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本編
45 エピローグ 上
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「ねぇ、この髪型変じゃない? 崩れてこないかしら」
そう言って鏡とにらめっこするオデットに、遠くから眺めていたエウトが溜め息をつきながら答える。
「……いいんじゃない? 取り敢えずその眼鏡さえ外せば」
「これを外したら何も見えないわよ」
「その瓶底メガネだと、完璧に着飾っても台無し。せっかくの式典なんだからさ」
そう言われて、オデットはしぶしぶ眼鏡を外した。
「――でも、時間が経つのは早いわね。もうユージーンが立太子するなんて」
「十六歳か……。無事に大きくなられて何よりだよ」
生まれたときから知っている弟王子の成人に、オデットとエウトはしんみりとした気分になった。
「学園にも通われるんだろう? 随分忙しくなるけど、大丈夫かな」
「あの子、要領だけはいいから。その辺は周りも心配してないでしょうけど……」
一緒に付き合うことになる、婚約者でお目付け役のカイラが心配だ。心労で倒れやしないだろうか。
「学園か、懐かしいね……。卒業したのは五年前なのに、もっと昔に思えるよ」
「色々あったからかしら。変わらないのはあなたの軽口くらいね」
「オデット、変わらないのって場合によってはすごく貴重なことなんだよ?」
「はいはい、感謝しているわ」
卒業後、オデットは王族としての公務に励む傍ら、自身の予算で複数の財団を立ち上げ運営を行っていた。目的は主に戦傷病者の支援や援護、また戦争で家族を亡くした子供の養育などである。
開始にあたって、「まだ、戦争の傷が癒えない方々のため、できる限りのことを」と演説で語ったオデット姫に人々は感動の涙をはらはらと流していた。
そのときのことを思い出しながら、オデットはまたこれまで何度か尋ねてきたことをエウトに聞いた。
「……あのね。あなたも、やりたいことができたら無理に手伝うことはないのよ?」
オデットがこの活動をやると言ったとき、エウトは二つ返事で了承し、その後もずっと右腕として働いてきてくれた。
そのことをありがたく思う反面、乳姉弟としての生き方を縛ってしまっているようなことが気に掛かっていた。しかし、エウトは楽しげに笑った。
「わかってるよ。おれはやりたくてオデットを支えてるんだから」
「…そう」
「あ、でも言っておくけど純粋な忠誠心だからね。あと、オデットといれば死ぬことも食いっぱぐれることもないかなって打算」
「……後半が本心なんじゃないの?」
鏡越しに睨むと、エウトは肩をすくめた。
「ははっ。でもねえ、最近はユージーンさまからも書記官として来てくれないかって打診貰ってるんだよね。まあ、こっちが心配なうちは行かないけど」
「はいはい、じゃあ近い別れを覚悟しておくわ」
そのとき、扉が軽くノックされた。
「はい?」
「オデットさん! 支度は終わりましたか!?」
「ナターシャさん。あと少しよ」
ナターシャは卒業後、神力持ちとして教会に入った。神官長の下で直に神力を磨きながら働いているらしい。ちなみに神官長も、年はとったが相変わらず元気で食わせ者だ。仕事の関係で、オデットたちは二人ともよく顔を合わせる。今日は、神官長の代理でやって来たらしい。
「早く行きましょう! こんな大きな式典は初めてで、すごくわくわくします!」
「始まってしまえばきっと退屈よ。でもそうね、一生に一度のことだものね」
差し出されたナターシャの手を取り、オデットは立ち上がる。まるでエスコートされているみたいだ、と頭の片隅で思った。
「オデットさん、衣装もメイクもとても素敵です」
「ありがとう。あなたもその修道服、似合っているわ」
ナターシャが着ると、修道女というより女神や天使のようだとオデットは思った。
「えへへ、真っ白なので汚さないよう気を付けるのが大変で…」
「食事のときはハンカチをかけるといいわ。ほら、これ使って」
「――はいはい、二人とも。そろそろ時間だから」
エウトが途中で、呼びに来た使用人の方を指して言った。
「二人でイチャついてると気まずいから」
「ええっ! そ、そんなことは……」
「知らないわ、そんなの。でも確かにもうそろそろね」
行きましょうか、とオデットが声を掛ける。そのまま三人は式典の会場へ向かった。
そう言って鏡とにらめっこするオデットに、遠くから眺めていたエウトが溜め息をつきながら答える。
「……いいんじゃない? 取り敢えずその眼鏡さえ外せば」
「これを外したら何も見えないわよ」
「その瓶底メガネだと、完璧に着飾っても台無し。せっかくの式典なんだからさ」
そう言われて、オデットはしぶしぶ眼鏡を外した。
「――でも、時間が経つのは早いわね。もうユージーンが立太子するなんて」
「十六歳か……。無事に大きくなられて何よりだよ」
生まれたときから知っている弟王子の成人に、オデットとエウトはしんみりとした気分になった。
「学園にも通われるんだろう? 随分忙しくなるけど、大丈夫かな」
「あの子、要領だけはいいから。その辺は周りも心配してないでしょうけど……」
一緒に付き合うことになる、婚約者でお目付け役のカイラが心配だ。心労で倒れやしないだろうか。
「学園か、懐かしいね……。卒業したのは五年前なのに、もっと昔に思えるよ」
「色々あったからかしら。変わらないのはあなたの軽口くらいね」
「オデット、変わらないのって場合によってはすごく貴重なことなんだよ?」
「はいはい、感謝しているわ」
卒業後、オデットは王族としての公務に励む傍ら、自身の予算で複数の財団を立ち上げ運営を行っていた。目的は主に戦傷病者の支援や援護、また戦争で家族を亡くした子供の養育などである。
開始にあたって、「まだ、戦争の傷が癒えない方々のため、できる限りのことを」と演説で語ったオデット姫に人々は感動の涙をはらはらと流していた。
そのときのことを思い出しながら、オデットはまたこれまで何度か尋ねてきたことをエウトに聞いた。
「……あのね。あなたも、やりたいことができたら無理に手伝うことはないのよ?」
オデットがこの活動をやると言ったとき、エウトは二つ返事で了承し、その後もずっと右腕として働いてきてくれた。
そのことをありがたく思う反面、乳姉弟としての生き方を縛ってしまっているようなことが気に掛かっていた。しかし、エウトは楽しげに笑った。
「わかってるよ。おれはやりたくてオデットを支えてるんだから」
「…そう」
「あ、でも言っておくけど純粋な忠誠心だからね。あと、オデットといれば死ぬことも食いっぱぐれることもないかなって打算」
「……後半が本心なんじゃないの?」
鏡越しに睨むと、エウトは肩をすくめた。
「ははっ。でもねえ、最近はユージーンさまからも書記官として来てくれないかって打診貰ってるんだよね。まあ、こっちが心配なうちは行かないけど」
「はいはい、じゃあ近い別れを覚悟しておくわ」
そのとき、扉が軽くノックされた。
「はい?」
「オデットさん! 支度は終わりましたか!?」
「ナターシャさん。あと少しよ」
ナターシャは卒業後、神力持ちとして教会に入った。神官長の下で直に神力を磨きながら働いているらしい。ちなみに神官長も、年はとったが相変わらず元気で食わせ者だ。仕事の関係で、オデットたちは二人ともよく顔を合わせる。今日は、神官長の代理でやって来たらしい。
「早く行きましょう! こんな大きな式典は初めてで、すごくわくわくします!」
「始まってしまえばきっと退屈よ。でもそうね、一生に一度のことだものね」
差し出されたナターシャの手を取り、オデットは立ち上がる。まるでエスコートされているみたいだ、と頭の片隅で思った。
「オデットさん、衣装もメイクもとても素敵です」
「ありがとう。あなたもその修道服、似合っているわ」
ナターシャが着ると、修道女というより女神や天使のようだとオデットは思った。
「えへへ、真っ白なので汚さないよう気を付けるのが大変で…」
「食事のときはハンカチをかけるといいわ。ほら、これ使って」
「――はいはい、二人とも。そろそろ時間だから」
エウトが途中で、呼びに来た使用人の方を指して言った。
「二人でイチャついてると気まずいから」
「ええっ! そ、そんなことは……」
「知らないわ、そんなの。でも確かにもうそろそろね」
行きましょうか、とオデットが声を掛ける。そのまま三人は式典の会場へ向かった。
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