば」
「これを外したら何も見えないわよ」
「その瓶底メガネだと、完璧に着飾っても台無し。せっかくの式典なんだからさ」

 そう言われて、オデットはしぶしぶ眼鏡を外した。

「――でも、時間が経つのは早いわね。もうユージーンが立太子するなんて」
「十六歳か……。無事に大きくなられて何よりだよ」

 生まれたときから知っている弟王子の成人に、オデットとエウトはしんみりとした気分になった。

「学園にも通われるんだろう? 随分忙しくなるけど、大丈夫かな」
「あの子、要領だけはいいから。その辺は周りも心配してないでしょうけど……」

 一緒に付き合うことになる、婚約者でお目付け役のカイラが心配だ。心労で倒れやしないだろうか。

「学園か、懐かしいね……。卒業したのは五年前なのに、もっと昔に思えるよ」
「色々あったからかしら。変わらないのはあなたの軽口くらいね」
「オデット、変わらないのって場合によってはすごく貴重なことなんだよ?」
「はいはい、感謝しているわ」

 卒業後、オデットは王族としての公務に励む傍ら、自身の予算で複数の財団を立ち上げ運営を行っていた。目的は主に戦傷病者の支援や援護、また戦争で家族を亡くした子供の養育などである。
 開始にあたって、「まだ、戦争の傷が癒えない方々のため、できる限りのことを」と演説で語ったオデット姫に人々は感動の涙をはらはらと流していた。

 そのときのことを思い出しながら、オデットはまたこれまで何度か尋ねてきたことをエウトに聞いた。

「……あのね。あなたも、やりたいことができたら無理に手伝うことはないのよ?」

 オデットがこの活動をやると言ったとき、エウトは二つ返事で了承し、その後もずっと右腕として働いてきてくれた。
 そのことをありがたく思う反面、乳姉弟としての生き方を縛ってしまっているようなことが気に掛かっていた。しかし、エウトは楽しげに笑った。

「わかってるよ。おれはやりたくてオデットを支えてるんだから」
「…そう」
「あ、でも言っておくけど純粋な忠誠心だからね。あと、オデットといれば死ぬことも食いっぱぐれることもないかなって打算」
「……後半が本心なんじゃないの?」

 鏡越しに睨むと、エウトは肩をすくめた。

「ははっ。でもねえ、最近はユージーンさまからも書記官として来てくれないかって打診貰ってるんだよね。まあ、こっちが心配なうちは行かないけど」
「はいはい、じゃあ近い別れを覚悟しておくわ」

 そのとき、扉が軽くノックされた。

「はい?」
「オデットさん! 支度は終わりましたか!?」
「ナターシャさん。あと少しよ」

 ナターシャは卒業後、神力持ちとして教会に入った。神官長の下で直に神力を磨きながら働いているらしい。ちなみに神官長も、年はとったが相変わらず元気で食わせ者だ。仕事の関係で、オデットたちは二人ともよく顔を合わせる。今日は、神官長の代理でやって来たらしい。

「早く行きましょう! こんな大きな式典は初めてで、すごくわくわくします!」
「始まってしまえばきっと退屈よ。でもそうね、一生に一度のことだものね」

 差し出されたナターシャの手を取り、オデットは立ち上がる。まるでエスコートされているみたいだ、と頭の片隅で思った。

「オデットさん、衣装もメイクもとても素敵です」
「ありがとう。あなたもその修道服、似合っているわ」

 ナターシャが着ると、修道女というより女神や天使のようだとオデットは思った。

「えへへ、真っ白なので汚さないよう気を付けるのが大変で…」
「食事のときはハンカチをかけるといいわ。ほら、これ使って」
「――はいはい、二人とも。そろそろ時間だから」

 エウトが途中で、呼びに来た使用人の方を指して言った。

「二人でイチャついてると気まずいから」
「ええっ! そ、そんなことは……」
「知らないわ、そんなの。でも確かにもうそろそろね」

 行きましょうか、とオデットが声を掛ける。そのまま三人は式典の会場へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。 そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。 そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。 ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。 いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

処理中です...