溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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回想 ②-3 凌太

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ちょっと短いです。


***************

世界中の人が全員敵に見える。

今まで俺の周りにはたくさんの人がいて、結構ちやほやされていたように思う。
それがあの雑誌の記事によって好意が好奇心に、哀れみが妬みに変わっていった。

それまで味方だった友達も、近所の人達までもが遠巻きにして俺や母親をみて囁いては目を逸らす。

その時にはもう自分家と安藤の家を行き来していたから、彼らの囁きが何を示しているのかもわかっていた。

金魚のフンみたいに付き纏っていた奴らも、遠巻きに眺めるだけになった。

俺自身は何があっても耐えれるが、囁く言葉に母のことを口にする奴らがたくさんいたのが一番腹立たしかった。

母は男オメガで、父とは運命の番だったこともあり、憶測で色々と言われていた。

母も強い人だったが、人の悪意は少しずつ体を蝕んで、心が折れたのをみた父が、母の実家に身を寄せることを提案した。

それがちょうど小学4年の夏休みの頃だった。


母の実家は都心から離れた郊外にあった。
駅前には大きな病院もあり、活気に満ち溢れている。

療養も兼ねての帰省なので、母は実家からあまり外に出る精神状態でもなく、もちろん友達もいないので、どうやって1人の時間を潰そうかと近くの公園のベンチに座り考えていた。

「ねぇ、君どこの子?」

突然頭上から声が降ってきて驚いて顔を上げると、そこには小柄で垂れた大きな瞳をした子供だった。

何故だか優しく心地よい香りが鼻をくすぐる。

「この辺の子じゃないよね?1人で何してるの?」

今度はしゃがんで下から覗いてくる。
何故だか口元のほくろが気になってそこばかり見ていると、
「ねぇ、暇なら一緒に遊ばない?僕約束すっぽかされて暇なんだ!ね?」
にっこり笑った笑顔と気持ちをくすぐる匂い、口元のほくろに目を奪われて自然と顔を縦に振っていた。

「名前、教えてよ、ないと不便だし」

言ってもいいものか、子供の俺の顔はさらされてないけど、名前はきっとネットやテレビなんかでは連日報じられている。
それとなく言い淀んでいると、彼は何かを察したのか

「あー、名前言いたくない?んー、なら名前の一文字教えてよ!」

「……り…」

「そっかぁ、それならりーくん!それでもいい??僕は智、ともだよ!」

そう言って智は俺の手を引いて色々な場所に連れていってくれた。
ほんの短い時間で俺たちは昔からの友達のように仲良くなっていった。
毎日遊べるわけじゃなかったけど、なんとなく待ち合わせは出会った公園になっていて、そこから2人でどこに行こうか?と相談し合った。

智は見た目とは違い、結構やんちゃで、公園の木に登ったり、虫を追いかけ回したり、人ん家の果物を取ろうとして見つかった時は2人で死ぬほど走って逃げたりして、びっくりするほど活動的だった。

そうかと思うと図書館にいって、難しい本を一日中読んだり。

コロコロ変わるその姿に、俺は少しづつ夢中になっていった。


それからすぐ、俺は母親離れて住むことになった。
事情を知らない祖父母は一緒にここで住もうと言ってくれたが、じじいが手放す訳がないのでその事については納得していた。

ただ、彼と離れるのは意外にも寂しいと感じた。

あんなに誰かと一緒にいて心地よかったのは初めてだったから……。


母は元いた場所近くのマンションに。

そして俺は智洋に別れも言えずじじいの居る大阪へと向かった。
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